いざ、ファストトラベル!
「龍の国に行く!?」
俺の声が庭園中に響いた。
随所で手入れをしていた何人かのメイドは驚いた顔で俺の方を振り向く。
「嫌かい?」
・・・気が引ける。
今日は部屋でゴロゴロできると思ったのに。
ブルーレに接待されながら色々楽しく過ごせると思っていたのに。
そんな俺の様子を察したのか、イシヤは続けた。
「君も龍の国には行っておいた方が良いと思うよ。この世界について、まだ何も知らないだろう?」
まるでそこに行けば何かが分かるとでも言うような表現だ。
「それはどういうことだ?」
「ここでは詳しく話せないな。でも、来てよ。もっと君と話したいしさ。」
何か含みを持たせたような、気がする。
「うーん、そっか・・・でもそんな簡単に行けるもんなのか?もっと、ゲームとかだとこう・・・」
イシヤは先ほどのシリアスな雰囲気から一転、あたふたした俺を笑いながら相槌を打つ。
「分かる、終盤に行くところのイメージだよね。」
そしてイシヤは話を続ける。
「ま、安心してよ。僕はもう何度か行ったことあるから。凄く平和で良いとこだよ。」
「フラッと、みたいな感じで行けるもんなのか?」
「僕と一緒ならね。」
「なるほど、ルーラだな。」
それを聞いてイシヤはまた笑う。
「ふふ、君はドラクエ派だったんだ。でも残念。あんな凄い魔法はこの世界に多分ないんじゃないかな。」
そして「これだよ」と言いながらイシヤは首にかけた紐を引いた。
その紐の先には紫に光る宝石が繋がっていた。
「・・・いや、何だそれ。見ても分からん。」
「まあ着いてきて。」
そうして俺はイシヤに先導されてその"場所"に向かった。
歩くこと10分程度。
着いたのはこの城、アズ・アスタリア水城の入り口近くにある一つの建物だった。
その建物の重厚そうな扉には、両脇に門兵もいる。
イシヤは門兵に挨拶をし、書類(正確には門兵が魔法によって出したデジタルな画面)にサインを書いた。
その後、門兵とイシヤが少しの会話を挟んでいると、やがて重そうな門は重そうな音を立てて開いた。
「随分厳重な警備なんだな。」
「空港みたいなもんだからね。」
歩きながら話す二人。
「なぁ、ルカの行き方は誰にでも出来ることじゃないのか?」
「ああ、あれは契約した龍と互いに召喚し合っているに過ぎないんだよ。今回の場合はルカさんと契約した龍が彼女を召喚して、彼女はそれに応じた・・・と言った具合だよ。」
「そっか、じゃあ好きなところに行けるわけじゃないのか。・・・あれ?でも、ルカの契約してた龍って・・・。」
死んじゃったんだよな。
俺とルカの目の前で。
「彼女は多くの龍と契約しているからね。複数の個体との契約はその"生物騎士"にのみ許されているんだよ。そもそも普通はマナ・・・みたいなエネルギー量の問題で1匹が限界なんだけどね。」
「生命霊子ってやつだな。」
「その通り。見かけによらず博識だね。」
そしてイシヤの話からするに、契約する生物によって消費(実際には担保のようなもの)する生命霊子は大きく変わるらしく、なんと平均的な霊子の量では龍との契約さえできないようだ。
そんな龍と複数の契約が可能なルカはどうやら想像よりも大分凄い人間だったようだ。
「この世界にはワープとかファストトラベルの魔法は存在しないんだな。」
「いや、存在はするけど希少な能力らしい。固有スキルにしかその手の能力はないんだよ。ただ、その能力者の一人が国に貢献して、アイテムを触媒としてファストトラベルを可能にさせた。それが・・・」
どうやら話している間に目的地に着いたらしい。
イシヤは通路の終着点であった眼前の扉を「ここ、トラベルポートだよ」と言いながら開いてみせた。
中はそれこそ生前の世界の空港のように多数の人種の人間でごった返していた。
「うおぉ。」
俺は思わず感嘆の声を上げた。




