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「結果報告」

 三人でソウタとメイ先生を待つこと数分間後、二人が学校から校庭に向かって歩いて出てくる姿が目に入った。


「あら、凄いわね……!」


 メイ先生は、沢山のイノシシ達に囲まれている僕達の前で立ち止まり、小さく声を出した。いつも冷静沈着な先生には珍しく、心底驚いたような表情をしていた。


「どうですか、メイ先生!俺たちがやったんですよ!!」


 メイ先生の隣で、ソウタが嬉しそうにはしゃぎだす。体は巨大だが、はしゃいでいる様子はオモチャを買ってもらった子供みたいでなんだか可愛い。


「さすが、私が担任をしているクラスの子達ね。あなた達なら完璧にできると思っていたわ。うんうん」


 僕達はメイ先生に褒められて素直に嬉しくなり、自然と笑顔がこぼれる。ただ、なぜかツグミさんの表情は暗く、誰とも目を合わせたくないかのように下を向いていた。


「私が最後にこの子達を眠らせたのです!一匹一匹丁寧に魔法をかけて!真心こめて!」


 急にミリンが手を高く挙げたかと思うと、ここがアピールチャンスだとでも言わんばかりに、自分の成果をメイ先生に説明しだす。今日一番テンションが高い。自分だけなんかずるいな、とも一瞬思ったが、実際イノシシを捕まえられたのはミリンのおかげである部分も多いから、僕は何も言わないでおくことにした。


「ミリンさんが眠らせたの?……そんな魔法も使えたのね。」


 メイ先生は手を顎に当てて歩きながら、興味深そうに眠っているイノシシの一匹一匹を観察しだした。すると、それに気づいたのであろうツグミさんが顔を上げ、突然メイ先生の方に駆け出した。


「……メイ先生、このイノシシ達をちゃんと捕獲したいんです。早くしないと起きてしまうかもしれないと思って」


 イノシシを観察して歩くメイ先生の前に、立ちふさがるようにツグミさんがスッと立つ。少し身長の高いメイ先生がツグミさんの顔を見下ろす。ツグミさんはメイ先生と話しているはずなのに、頑なに目を合わせようとしない。


「……?」


 メイ先生はツグミさんを一旦スルーして周りのイノシシ達の観察を続ける。そして、一匹のイノシシを目を細めて見た後、何かに気づいたような顔をした。


「この子はどうしたの……?」


 メイ先生は、沢山の眠っているイノシシの中から、一匹のイノシシを摘まみ上げる。そのイノシシからは赤い血が垂れており、目は白目を向いて黒目が行方不明になっていた。きゃああ!、とミリンが高い声で叫ぶ。眠っているイノシシ達がゆっくりと呼吸をしてお腹を膨らましたり凹ませたりしている中、その摘まみ上げられたイノシシだけはピクリとも動いている様子が無かった。おそらくだが、もう既に死んでいるのだろう。――それは、僕とソウタがさっき見た、青色にオーラにぶつかって倒れたイノシシだとすぐに分かった。オーラが無くなりミリンの無事が確認できた後、すっかり血を流していたイノシシのことは忘れてしまっていた。


「あ、それは……」


 ぼくは自然と声が出てしまう。真実を伝えようとしたのか、ツグミさんを庇おうとしたのか、自分でもよく分からない。ただ、この後に続く台詞は僕の口から自然とは出てくれなかった。


「……今回、あなた達になんてお願いしていたか、分かっていますか?」


 少しの沈黙の後、メイ先生が丁寧な言葉で僕達に問いかける。メイ先生の怒りが、空気を伝わって僕達の鼓膜を震わせた。やばい、やばい、やばい、と頭の中で思考がグルグルする。


「子供のイノシシを……ケガをさせずに捕まえるようにと……おっしゃっていました」


 メイ先生の気迫に全員が怖気づいてしまっている中、ツグミさんが声を震わせながら答える。


「そうですよね。じゃあ、この子はどうしてこんな目にあってしまったのでしょうか?」


 メイ先生は血に染まったそのイノシシを我が子のように抱きかかえた。その姿はまるで我が子を亡くした母親のようにも見えた。赤い血がメイ先生の服と体を染めていく。


「……私が、上手に魔法を使えなかったからです。相手が子供のイノシシだからと、雑に仕事をしたからです。すべて私の責任です。先生が信頼してくれたのに、私は裏切ってしまいました」


 淡々と、真剣に、ツグミさんが答える。ツグミさんの瞳からは今にも大粒の涙が流れてしまいそうだった。


「……ツグミさんだけの責任じゃないです!!こうなったのは俺達全員の責任です!!」


 ソウタが大きな声でツグミさんを庇う。僕とミリンもそれに同調する。これは四人でやった仕事なのであって、ツグミさんだけに責任があるはずがない。


「まあいいわ。……あなたには期待していたのだけれどね、ツグミさん」


 その言葉を聞いたツグミさんは、膝から崩れ落ちて泣き出してしまった。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」


 僕達はそれをただ見つめながら、何も言うことができなかった。ミリンがツグミさんの横でしゃがみ、無言で背中を優しく撫でる。


「……100点ではないけれど、ここまで四人で協力して頑張ったことには感心しているわ。ただ、魔法を使うのは危険も伴う訳だから、しっかりと注意しておくこと。今回は人間に被害が無かったけれど、下手したら人間が死んでしまうことだってあるわけだからね」


「……はい」


 僕達はそれぞれ返事をする。魔法は使い方を間違えたら人をも殺せてしまう、という恐ろしさは僕もよく知っている。今回、四人でしっかりとした計画は立てられておらず、危機管理ができていなかった。僕は反省し、そして少し落ち込んだ。


「あとは私がちゃんと捕まえておくから、君たちはもう帰りなさい。始末書も私が書いておくわ。」


 先生はステッキを取り出し、イノシシ達を浮かび上がらせたかと思うと、マジシャンのようにどこかに消した。


「……ご苦労さま。頑張ってくれてありがとうね」


 メイ先生は僕達に向かって、優しい笑顔でそう言ってくれた。そして、一人校舎の方へと向かって帰っていった。ツグミさんはまだ泣き止まず、しゃがみ込んだままだった。



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