研究室からの逃走、そして追っ手
この小説は最後の戦いが面白くなるように伏線(ネタ振り)を張っています。
駄段達は、薄暗い通路を足早に進んで、外に通じる出口に到達した。出口は駄段の研究室のあった建物の裏手にあり、建物からは木々に囲まれ、死角になっている。辺りはすっかり日が落ち、灯りは月の光のみとなっている。
「このまま森を抜けて、山を下りて、街へ向かおう」
駄段博士は声を殺しながら、後ろを付いて来る火賀に合図を送る。しかし、火賀は何か考え込むような素振りを示し、反応しない。
「どうした?火賀君。このまま静かに山を下りれば、奴等から逃げ切れる。心配するな」
「いえ、そうじゃないんです」
火賀の意外な反応に、駄段博士は戸惑う。
「僕は奴等、悪事を重ねる怪人達と戦う為に、あなたから力を頂きました。ここで奴等の姿を見て、背を向けて逃げるのは、僕の信念とは違うなと思ったんです」
火賀は怪人達がいると思われる、建物の方角を見据える。
「君に与えた力は確かに強い。だが、絶対的な強さではないのだ。今、奴等と戦いを挑み、もし仮に負けたとしたら、この恐ろしい新兵器は奴等の手に落ちる。それは絶対に避けねばならん」
「その兵器を今、実用する訳には行かないんですか?」
「危険なんだ、これは。ワシは正直、これを使って変身したくない。変身すれば、君に被害が及ぶかもしれない。逆も然り。君がこれを使って、変身したらワシは君に殺されるかもしれん。逃げるのが一番じゃ」
「変身すると、どういう状態になるんですか、教えて下さい」
火賀は駄段に詰め寄る。
が、その時遠くから、こちらに駆け寄って来る、草の擦れる音がする。追っ手が来る、二人は直感で木の陰に隠れる。火賀は駄段に、目で先に行って下さいと合図する。駄段はもうこれ以上、彼を説得することは出来ないと諦め、一人で山道を下りて行く。
火賀は駄段が離れて行ったのを確認してから、両手を胸の前で交差させ「変身!」と叫ぶ。全身が光に包まれ、姿が人ならざるモノへと、変化して行く。全身、赤の鎧を纏い、額には火の形をした、エンブレムが輝く。そう、彼は通称”ファイアバンド”と呼ばれる、炎を操る正義の味方へと変貌したのである。
そして、彼は物音のする方へと、走り寄って行く。しばらくすると、木々の間から人影が見える。まるで、トカゲを巨大化したような怪人、トカゲファントムがいた。
ファイアバンドは、トカゲファントムの間合いに入ると、顔面を渾身の力でぶん殴る。不意を突かれたトカゲファントムは、防御の姿勢を取れず、直撃を食らい、地面に仰向けに倒れる。
ファイアバンドは両腕を前に押し出すと、掌から炎の玉を作り出す。そして、その炎の玉を起き上がろうとする、トカゲファントムに放つ。トカゲファントムは全身炎をに包まれ、断末魔を叫びながら、再び地面に倒れ込む。しばらくの間、バタバタと手足を動かしていたが、動かなくなるまでそう時間は掛からなかった。
「正義の味方の癖に不意打ちとか、卑怯なマネをするんだな」
ファイアバンドは、燃えているトカゲファントムの後方にいる、声の主を確認する。その主は全身黒の鎧に身を固め、黒のマントをなびかせながら、ゆっくり近づいて来る。頭部からは二本の角、口からは二本の牙、そして長い爪が印象的だった。
読んで頂きありがとうございました。
これからも、努力して面白い小説を書いて行きたいと思います。
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