下手すぎる交渉人
よろしくお願いします。
アニメ好きの人向けに書いた小説が完結しました。良かったらそちらの方もよろしくお願いします。
「なぜ、スーパーで人質を取って、占拠しているのか理由を聞きたい」
駄段は慣れない人質交渉を、怪人相手に始める。彼の日常は、ヒーローに変身できる装置の製作なのだ。コミュニケーション能力は極めて低い。
「俺達怪人の敵になる、ヒーローを作り続ける貴様が邪魔なんだ。よって、要求はただ一つ。駄段、貴様の命だ」
スーパーに立て籠もっている怪人ゴリクマオトコは、人質達に目を光らせながら、電話越しに要求を伝える。人質達は怯え、逃げる気力を失っている。
「ワシの命?どういうことだ?」
駄段は、スーパーの駐車場で、警察官と共に包囲しているヒーロー達の中心に陣取り、電話越しに交渉している。
「つまり、人質を助けてやるから今、俺の目の前で自ら命を絶てと言ってるんだ」
ゴリクマオトコは、スーパーの外に張られている包囲網を睨みながら、力を電話に込める。
その様子を、店内売り場とバックヤードを隔てるドアの窓から、覗いている従業員阿多がいた。まだ、自分の存在は、怪人に気付かれていないと、安心はしていたが、人質を助けるか、逃げるかの選択に、迷いを感じていた。
駄段は、ヒーロー達に目で指示を送る。怪人に動きがあれば、全員で突入だと。
「ワシ自ら、命を絶つことはできない。交渉には応じられない」
「なら、人質を全員殺すぞ。それでもいいのか?」
「嫌です。止めて下さい」
「ダメだ。貴様か、人質達か、どちらが死ぬか選べ」
ゴリクマオトコは、更に駄段に威圧的な態度で接する。が、駄段はこの板挟みの状況に耐えられず、遂にキレてしまう。
「嫌だって言ってんだろうがぁ。貴様はどうだ?俺の立場なら、命を投げ出すか?バカか、貴様は」
「なにぃ、お前、正義の味方だろ?何があっても、人質の命、優先だろうが。ふざけんな」
「ふざけてるのは貴様だ。正義の味方も、死ぬのは嫌なんだ。そんなことも分からないのか。だから、怪人なんて奴は、みんなバカばっかりなんだ」
駄段は、怒りで顔が真っ赤になっている。そんな後先を考えていないリーダーの言動を、ヒーローと警察官達は冷ややかに見つめる。
「もう、許さん。貴様ら人質を全員殺して、外の奴等と戦闘だ」
ゴリクマオトコも、手の中の携帯電話を握り潰し、人質達を睨む。
人質達は、怪人の自分達に向けられている明らかな殺意を感じるが、恐怖で体を動かすことが出来ない。
ゴリクマオトコは、人質達の前に立ち、巨大な腕を振り上げる。殺されると、人質、誰もが感じたその瞬間!!
「この腐れ怪人がぁ。人の命を何だと思ってるんだ!!」
阿多は、怪人から見えていない売り場とバックヤードのドアから、つい叫んでしまう。あっと思わず、口を手で塞ぐがもう遅い。
「今、叫んだヤツ、どこにいる?そのドアの向こうか?ふざけやがって、出て来い!!」
ゴリクマオトコは、声がしたドアの方を睨み、ゆっくりと歩み寄って来る。
阿多はドアの窓から、ゴリクマオトコの姿を確認する。
完全に怒ってる。間違いなく殺される。死ぬのは嫌だ。阿多は、もうこの手段しか、生きて帰ることが出来ないと、覚悟を決める。
「変身!!」
阿多は、左手首の腕時計型変身装置に視線を向け、両腕を交差して叫ぶ。
腕時計型変身装置は、その声に反応して、回転音を上げ、全身が光に包まれる。阿多は、全身から力が溢れて来るのを感じると同時に、頭の中が真っ白になっていく感覚を覚える。
そして、阿多の姿は豹変し、人ならざるモノ、ヒーロー”クレイジーフール”が誕生する。
読んで頂きありがとうございました。