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ダンジョン主に招かれてゆくので、2日もあれば深部の主の元へ着けるはずですが、一応念の為にマタキチさん以外にワーフロッグ族の荷負人の方も2人付いてもらいました。
これで同行者は9人です。
既にノロス雨宮の中域まで来ていました。マナが強いです。
通常の動物は見掛けなくなり、マナの影響を受けてやや変質した魔物未満の動物と、中型ないし小型でもそこそこ強壮な魔物を見掛けます。
中域も基本的には解放型の野外ダンジョンなのですが、ここの基本的な構成素材らしき木の根、蔓、巨大な水草、土、岩、氷等が盛り上がって、迷路を形成しつつあります。
透けて見える水中や薄氷の下はほぼ迷路になっていますね。
道化のチャパさんと料理人のミシュラさんはマナへの耐性が低いようで早くも顔色が悪くなってきています。
もう一段症状が進めば解除魔法を応用して、取り込み過ぎたマナを抜く必要がありますね。
「ゲコ! 直に魔除けの野営地ですが、ダンジョン主様は十中八九、試し、を仕掛けてきます。気を付けて下さいね」
「試し?」
聞いてませんが??
「ダンジョン主様は、弱くて運が悪くて踏ん張りの利かない男は嫌いなのですっ。ゲロゲーロ」
事も無げに言うマタキチさん。合わせて、
ザザザザッッッ
近くの沼地が音を立ててざわめき立ち、アーチ状になっていた通路も、ギギッ、と急に下がって曲がり、沼に岸辺に近付きだし、掛かっていた魔除けの結界が解除されました! これはっ、
「タツゾウさん、備えて下さい!」
「おう!」
私も耳栓を取りました。霙混じりの雨音がうるさくても、聴こえ難いよりマシです!
「バミーさん以外に戦いの心得のある方はいますかっ?」
「婚活先生、我々は暇な女と見合いに来たはずだがね?」 言いつつ、鋸刃の小太刀を2本抜いて、シューっ、と威嚇音を鳴らしだすバミーさん。
「看破魔法のみ唱えられるぞ?」
トンボさん、結構レアな魔法使えますっ。
「治癒の歌を歌えます。5分程掛かりますがねぇ、ララ~」
テッシモさんは野営地に着いてからのケアですかね?
「特に何も! しかし食べられる魔物なら戦闘後に調理しますぞっ?」
ミシュラさんも野営地に着いてから頼みましょうかっ?
「えっ? 魔物と戦うの?? い、一応、誘うステップ、くらいは踏めるけどっ」
イメージ通りリスキーな技を習得していたチャパさん。
「マタキチさんはポーターの方々を守って下さい! バミーさんは他の皆さんをカバーして下さいっ」
「了解ゲコ!」
「4人もっ?! 私は戦闘のプロじゃないっ!」
ここで沼からちょっとした小屋を齧れそうなサイズの両生類型の魔物、淵招き・凍結種が渦から岸まで踊り出てきましたっ。
「ペェウゥゥーッッ!!!」
鳴き声はわりとユーモラスですが、殺る気満々です! 周囲の水分を凍結させ始めていますっ。
「火の城壁を!」
ちょっと人数多いですが全員に火の守護魔法を掛けますっ。
タツゾウさんが槍を手に、冷気を僕の炎の守りで凌ぎながら突進!
「お見合いからリタイアを規模する方は無理せず、通路の魔除けが有効な辺りまで後退して下さいっ」
「見合いとはそんな命懸けでするものかねっ。おおっ?!」
淵招き・凍結種が大きな氷片を操って飛ばしてきたので慌てて、火の守護を受けた小太刀2本で自分と背後の4人を守るバミーさん。
随分前にクビになっていますが4級戦士職の認定を冒険者ギルドから受けたこともあったはずです。
「タツゾウさんっ、お見合い参加者が狙われてます!」
「わかってるっ、こんなバカな仕事は初めてだ!」
柄まで金属の重い槍で淵招き・凍結種とカチ合うタツゾウさん。僕ももっと支援したい所ですが、大人数のファイアウォールの負荷が大きく、厳しいです。
無視されてる風のマタキチさん達だけ解除するというワケにもゆきませんしっ。
「我々も協力するぞ!」
「え? オイラもっ?」
バミーさんの背後からヒョイっ、と顔を出したトンボさんに一緒に引っ張り出されるチャパさん。
「オイっ?」
慌てるバミーさん。
「虚飾を突く!」
サーチアイを発動するトンボさん。
「むむっ? 左前肢の肘のダメージが利いてるぞ! 狙い目だっ!」
「ああ~、じゃあ! 誘うステップ、踏ませて頂きますっ。そいやーっっ」
マナを込めて岸辺の凍える泥濘で奇妙に踊り出すチャパさん。
「ペェウ?」
誘うステップの効果で関心を引き付けられる淵招き・凍結種。
「オォッッ!!」
その隙に左肘を穂先で切り裂くタツゾウさん。
これでバランスを崩し、派手に自分が作った氷面を割って仰向けに転倒する淵招き・凍結種。
ここは優先順位! 僕はタツゾウさん以外のファイアウォールを解除し、
「楔を!」
捕獲魔法を発動させ、淵招き・凍結種の右前肢と尻尾をマナの鎖で縛って封じました。
「よくやった! 婚活っ」
「呼び方っ」
ともかく、跳び上がったタツゾウさんはマナを込めた槍を大振りで打つ突き技、トロール狩り、を淵招き・凍結種の喉から頭頂部まで貫き、仕止めました。
「お見事ゲコー!」
マタキチさん達は見てただけですっ。
「はぁ・・、お気に召したでしょうか? ダンジョン主さん」
ため息をついて霙雨の先に霞む、ノロス雨宮の深部の、球根型の凍り付いた宮殿を見上げました。
宮殿の主の間ではとぐろを巻いた1体のラミアが、宙に浮く物見の球に映したロディ達の姿を物憂げに見詰めていた。そこへ、
「姉様!」
物見の球を見るラミアより歳若く見えるラミアが主の間に入ってきた。
「見合い何てしてる場合じゃないよっ! やっぱり他のラミアが雨宮に入り込んでる! 流れ者だっ。対策立てよう」
「・・任せたよ、マリシャ」
「もうっ、もっと真面目にダンジョン主やってよ! 大体いつもさぁっ」
エリシャの小言を聞き流しながら、ノロス雨宮のダンジョン主、ノロスボロシャは口元にわずかに笑みを浮かべ、物見の球を見詰め続けていた。