第996話 そして、箱は開かれた
「俺に話? 俺が遺跡に向かっていた間に何かあったのか?」
ディートの表情や仕草に違和感を感じた俺は、ディートに聞き返す。
「えぇ…まぁ…その前に、イチロー兄さんの方の用事を済ませましょう、なんでも僕に聞きたいことがあるそうですね」
「あぁ、そうだ、カローラ城にテレポートさせたはずのぼっさんがカローラ城に来ていないようなんだ…ディート、理由が何だかわかるか?」
先程、表情だけでレーヴィを追い詰めていた事もあるし、それにディートはまだ子供だ。責任を被せるような言い方を避けて尋ねる。
「えっ? それは僕が調整したテレポート魔道具が不具合を起こしたということですか?」
ディートは目を丸くして驚く。
「遺跡から戻ったイチロー兄さんたちには何もないようですので…レーヴィさん、魔王城からここに戻る時に不具合とかなかったのですか?」
「いや、俺には何もなかった… ちゃんと、テスト運用した時のように、カローラ城の牢獄の中にテレポートした。ぼっさんがテレポートする時にもおかしな様子はなかったんだが…」
レーヴィは少しビクビクと動揺しながら答える。
「そうですか…もしかして、魔王城におかしな結界が張られていて、テレポート先が狂わされたという事があったのかと思ったのですが…」
レーヴィの言葉に、ディートは口元に手を当てて考え込む。
「ディート、魔道具を作ってくれたお前には悪いが、ぼっさんのテレポート魔道具が不良品だった可能性は?」
「実際に不具合が出ている状況で、申し上げるのは心苦しいですが、その可能性は極めて低いです… 実際に作り上げた時に何度も何度も、試験運用を行いましたので… しかも、その試験運用の時にテレポート先に何かあった場合――例えば、水の中とか石の中だった場合、発動しないような調整を行っていましたから…」
ディートはそういうと、再び顔を上げ、レーヴィに視線を向ける。
「レーヴィさん、その母田さんがテレポートする時に何かおかしなことはありませんでしたか? どんな些細なことでも構いませんので、覚えている限りのことをおっしゃってください」
「えっ? ぼっさんがテレポートする時? そうだな…ぼっさんはなんだか重要な本を持ち帰りたいといって、毛布に本を包んで背負っていたんだけど… あぁ、そう言えば、テレポートしたあとで、本が一冊残されていたな…もしかして、テレポートする時に零れ落ちたのかな?」
頭を捻りながら思い出すレーヴィにディートは大声を上げて詰め寄る。
「それです!!」
「えっ!? そんなことでテレポート先が変わっちまうのか?」
詰め寄るディートにレーヴィは目を白黒させながら答える。
「えぇ! 変わりますよ! レーヴィさん! 例えば、レーヴィさんのよく使う投擲武器のことを思い出してください! 投擲角度が一度狂えば、至近距離では問題ないですけど、遠距離では目標から何十メートルもずれてしまうんですよっ! それが魔王城とこのカローラ城の距離であれば… くっ! もっと、想定外の使用状況に対処すべきでした…」
ディートのその言葉を聞いて、ぼっさんの安否に希望が灯る。
「ということは、ぼっさんは目的地がここの牢獄からずれて、他の場所にテレポートしているのか? それと水や石などが満たされた空間に転送しないように安全装置も働いていたということなら… ぼっさんは城に転移しなかっただけで、どこか城の近くに転送されているってことか?」
「はい、テレポート先が狂うのも問題ですが、それ以上に人の命に関わるようなことには細心の注意を払って対策をしていましたから」
ディートの言葉通りなら、ぼっさんは城にテレポートしていないだけで、城の近辺の何処かに無事に転移している可能性が高い。確かに異世界の夜は危険だが、ここいら一帯は、俺や蟻族、そして、狩猟に熱心なクリスが危険な害獣などは駆除している。
「じゃあ、明るくなって付近を捜索すれば無事なぼっさんを発見できるってことだな?」
俺はそう言って一先ず胸を撫でおろすが、レーヴィが気まずそうな顔で口を開く。
「でもよ…テレポートした時のぼっさんって…シャツ一枚にパンツ一枚の姿だったんだぜ? 本当に大丈夫か?」
「なんで、ぼっさんはシャツ一枚にパンツ一枚なんだよ…」
「いや、俺がぼっさんの場所に辿り着いた時は、どういう訳か全裸だったんだぜ? それでとりあえず、そこらに脱ぎ散らかしていたシャツとパンツだけは着させたんだよ」
なぜ、全裸…もしかしてぼっさんはソロプレイ中だったのか? まぁ、その事はこの場で言わんでもいいか、ディートもいることだしな…
「そうか…分かった、じゃあ、日が昇り次第、捜索隊を出すよ、トロワ、蟻族たちに行っといてもらえるか? カローラ城の近辺に小太りのシャツ一枚パンツ一枚のおっさんが遭難しているから保護してくれって」
「わ、わかりました、キング・イチロー様」
普段物怖じしないトロワでも、ぼっさんの事では動揺したようだ。
「さてと、とりあえず、レーヴィのことでディートに話を聞くのは以上だ。で、ディートからの話ってのはなんだ?」
これ以上の詳しい話や、シュリの対処については、ブラックホークやデュドネ達が帰ってきてから皆で行わないといけないだろう。だから、ブラックホークたちが帰ってくる間にディートの話を済ませてしまおうと考えた。
「はい、それはですね、カーバルのエドガー学長から、また連絡が届きまして…」
ディートが収納魔法の中から手紙を取り出して、そこまで言いかけたところで、今まで黙って座っていたカローラがガバリと立ち上がる。
「ちょっと! ディート! 今は、シュリを助けることが出来るかどうかの重要な時なのよ!? それなのに、またあの気持ち悪い手紙を読んで返事を書けっていうの!!」
今までは、我慢していたカローラであるが、流石にソーマを入手できなかった今の状況に、鬱積していた感情が爆発して激昂し始める。
「えっと…カローラさんのお気持ちも分かります… しかし、今回の手紙だけは…ちゃんと読んでください、イチロー兄さんもお願いします…」
そういって、ディートはカローラの分だけではなく、俺に対しても手紙を差し出す。
「えっ? 俺も? どうして、俺まで、手紙を読まなくちゃならないんだ? それに、ディート… 今がどういう状況なのか、お前にも分かるだろう…」
カーバルの爺さんから、カローラに対して気持ち悪いラブレターのような物は今までも何度も送られてきた。しかし、それは、テレポート魔道具の開発協力ということで、カローラも俺も、そして取次ぎをするディートも我慢して対応してきた。
だが、テレポート魔道具の開発が終わった今、そして、魔族やソーマ…シュリのことで真剣な議論を繰り広げている状況で、持ち出す話題ではないことぐらい、頭の良くて場の空気を読めるディートなら分かるはずである。なのにどうして…
「今だからこそ、イチロー兄さんにも、カローラさんにも読んで頂きたいのです」
ディートは、真剣な顔つきをして、包装紙に包まれた小さな小箱を収納魔法の中から取り出し、手紙と共にカローラに渡す。
その真剣な顔つきのディートに、俺とカローラは無言で顔を見合わせ、二人とも手紙と小箱を受け取る。ディートがここまでするのであれば、何か理由があるはずだ。
「まぁ…今回だけは、ディートの顔に免じて、ちゃんと見てあげるわよ…」
そう言って、カローラは受け取った小箱の包装紙をビリビリと破り出す。俺も執務机の中からペーパーナイフを取り出して、手紙の封を切ろうとした。その時…
「えっ!? ちょっと…これ… なんでこれがここにあるのよっ!!」
カローラの驚愕の声が響いたのであった。




