04
前の日とは打って変わって、大雨が降った村は悲しみに包まれていた。
「嘘だ!フィー!!」
少年の悲しげな悲鳴を大人たちも涙を流しながら制止する。棺に駆け寄ろうと、大声で泣き喚きながらもがくアルベルトを大人2人係でやっと抑えていた。
大きな墓穴の前に立てられた墓石には、ソフィアの名前が刻まれている。
話しは十数時間前に遡る。
草むしりから帰ったソフィアを出迎えたのは母と、休憩中に見た黒ずくめの調査員2人だった。
母のローズは、唖然とするソフィアに駆け寄り、抱きしめた。
男達はソフィアに淡々と説明を始めた。
皇子の婚約者の影、つまりは身代わりに選ばれた事。
村を出ないといけない事。
もう二度と村人とは会えなくなる事。
ただし、母親の生活と治療は保証してくれる事。
それと、
「これは決定事項です。拒否はできません。」
断る事は出来ない事がわかった。
ローズは嗚咽を漏らして泣いていた。ソフィアは訳がわからなかった。
「明日の朝、出発します。何か質問は?」
言葉が出ないソフィアをよそに、調査員達は淡々と続ける。
「では、それまでごゆっくり。」
無情に閉められた扉を、少しの間見つめた。
「ママ、大丈夫よ。私は大丈夫。」
ソフィアは静かに母を抱きしめ返した。
「フィー!!」
ハッとローズは意識を戻す。
「フィー!!フィー!嘘だ!フィーは俺より木登りだって上手いんだぞ!!階段なんて踏み外すかよ!!」
そして泣き叫ぶアルベルトと目が合う。
「おばさん!!そうだよな??フィーは…フィーは…木登りが…」
涙ながらに訴えるその瞳に、ローズは涙が溢れ出す。
もう二度とソフィアを抱きしめる事は出来ない。それどころか、会う事だって叶わない。村人に明かせば、どうなるかわからない。死んだも同然だ。
悲しみに打ちひしがれる様子のローズを見て、アルベルトは、絶望した。
村で唯一の牧師の合図で、棺が墓穴に降ろされる。
誰もがソフィアとの別れを嘆いていた。
その様子を馬車からそっと覗き、ソフィアも涙を流す。
『フィー。忘れないで。ママはいつでも、あなたを想っているわ。例え離れていても、ずっと心で繋がっている。いつか立派に働いている所を、観に行くからね。』
その言葉を胸に、走り出す馬車の中で静かに母に、アルベルトに、村人達に別れを告げた。