きっかけ
高一の春、まだ授業も始まって数日しか経っていないというのに私のクラスには妙な人間がいる。
それがピンク髪をポニーテールにして揺らしている妙な女だ。
「え、ado好きなの? 私も好きなんだよね.今度一緒にライブ見に行かない? 次のライブ2人分あたっちゃってさ、余ってたんだよね。一緒に行こうよ」
あの女はこのクラスの女子を一人ずつ誘い出してどこかへ遊びに行く。全ての女子と趣味を共にしているのか、全く気味が悪い。
理解ができない。しかし出席番号順で話をしているのを見るに次に来るのは私かもしれない。
奴と話をした女子は翌日にはその女子の話ばかりで仕舞いには他の女子とお互いにその女子の話で盛り上がっていく。
一体どういう事なのか、私には意味がわからない。どうしてあの女にみんな堕とされていくのか。
クラスの不安を感じながらわたしは日々過ごしていた。
▽
しかしその時はやってきてしまった。
「佐藤ちゃんってスプラ2やってるんだよね? 私もやってるんだよ! 一緒にやろうよ」
奴は――どこから仕入れたのか私の好きなゲームの名を出して誘いに出してきた。
確かに私は初代の頃からからそのゲームにハマってしまっている、
だけどそんな程度で揺れ動かされる私ではない。
私には遊ぶ友達がネット上で沢山いるんだ。リアルで次々と女子を堕としていくこんな奴と遊んではいられない。
「ごめんね。一緒には遊べないの」
「え? なんで!?」
なぜと聞かれると私が何となく貴方の事をなんとなく嫌いだからだ、とは言い難い。
どうしたら断りやすいのだろうか。私の好きなゲームは協力ゲームである以上お互いの腕前が離れているから遊べないと挙げてみようか
「私、一応スプラで最高腕前のS+でさ、そっちの腕前はいくつなの?」
「ええと、まだB+なんだよね。でも発展途上だよ? 可能性が無限大に満ち溢れてる存在だよ?」
「ごめん。流石に腕前が違いすぎて遊べないわ。また明日」
無理やりにでも切り上げて手を振ってお別れをする。向こうも渋々とした様子で私に手を振り返してきた。
正直に言えば奴の顔は可愛い方だ。あの人懐っこいコロコロ変わる表情に惑わされる他の女子たちの気持ちだって多少は分かる。
しかし私は惑わされない。あんな誰彼構わず話しかけて仲良くなるクソビッチに負ける訳が無い。
それからは私に話しかけてくることもなくなった。私の出席番号を通り過ぎて他の子に話しかけている。私を差し置いて……。
もう私のことも忘れたかな?と思った頃に奴は話しかけてきた。
「佐藤ちゃん! 私頑張ってS+に上がったの!! これで足は引っ張らないよ! 一緒に遊ぼう!」
それは唐突に来た。私の机に手を着いてジャンプしポニーテールが揺れる。
あんなクソビッチなんてどうでもいいはずなのに、視線が無意識に彼女を追っていた。
振りほどこうとしても少しでも浅く広い知識で誰かと少しでも接点を持とうとして明るく話しかける彼女に目を背けられなかった。
私はどう答えるのが正解なんだろうか。
同じ腕前のS+に上がられた以上答える理由が思い浮かばない.私と遊ぶ為だけにそんなにゲームを遊だんだろうか.それとも別の理由があるのだろうか。
別の理由があるなら……って考えるとなんだか胸がモヤモヤする。なんなんだろう。
「………いいよ、一緒にスプラ2しよ」
私以外にも沢山友達はいるだろうに……一世一代の告白でもしたように顔を固めている彼女に私は渋々了解
の返事をしてしまっていた。
「――っやったー!」
席に座っている私の手を握って席を立たせてハグをしてくる。
「ありがと!」
「―――――!!!!!」
突然のことに同様にしたのか妙に鼓動が早くなった。抱きしめられて顔が横に来て息が耳にかかってゾワゾワする。
「――っ足引っ張ったらすぐ終わるから……」
何とか突き飛ばして指を指して前言する。
それに対して彼女は自信満々に、
「佐藤ちゃんが動きやすいようにサポートするからね」
と笑顔で返事するだけだった。自分が楽しくキルする以外で何が楽しいのやら。
やっぱり理解不能な存在――橋本と私は遊ぶことになった。何度も。