第995話 対策会議 ―絶望の中で―
トロワがディートを連れてくるまでの間、俺は話し合いを続ける。
「ディートを呼びに行ってる間に、レーヴィの話は一旦置いて、俺たちの方の話をするか、レーヴィも城に残っていた皆も、遺跡で何があったかを知っておく必要があるだろ?」
そういって、ティーナやマグナブリル、エイミー、プリンクリンたちに視線を向けるとコクリと頷く。
「先ず、速水先輩に案内されて向かった先には、大樹があり、その下に遺跡があったんだ。その遺跡は、大樹の根に沿って地下に巨大な縦穴が作られており、その最奥に大樹の樹液を集めてソーマを精製する遺跡があったんだ」
「大樹の樹液からソーマを? ダーリン、その大樹のサンプルは採取しているの?」
魔法薬に造詣の深いプリンクリンが興味を示し、口を挟んでくる。
「あぁ、一応な…でも、その話は後回しだ。先ず、何があったのかを話していきたい」
「プリンクリン、ちゃんと私が保管しているから、今は我慢して」
話を続ける為にプリンクリンを黙らせる俺の言葉に、しょんぼりとするプリンクリンをフォローするネイシュ。
「そして、その最奥の場所で、ソーマを捜索しようとした矢先に、魔王幹部のアクロレインって奴が現れたんだ」
「キング・イチロー様、それは何時ぐらいの頃ですか?」
エイミーが小さく挙手して聞いてくる。
「どうだろう…一々時計を見てなかったけど、ブラックホークたちが接敵したという報告が来てから、俺たちは馬車から降下して、そこからポチに乗って遺跡まで向かい、大樹のサンプルを採取した後で、遺跡に入って縦穴の最奥に降りて行った時間を考えると…30分から一時間程の間かな…」
俺の話を聞きながらエイミーは黒板の各班からの連絡状況を見る。
「なるほど…レーヴィさんからの情報で、プリニオがソーマ入手を失敗して、魔王城に警戒網が敷かれた時間と、ブラックホーク班が接敵した時間…そして、遺跡に魔王幹部が現れた時間…全てが関連している様に思えますね。魔族は何らかの方法で、私たちと同じ、またはそれ以上の性能で情報交換できる方法を持っていると考えた方が良さそうですね… 失礼しました、キング・イチロー様、お話をお続けください」
確かにエイミーの推論は納得できる。全ては魔王城で警戒が敷かれてから状況が動き始めている。アクロレインが遺跡にやってきたこともおかしい。俺たちがソーマを入手することに初めから警戒しているのなら、アクロレインが待ち構えているか、大軍を配置しているはずだ。
また、兎に角、エイミーが話を続けてくれというので、俺は話を続ける。
「うん、それで俺たちは、影を使い、闇の触手を使う魔王幹部のアクロレインと戦って勝利した訳だが、奴は死に際の最後の悪あがきとして、ソーマの精製装置の上で自爆攻撃を行ったんだ…それで装置は破壊され、その爆発の炎で大樹も恐らくは焼け落ちていることだろう… それで俺たちは城に戻るしかなかったんだよ…」
「えっ!? 遺跡も大樹も壊されて無くなっちゃったの!? じゃあ、ソーマはもう…」
遺跡も大樹も焼け落ちたという情報に、再びプリンクリンが騒ぎ出す。
「あぁ…遺跡からは…」
そこで俺は息を吸う。次の言葉を俺の口から発するには、覚悟が必要だからだ。
「ソーマを手入れることは出来ない… 例え、大樹が焼け残っていたとしても、次の満月は一か月後だ…」
「じゃあ、絶対にもうソーマが手に入らないということじゃないのね、私やこの城にいる皆で、持ち帰った大樹を栽培したり、成分を抽出して研究すれば!」
プリンクリンはそう言って威勢の良いことを言ってくれる。俺もその事に希望を託したいが、そんなほいほいと都合よく、直ぐにソーマが出来るとは思っていない。
確かに『未来』の為に、大樹の栽培や、ソーマ生成の研究を進める必要はあるだろう。たが、俺がしているのは『今』の話なのだ。
それに、遺跡が次に現れる一か月後、もしくは大樹の栽培が成立し、ソーマ精製ができるまで、敵が待ってくれるのか…寄生魔に操られたシュリが人類を襲わないのか、誰も保証してくれない。
『今』この手にソーマがあれば、シュリを助け出す為に動く事が出来るが、ソーマが『今』手元になければ、シュリが襲ってきた時、または俺たちが動いたところでシュリのドラゴンブレスビームで返り討ちにあうだけなのだ。
しばし、執務室内に沈黙が訪れた後、その沈黙を破るようにマグナブリルが口を開く。
「なるほど、分かりました。イチロー様の話によれば、遺跡の結果の処理は、大樹の研究とその栽培をするしかないようですな、そこに資金・人材資源をつぎ込めるよう、なんとか手配いたしましょう… そうなると、残る議題は、レーヴィ殿の任務結果についてですな…」
「そうですわ! そのぼっさん――母田参次さんという方の行方と、捕えてきたプリニオ… 二人に話が聞ければ、新たにソーマの手かがりを得られるかも知れません!」
マグナブリルの後に、ティーナが声を上げる。そして、そのティーナの言葉にミリーズが口を開く。
「そのボダさんの行方については、テレポート魔道具を作ったディート君に話を聞かないと分からないけど、プリニオの方はどうする? 私が聖女の力で回復させましょうか?」
そんな提案をしてくる。だが、俺はその提案を却下する。
「いや、セクレタみたいに常人のように見えて、寄生魔に寄生されている事だってあるんだ、それにプリニオは元々アルフォンソだったわけだろ? 迂闊に聖女であるミリーズが近づくのは危険だ… それに俺が指示していなかったのが悪いんだけど、隣の牢獄のヴラスタに寄生魔が転移する可能性もある… 今後は、メインメンバー並びに、一人でのプリニオ及びヴラスタへの接触は禁止しなければならないな…」
カローラの父親ハイエースの時でも、そしてシュリの時でも、寄生魔は隙あらば誰にでも寄生しようとする。そこは気を付けないといけない。
だが、それらのことを思い返すと、もし寄生魔が現在の宿主から別の宿主に乗り換えた時、元の宿主はどうなるのであろうか… ハイエースの時は、元の宿主が死んでから乗り換えようとしたが、もし上手い具合に身体から寄生魔を追い出すことが出来れば、元の宿主は常人に戻れるのであろうか…
そんなことを考えていると、トロワがディートを連れて執務室に戻ってくる。
「おう、ディート、朝早く…というか、まだ夜が明けてないけど、すまんな、ちょっとお前に聞きたい事があって」
俺は思索を止めて、ディートに向き直る。
「お帰りなさい、イチロー兄さん、僕もイチロー兄さんとカローラさんにお話があります」
神妙な面持ちのディートが俺を見つめていた。




