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完全迷宮化した深部の手前にある円形の、半ば凍った巨大植物の葉の屋根のある砂時計の上みたいな所で今日は泊まります。

だいぶ悪くなってきていたミシュラさんとチャパさんにディスペルを掛けてマナ酔いを解き、ついでに平気らしいマタキチさん達以外の全員に緩めに保温魔法(ウォーム)を掛けます。


「淵招き・凍結種の肉はしっかり燻製にしても半生に仕上がるようですぞ?」


「今から燻製を作る気かね?」


バミーさんに呆れられつつ、ミシュラさんは上機嫌で調理を始め、テッシモさんは朗々とマナを込めて治癒の歌を歌い始めました。自由ですね・・


燻製以外の調理はタツゾウさんとマタキチさん、簡易防寒テントの設営はポーターのお二人が担当してくれました。

タツゾウさん、凄い働き者ですね。僕も取り敢えずジンジャーティーを淹れて皆に配ります。生姜好きなんですよ。


「婚活殿。ダンジョン主の愛人は寿命が縮むというのは本当かい?」


ほら、バミーさんにまで呼び方悪化してるじゃないですかっ。


「・・過去の例からするとそのようですが、帰還後、生命霊薬(エリクサー)が1本支給されるそうです。差し引きトントンと言った所ですかね?」


忘れがちですが僧侶職なので、わりとデリケートな話題ではあります。


「忌々しいことだ。私は女達に夢を売っていただけだ。売ったら料金を取る。普通の商売と思わないかね? 婚活殿」


「過払いだったのかもしれませんよ」


僕の立場ではこれ以上言えません。ふん、と鼻を鳴らされてしまいました。


「私とミシュラはここまででインスピレーションを得た! 十分だっ」


粗末な紙を束ねたメモ帳に細い木炭でクロッキーを描き連ねているトンボさん。


「再活躍、期待しています」


サロンは他の町にもあります。


「魔物の前で踊るのに比べたら、田舎の劇場で賑やかす所からまた始めてみるのもいいかもしれないよ」 沁々と茶を飲んでいるチャパさん。


「ですね」


彼も別の町に移った方がいいと思います。


「はぁ~っ、スッキリした! こんなマナの強い絶景で己の命を感じて歌ったことはいです。新しい曲のイメージが湧いてきましたっ」


治癒の歌を歌い終え、自分と僕達の体力をそこそこ回復してくれたテッシモさん。憑き物が落ちた顔をしてらっしゃいます。


「ポーション1本節約できました」


地力はあるはずです。素養の無い方にマジックソングの類いは歌えませんからね。


なんだか皆、大丈夫そうな気がしてきました。バミーさんも取り敢えず懲りてはいるようですし!


やがてできた淵招き・凍結種の燻製は何とも不思議な味でした。


強力なマナの、深部の構造は密閉的で屋根が多く低温から霙も雹に変わるので、マタキチさん達を含め全員レインコートからフード付きの防寒コートに変えグローブをして、スノーシューに履き替えました。


あちこち凍結した深部の迷宮を魔除けの道と照明魔法(ライト)を頼りに進んでゆきます。

大型の魔物と中型の強壮な魔物、小型の魔物の大群・・ここまで来ると、魔物だけで小さな生態系が成り立っているようで、植物の変質した物ばかりです。

ミシュラさんやチャパさんだけでなく、僕とタツゾウさん以外は充填式のマナ耐性を上げる指輪のアクセサリーを使用してもらっています。


最初から使ってしまうと最低限度、慣れることができないままに深部に来てしまいますからね。


「マタキチさん、ここで昨日と同じような試しをされたら全滅しかねませんが?」


「ゲッコー。問題無いです。ダンジョン主様が愛人候補の訪問者を全滅させたことはないですから! 徳の高い御方ですよっ」


不良が捨てられた仔犬の世話をしたら評価される、みたいな理屈ですね。


しかし僕達の出発は日報紙に報じられていますし、これは町と雨宮の主との間の慣習でもあります。


「わかりました。進みましょう」


僕達は一筋の魔除けの道を進み続け、途中の野営地で長めの休憩をし、身綺麗にして支度を整え、そして、


すっかり霜付く宮殿その物になった深部の先にあった、主の間へと僕達はたどり着いたのです。


「来たか、花婿達。ふふ」


マタキチさんは即、平服し、ポーターの2人は荷物を下ろして続けて平服しました。


虹色の鱗を持つ、泉のような広さの八角形の寝台を覆う長い大蛇の尾。妖艶なロングレッグ族に似た美女の上半身。圧倒的なマナの強さ!


「ロディ・サマーファンと申します。今回のお見合いのサポートを担当させて頂きます」


「わらわはノロスボロシャ、雨宮の主」


ノロスボロシャ、確かラミアの言葉で凍えた流星といった意味。もう名前がボスですねっ。


「俺は護衛だ。参加はしない」


動じず、しっかり断りを入れるタツゾウさん。強い。


「ふふ、ワーリザードにフラれたね」


「貴様! そこのトカゲっ。護衛は黙って案山子のように立っておけっ!」


主の存在感が凄過ぎて気付いてなかったのですが、寝台の脇により歳若いラミアもいました。


ラミア族。女だけの人型上位種族。寿命は1000年を越え、休眠を繰り返す種族でもあります。

彼女達は他の人型種族の男達と交配し、その血を取り込み力を高めた次世代のラミアを産むことを繰り返します。

比較的縛りが甘く主不在のダンジョンを好んで乗っ取り主となろうとする習性もありました。

これは、彼女達がマナの濃厚な環境以外では生命を長く保てないからだとされることもありますが、詳細な研究に成功した学者はいないです。


彼女達に近付き過ぎた人型種族は男も女も虜にされるからだとされています・・


「さて、術や私の体液で誘惑するのは容易いが、誰にするかな? スァクの見立てはいつも悪くはないが」 尾をうねらせ、愛人候補の皆さんに近寄る雨宮の主。凄い美人で豊満で、クラクラするような甘い香りがしますが、迫力があり過ぎて皆さん、仰け反り気味でした。

その頬を順に撫でてゆき、最後に僕の頬も撫でましたっ。


「僕はサポート役です!」


「あら、そう。可愛い角当てなのに」


霜焼け対策の左の角当てを摘まんできます!


「っ!」


飲み会等で安易にハーフエルフやエルフにやっちゃいけないマナー違反ですっ。


僕らは耳、弱いから!


「市販品です。とにかくっ」


僕は無の顔をキープし、スッと主の右手を退けました。


「コラっ、そこのサポート役! 姉様がニギニギしているのだから、大人しくニギニギされていろっ。無礼者!」


「いいわ、マリシャ。騒がないで」


「ぐっ?」


すんごい睨まれてますっ。妹さん??

怯んでいると、バミーさんが咳払いしてきました。そうだ、進行しなくては!


「はい。では・・アピールタイムに移らせて頂きますっ!!」


僧侶として! 医療従事者として! ベテラン婚活者として! 町長の手先として!


今、ここにっ、全キャリアを賭ける時が来たのです!!!

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