2.陛下の歴史解説
「魔王や魔族が存在するかって……だってお前ら……」
「どう見ても人間でしょ?牛のようにでかくもないし、角も牙も生えてなければ皮膚にウロコもないしコウモリの翼もない。君の国に伝わってる魔族らしい外見をしてる者が居るかい?」
「ま、魔術で変化してるんだろ!」
「この期に及んでわざわざ弱く変化する必要あるの?」
「じゃ、じゃあ、アレだ。本体はどこかに隠れていて術で人間を操っているんだろ!」
「だからなんでそんなことする必要あるの?魔王が直接君を叩き潰す方が手っ取り早くない?まあ、『聖剣(笑)』が本物だったらその可能性もあったけど」
「『聖剣(笑)』って言うな!」
「だいたい国境超えてからここに来るまで魔族なんか一人でも見た?」
「ん?いや、確かに見てないが……し、しかし、ここに来るまでに何頭もの伝説の魔獣ラフ・グリズリーを討ち取って」
「ああ、周辺地域の『荒いグマ駆除』には感謝するよ」
「語感が腹立つからその言い方やめろ!」
何かラ〇カル的な響きがするだろ!あの巨大グマども倒すの大変だったんだぞ!
「だってあれ単にでかいクマだよね。君はこの地方に来るまで見たことなかったから魔獣に思えたかもしれないけど。そのクマが火とか吐いたりしたの?」
「……」
俺が黙り込むと魔王……じゃなくて人間の王なのか……王が俺に話しかけてきた。
「それじゃあ落ち着いたところで隣の部屋に移って話をしようか。食事の用意をさせてあるよ。長い話になりそうだから食べながら話そう。君の国――ラマニア国と我がドルタスト王国の歴史から話さなきゃならんことだしね」
――50年ほど昔――
俺の国ラマニア王国と隣国ドルタスト王国とは昔から時折小競り合い程度に交戦しては和平するということを繰り返していたのだが、時のラマニア王が何を思ったかガチでドルタスト王国の征服に乗り出した。
そのときに自国の兵や民衆に向けて「隣国の魔王を倒せ!」「非道な魔族どもを根絶やしにしろ!」と煽ったのだ。
もちろん誰も魔王や魔族なんて信じちゃいない。敵国の人間への憎しみを煽るよくあるスローガンで、ドルタスト王国の方も「隣国に巣食う邪神どもに鉄槌を!」とか言ってたわけだ
ところがそのラマニア王が戦争中に若くして急逝。
間の悪いことに、亡くなった王に近い血縁の男性は皆夭折しており、生き残っていたのは幼い王太子のみ。
これを機と見た現シェスク公爵の祖父が神殿と組んで王妃と幼い王太子に取り入った。
公爵は、もともと世間知らずで迷信深い上に夫を亡くして精神の均衡を失っていた王妃に徐々に魔王の実在を信じ込ませ、退魔の儀式にのめり込ませた。
神殿を通してその費用を自分の懐に入れて王室の財を手に入れ、また王室を現実から遠ざけることでその発言力をはじめとする政治への影響力を奪っていったのだ。
こうしてシェスク公爵家は国の実質の支配者となった。
王室が魔王や魔族の実在を公言するようになると表立ってそれを否定することもできなくなり、今の若い世代にはその実在を当たり前のように信じている者が増えつつある。
以上がもの凄く大雑把にまとめた現ドルタスト国王コンラート陛下からの俺の国の歴史と現況説明だ。そしてその説明が腑に落ちてしまった俺は言った。
「よく考えてみりゃ公爵や神官どもの説明なんて矛盾だらけだったしな」
「まあ、当時の王妃さえ騙せば良かったんだろうからその辺は適当になったんだろうね」
「と、ちょっと思い出したんだが、ドルタスト王国では人間に扮した魔王が『ラマニア王国こそ魔族に支配された魔王国だ』って民衆を騙してるような話を聞いたことあるんだが。さっき聞いた邪神がどうとかってスローガンとちょっと違うような?」
「ああ、最初のスローガンはそれだったんだよ。でも『お互いにお互いを魔王国と言ってるので書類をまとめる際に紛らわしくて面倒です』って当時の書記長から苦情があってね。魔王から邪神に変えたんだ」
「なんか事務的な理由だった!?」
「ともあれ納得してもらえたかな。あ、そのデザート気に入った?なんならもう一つどう?」
「いいのか!いやさすが王族のデザートだな。こんな旨いもん初めて食った」
「気に入ってもらえたようでうちのパティシエも喜ぶよ……さて、他に何か聞きたいことはあるかな」
「……ひとつ、確認したい」