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「涙の理由」

 いきなり声を掛けられたミリンは、挙動不審という言葉がぴったりと当てはまるように慌てふためいた。まさに挙動が不審な状態だった。


「わ、え、ミクジ……えっと、どしたん?」


 ミリンはひとしきり慌てた後、再び顔を下に向けて僕にそう言った。ショートヘアの黒髪で表情が綺麗に隠れた。


「……それはこっちのセリフでしょ。どうしたの?ミリン」


「ん……」


 ミリンはうまく返事ができないようだった。何があったのかは気になるが、あんまり深く聞くのはやめておこう。


「もうすぐ学校始まっちゃうよ?遅刻したら、メイ先生に怒られちゃう」


 僕は、丸くした両手を眼鏡みたいにしてメイ先生の真似をした。ミリンは僕の方をチラッと見て、クスッと笑った。


「……ちょっと笑っちゃったやんかぁ」


 ミリンは、小さな声でボソッとそう言った。そして、メイ先生はそんな真ん丸な眼鏡じゃないけどね、と付け加えた。僕は全くボケたつもりは無かったのだが、ミリンの機嫌が良くなったようで安心した。


「大丈夫?学校行けそう?もう遅刻はほぼ確定しちゃったけど……」


「うーん、あんまり行きたくないかも……。」


ミリンの顔が少し暗くなる。


「……そう、なんだ。……通学中にケガとかしちゃった?」


「ううん。そんなことはないよ。なんか、学校に行くのが嫌になってきちゃっただけ。……学校に行っても楽しくないし」


 学校に行っても楽しくない、とミリンが言うとは思ってもいなかった。ミリンはクラスでも明るい存在で、友達もかなり多いタイプだ。確かに魔法の勉強は苦手そうだったが、だからと言って学校に行きたくなくなるほど嫌だという風には見えなかった。


(……もしかしたら、僕の昨日送ったメッセージが原因だったりするのか?学校で僕に会いたくないと思うほど、何か不快なことを送ってしまったのだろうか)


 あまり深い詮索はしたくないが、1つだけミリンに聞いておきたいことができてしまった。僕は口の中に溜まってきた唾を飲み込んで、ミリンに質問をした。


「……考えすぎかもしれないんだけど、僕がなんか嫌なことしちゃった?昨日のメッセージ、とか」


 ミリンは目を丸くして僕の方を見た。まさか僕がそんなことを言うなんて思ってもいなかったような顔だ。


「……うん、嫌なことした。ミクジが嫌なことしてきたぁ!」


 ミリンは、何故か顔を赤らめながら、僕を睨んで大きな声でそう言ってきた。そして、大きな声を出して勢いがついたのか、畳みかけるように僕に質問を投げかける。


「花火大会、気になる女の子と行くんだ?」


「えっと、まあ、うん。まだ行くのが確定したってわけじゃないけど……」


 しどろもどろになりながら、ぼくはそう答える。ミリンは僕が他の女の子と花火大会に行くことに嫌な思いをしていたのか……?学校に行きたくなくなるほどに。


「ふーんっ、そうなんや。……ミクジはその子と付き合いたいん?」


 僕は答えに困った。ツグミさんと花火大会に行くつもりではあるが、ツグミさんと付き合いたいという訳ではない。あくまで、レンを救うための手段としてツグミさんから愛の告白をされるところが僕の目指す最終ゴールだ。その後のツグミさんとの関係性がどうなるのかは、僕にもまだよく分かっていない。


「えぇっと、まだ付き合おうとまでは考えていないかなぁ。あくまでその子が気になっているってだけで……」


 僕は正直にそう答えた。


「……ってことは、まだ他の女の子がミクジと付き合うチャンスはあるってこと?」


 予想外な質問が来た。ミリンは、なんでそんなことを聞いてくるんだ?頭の中で様々な考えを巡らせるが、答えは出ない。というより、答えらしきものは自分の中であったが、その答えに確信を持つにはあまりに情報が少なかった。僕はその質問にも、今の正直な気持ちをこたえることにした。


「……うん。僕にも本当に好きな子が出来たら、その子と付き合いたいと思うのかもしれない。」


 僕がそう言うと、ミリンはにやけるのを堪えるような顔でふーん、と言った。男女が付き合うということが、僕にはまだよく分かっていない。経験もないのに分かっている方がおかしい、と言われたらそれまでだが。ただ、本当に好きな子が僕にもできたのなら、僕は付き合いたいと思うのかもしれない。そういう風に感じるようになってきた。


「じゃあそのチャンス掴めるように、私頑張るからね……!」 ついさっきまで暗い顔をしていたミリンの顔は、顔を交換したての某アンパンヒーローのように元気百倍な笑顔になった。僕はそのあまりの変化に可笑しくなってしまったが、僕は暗い時のミリンよりも、明るい笑顔のミリンの方が好きなんだな、と気づいたのだった。ミリンはそんな笑顔でまっすぐに僕を見つめてきたが、急に自分の顔が熱くなってきていることを自覚していた僕はまっすぐにはその笑顔を見ることができなかった。



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