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「返信、来ず。」

 毎朝聴こえてくる、名前の分からない鳥のゴキゲンな鳴き声が僕の耳まで届く。何度スマートフォンを見ても、ツグミさんからも、ミリンからもメッセージは届いていなかった。僕は寝不足でぼーっとしながらも寮を出て、いつものように魔法学校に向かった。だが、周りには僕と同じように登校をしている生徒はおらず、違和感に襲われた僕はスマートフォンで時計を表示させた。


(やばい、寝てなくて時間感覚がおかしくなってたけど、このままじゃ遅刻しちゃう時間帯だ……!)


 スマートフォンは何度も見ていたが、僕が気にしていたのはツグミさんやミリンからの返信通知だけで、時間は全く気にしていなかった。


 僕は強くコンクリートを蹴り、大きく股を広げ、速足で通学路を歩いていった。何本もの電柱が視界の横の方をベルトコンベアのように流れていく。いつもより速く等間隔に並べられた電柱が視界を流れていくのがどこか気持ちがよく、遅刻しそうになっていることを忘れそうになる。


 そんなことを考えていると、等間隔に並んだ電柱と電柱の間に一人の少女が立ちすくんでいるのが視界に入る。黒髪のショートヘアで、僕と同じくらいの身長で、僕と同じ魔法学校の制服を着ている。おそらくこの道路が通学路で、学校に向かっている途中で何かあったのだろう。


(……ミリン?)


 僕はその少女がおそらくミリンであることに気づくと、何故か心臓がドキドキとしてしまっていた。昨日ミリンから届いたメッセージを見た時も、メッセージの返信を送った時も、何も思わなかったのが嘘のように思えた。その心情の変化は、実物のミリンをこの眼で見たからなのか、ミリンからメッセージの返信が来ていない気まずさからなのか、僕自身でも判断がつかなかった。


(……気づいていないフリをして通り過ぎよう。今このタイミングでミリンに話しかけるのは気まずいし、面倒ごとに巻き込まれて遅刻でもしたら、メイ先生に怒られて二重に面倒くさい)


 僕は歩くスピードをさらに上げ、そのミリンらしき少女を気にせずに通過していくことを決めた。もしかしたら、話しかけられるかもしれないと緊張しながら、ぼくは何も知らない何の感情もないへのへのもへじのような顔で歩いていく。もしミリンから話しかけられたらその時はその時で、どうして返事をしてくれないのかの理由が聞けるかもしれないから、どう転んでもオッケーだという目算をしていた。


 僕が速足でその少女を通り過ぎようとした瞬間、彼女は僕に気づきじっと顔を見つめていた。そのことに気づいた僕は目を合わせないように黒目の位置をまっすぐに固定しながら、ただ足と腕だけを機械のように動かし続け前に進んでいった。いつの間にか僕はその少女から遠く離れたところまで歩いており、また等間隔で電柱だけが何度も何度も通り過ぎて行った。


(本当に何も、起こらなかった)


 僕の目論見通り、何のイベントも会話も起こらず、ただ男と女がすれ違っただけだった。ボーイミーツガールな漫画やアニメだと、どちらかが食パンをくわえてぶつかったりするのだろうが、そんなことは現実に起こらない。食パンをくわえて遅刻しそうになりながら登校するなんて異世界転生よりもファンタジーな話だ。僕からミリンに話しかけることは無かったし、ミリンから僕に話しかけることは無かった。それだけだ。


(これで、いいのか……?)


 レンが殺されてしまった日の翌日、落ち込んでいて、疑心暗鬼になっていた僕に通学路でミリンが声を掛けてくれたことをふと思い出した。


『……私もね、一人にしてほしい時とかよくあるんよ。学校でも家でも、うまくいくことばっかじゃないからさ。……まぁ、なんかしんどいことでもあったら私がいつでも相談に乗ったげるから』


 ミリンは僕にそう言って、あの日の苦しかった僕を気にかけて、出来る限りの言葉を掛けてくれた。それなのに僕は今、困っているミリンを無視して、学校に一人だけ間に合おうと歩いている。


(それは、おかしいよな。人間として)


 僕は機械のように動き続けていた足を止める。そして僕は通り過ぎてしまったミリンの方へ歩みを進め出した。遠くでミリンはまだ立ちすくんでいる。ミリンに何があったのかは分からない。ミリンのことだから、歩くのに疲れてただぼけぇっとしているだけかもしれない。だが、それならそれで一緒に学校に向かえばいいだけだ。


 一度通り過ぎた道を戻っていき、何度も何度も電柱を横切った後、ミリンが下を向いて立っているのが鮮明に見えるようになってきた。彼女は今にも自分で自分の体を支えきれなくなりそうにフラフラとしていた。


「……」


 僕は一呼吸をして、気合を入れる。(1.2.3.ダーッ!と心の中で叫び)自分の頬を両手で左右同時にはたく。昨日の今日でミリンとはなんか気まずい、なんて気にしていても仕方がない。話しかけるときの台詞も、会話の話題も、頭の中には何もないがとにかく話しかける。


「……ミリン、どうしたんだ?」


 僕が話しかけると、ミリンは顔を上げて僕の方を見る。驚いたような顔をした彼女の瞳にはうるうると涙が溜まっており、頬にはアイシャドウが流れたのであろうキラキラが目元からなだらかな線を引いていた。

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