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「レンの行方」

魔法学校の校庭で、冷たい風の音だけが静かに聞こえる。さっきまでの出来事が嘘だったかのような静けさだ。


 校庭に大きく描かれていた魔法陣は無くなりただの地面となり、ツグミさんは裸のまま大きく伸びをした後、思い出したかのように周りを見回した。僕は気づかれてしまわないか今にも心臓が爆発しそうだ。


「あ、これが他の男子に見られたらヤバいよね……。どうしよう」


 ツグミさんは、漫画のキャラクターみたいに首をかしげて悩みだした。レンとの出来事があった後でも、悩んでいる彼女の横顔やその体つきはとても綺麗で、それを遠くから見ている僕はいろんな意味で頭がおかしくなりそうになる。


「とりあえず、これも食べておくかぁ」


 彼女はそう言って、ステッキを手にもって地面を叩くと、羽の生えたブルドッグのような犬が1匹地球の裏側からすり抜けてきたかのように現れた。


 羽の生えたそのブルドッグは大きな舌を口からぶら下げながら、お利口そうにお座りをしつつも、下品によだれを垂らしている。


「さぁ、今日は贅沢なご飯だよ!でも、お利口だからちゃんと待てができて偉いね……!」


 その犬は小刻みに震えながら、お座りをし続けている。ツグミさんは、待て、と何度も言って我慢を続けさせようとするが、その犬は10秒も持たずにお座りを辞めて、本能のままに走り出してしまった。そして、ご主人様の待てという声を無視しながら、恐らくレンであろう人間の抜け殻をドックフードのようにわしゃわしゃと食べ始めた。


「あらら。やっぱり我慢できなかったね」


 その犬が食事を終えると、ツグミさんは次はちゃんと待てをするんだぞ、と言いながら嬉しそうに犬の頭を撫でた。犬も嬉しそうにツグミさんの肌を舐める。レンの姿は、跡形もなく無くなってしまった。


「あっ、また学校で裸のままだった」


 ツグミさんは、慌てて全身をなぞるかのように手を動かすと、いつの間にか元の制服姿になっていた。衣装チェンジは魔法少女や魔法使いにとって基本的な魔法で、ステッキが無くてもできる人は多い。


 そして、僕はこんな状況下に居ながらも、なぜかツグミさんが制服を着てしまったことにちょっとがっかりしてしまっていた。もうちょっと近くで見ておけばよかったな、と思ったりもした。


「ヴワンッ!!!」


 突然、ブルドッグが吠えたかと思うと、よだれを振りまきながら僕の方に向かって走り出す。ヤバイ、と思った僕は咄嗟にホウキを取り出して急いでまたがり、逃げろ、逃げろ、逃げろ、飛べ、飛べ、飛べと意識を眉間に集中させる。


――シュッ


 ホウキは僕の体を持ち上げ、左右に大きく揺れながらも空を飛び始める。僕は必至でホウキに掴まって、振り落とされないように力を入れる。


(と……、飛べたぞ!)


 僕がまたがったホウキは何本も藁が抜けていきながら、ジェットコースターのように上へ上へと空を走っていく。逃げろ、逃げろ、逃げろ、もっと飛べ!


「ヴワンッ!!ワン!!!」


 ブルドッグの大きな口が、突如僕の目の前に現れた。喰われる、と直感的に分かった。生きたままブルドックに食べられるのなんて最悪な人生すぎる。死んだあと葬式で死因を聞いたみんなは一体どういう感情になってしまうんだ。


……いや、今は葬式なんてどうでもいい、とにかく逃げろ、逃げろ、逃げろ、空へ空へ逃げることだけに意識を集中させて――


 僕の意識がホウキに伝わり、ホウキはさらに高く高く空へ向かっていく。高さは魔法学校の校舎を超え、下を覗き込むとツグミさんが豆粒みたいな大きさで地面に立っている。


(これ以上は、持たない……かも)


 ふと僕の意識は薄れ、ホウキから足が外れてしまった。クラスでも下から数えたほうが早いくらい魔法が下手である魔法使いの僕が、ここまで高くに飛べただけでも奇跡だったのだ。火事場の馬鹿力という言葉を授業で習ったばかりだったのに、空を飛べたのは自分の実力だと勘違いしていた。


 僕の体は重力に逆らう力を持たず、そのまま、そのまま重力に引っ張られ魔法学校の校舎よりも高い空から地面に向かってまっすぐと落ちていく。


 地面に叩きつけられて死んでしまうか、魔法少女に殺されてしまうか、どっちが比較的痛くないのだろうか。僕は薄れた意識で、なぜかそんなことだけを考えていた。



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