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4.くたばれ虫けら

 キョエェェェェェェェェェェェェェイ!


 ……失礼、取り乱しました。どうも最近、イライラする日が続いているもので……それもこれも、あのやかましい『セミ』共が悪いのだ。奴らは朝から夕まで毎日毎日飽きもせずジャージャーと喚き散らし、確実に私の気力を奪っていく。自閉症やうつ病の症状として聴覚過敏があるから、その煩わしさと言ったら、恐らく健常者の方々とは比べ物にならない……


 え? 前回『生理的に無理な物も好きになってみよう』って話をしたばかりだって? そりゃしたけどさぁ……これは何というかもう、生理的に無理って次元じゃないのよ。ほとんど命の危機なのよ。毎日毎日気力を削られて。生きる気力も、自殺する気力も奪われて。ただただ私は床に這いつくばる肉塊になってしまって。苦しみ悶えているうちに私は段々と被害妄想をこじらせて、実は奴らは私を苦しませるために誰かが設置した罠なのではないかとまで考え始める……え、そんなことはありえない? 考えすぎ? そりゃ分かってるさ、分かってるけどさぁ……こういうところでくらい吐き出させてよ。私、リアルの方ではそれなりに真面目な人間なのよ? いいじゃんちょっとくらい、私頑張ってるんだし。たまには『おちんちんびろーん』くらいのことは言わせてよ。『キンタマキラキラ金曜日』って言わせてよ。『あのセミは実は私を苦しませるために誰かが用意した罠だったんだよ!(ΩΩΩ<な、なんだってー!!)』って言わせてよ……


 正気に戻る。


 分かっている。セミは別に、私を苦しめようとして鳴いているわけじゃないし、あの鳴き声は人を陥れるための暴言などではない。彼らは暗い土の中で長いこと過ごした童貞たちで、彼らの騒々しい鳴き声は不器用な彼らの愛の告白なのだ。やがてその声はメスに届き、愛を育み、新しい命が生まれる。いやん、なんてロマンチック……。


 昔の偉い人は『私はあなたの意見に反対だが、あなたがそれを主張する権利は死んでも守る』みたいなことを言っていた。その言葉がこの状況に適切かはさておき、彼らが真面目に生きている限りは、彼らの言論の自由を守ってあげるのが、理性的な我ら人間の振る舞いなのだろう……。『食べないものは殺すな』みたいな言葉も聞いたことあるし……。


 でもそれはそれとして駆除したいよね……そうか、『食べないものは殺すな』。つまり、食べるなら殺していいということか! なるほど、それならただの食物連鎖だ、自然の摂理だ、我々が普段やっていることと何も変わらない。生物は『弱肉強食』であると同時に、『皆肉皆食』。弱い者は強い者に食べられ、強い者が死ねば分解者に食べられる。それが自然の摂理。普段肉や魚や野菜を食べる側の生物である私たち人間もいずれは死に、自然に食べられて土となる。それだけのことで、何もおかしなことはない。


 よしよし、それじゃあさっそく、セミを捕獲して食べてみよう……と思い、捕まえたセミをまじまじと眺めて考える。


『どこを食えばいいんだ……?』


 だって見てくださいよ、あのセミの造形、どう見ても宇宙から来たエイリアンか、あるいは地下から這い出たアンデッドの仲間でしょう。あの妙に隆起した目、枯葉のような羽、やたら堅そうな背中、そして妙な色をした腹。おおよそ食欲をそそる見た目ではないし、下手に食べたら腹を壊しそうである。そもそもこれは食べられる生き物なのか……?


 そう思ったから調べてみた。結論から言えば食べられる。せっかく調べたから、これを読んでくださっている皆さんと、セミの美味しい食べ方を共有しようと思う。


 基本的に、セミを食べる際は素揚げ等の強烈な加熱処理をすることが望ましい。野生のセミは危険な寄生虫を持っていることがあるので、高熱で確実に殺すのだ。殺しさえすれば寄生虫ごと食べてしまっても問題ない、野生では彼らも貴重なタンパク質である。


 また、セミは種類によって味が異なる。特に美味しいのはアブラゼミで、うまみが強く、赤身の肉に近いらしい。(残念ながら、私はセミの種類の見分け方が分からないのだが……)


 とりあえず、セミを食べる上での知識はこれくらいで十分だろう。よしそれじゃあさっそく食べてみよう……と思ったところで立ち止まる。


『素揚げってどうやるんだ……?』


 ……どうも、私にはセミの食べ方以前の基本的な知識が足りないようだ。(セミは逃がしました)



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