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第991話 落下と触手と聖剣

 俺は全く魔法の使えない状態で、タマヒュンどころか、身体全身が縮こまり、死の覚悟をしていた。


 だが、突如、落下がピタリと止まる。



「は?」


「なっ!?」



 俺と漆黒の敵とが、同時に驚きの声をあげる。


 なぜ突然落下が止まったのかと自身の身体を確認してみると、俺の身体から肌色の触手が側根に伸びていて、俺の身体を支えていたのである。

 

 そして、その触手が直接、俺の頭の中に語り掛けてくる。



(パパ、これでよかった?)



 この触手の正体こそは、ヴァンパイアであるカローラの血と、プリンクリンの等価交換魔法から生み出された、生物学上ではなく身体的に俺の息子となった――マイSONなのである。


 普段は俺の身体にぶら下がって眠りについているが、何かあった時には、こうして目覚めるのである。



「お、おぅ…助かった…ありがとう…」



 自身の息子に礼を述べるのはなんだが、俺は一応礼を述べる。


 そんな俺の姿に、漆黒の敵は驚愕しながらがなり立てる。



「何なんだ! その触手は! アシヤ・イチロー! もしかして、貴様、寄生魔を自分のものにしていたというのかっ!!」



 いや、こいつは他人の寄生魔ではなく、自前の息子なんだが、寄生されているような状態であることは同じだな…ってか、こんなのどう説明するんだよ…恥ずかしくて出来んわ…



「ふっ… お前などに説明する必要はない… これが…聖剣の勇者の隠された能力の一つだ…」(大噓)


 

 咄嗟の大嘘に聖剣がピクリと反応したが、聖剣が声を上げる前に、敵が声を上げる。



「くっ! 我々、魔族がまだ知らない聖剣の勇者の秘密があったということか! まぁいい! 落下は免れても、魔法禁止区域では動けまい! このまま止めを刺しくれるっ!!」



 そう言って漆黒の敵はその足元から無数の闇の剣を生やす。



「んなわけねーだろ!」



 俺は振り子のように反動をつけて、くるりとぶら下っていた側根に飛び乗る。そして、聖剣を投球ポーズのように構えて、必殺のレーザービームの準備をする。



(よし! 魔法禁止区域でも、筋肉強化や心肺機能強化の魔法は使える!!)



「イチロー、後で話したい事は色々あるけど、今はアイツの処分よっ!」



 聖剣が怒気を含んだ声を上げる。



「分かってる! その代わり、ちゃんとやれよ! 食らえっ! レーザービィィームッ!!!!」



 俺は渾身の力を込めて、聖剣を投擲する。筋肉強化・心肺機能強化を使って撃ち出された聖剣は青白く輝く刀身により、本当にレーザービームのように闇を切り裂きながら超高速で突き進む!



「甘いわ! アシヤ・イチロー!! 貴様のその技は、ムレキシドより聞いている!」



 漆黒の敵は、聖剣が命中する直前ですっと姿を消し、別の場所に現れる。



「聖剣を手放した貴様など、恐るるに足りん! 魔王幹部アクロレイン自らの手で息の根を断ってやるわっ!!」



 そういって、漆黒の敵ーー魔王幹部アクロレインは、まるで阿修羅のように身体のあちこちから闇の剣を生やして、俺に躍りかかってくる。



「戻れ」



 俺は小さく呟く。



 サクッ


「かはっ!」



 俺のすぐ目の前に迫ったアクロレインは、動きが止まり、吐血する。なぜなら、アクロレインの胸元には聖剣の切っ先が伸びていた――つまり、背中から胸元に掛けて聖剣が貫いていたのだ。



「な…何故だ…」



 アクロレインは胸元を聖剣に貫かれながらも、声を絞り出す。



「何故って、当たり前だろ、投げた聖剣を一々拾いに行ってるとでも思ってたのか? 俺の呼び声一つで戻って来るに決まってるだろ」



 俺は幼女になったポチを肩車しながらアクロレインを見下ろして答える。



「なん…だと…? 聖剣の勇者の意思によって…聖剣が動く…だと?」


「それが、神からもたらされた神秘と奇跡の代物…聖剣ってものだ」



 アクロレインは胸元に刺さった聖剣を見る。…まぁ、俺の意思だけではなく、聖剣本人の意思でも勝手に動き回るけどな…



「な…ならば…私の最後の力で…魔族の最大の障壁となる…この聖剣を…叩き折って…やる…」



 アクロレインは胸に突き刺さる聖剣を掴み、最後の力を振り絞ってへし折ろうとする。



「汚い手で私に触らないでっ!!!」



 すると、アクロレインに掴まれた聖剣が罵声を上げて、アクロレインを拒絶して身を捻るように、自身を水平に回転させて、そのままアクロレインの身体を胸元の辺りで両断する!



「くわっ…」



 両断されたアクロレインの胸元から上の上半身は、聖剣に弾き飛ばされ、縦穴の中を底に向かって落下していく。それに合わせて、様々な場所から生え出ていたアクロレインの闇の剣は、漆黒から無色透明になって、煙のようにすぅっと霧散していく。



「わぅ、てき、しんだ?」



 その様子を見て、肩車しているポチが聞いてくる。俺は残心――つまり、アクロレインの死体を確認するまでは警戒を怠れないと答えようと考えたが、その前にカローラやアソシエ達が魔法禁止区域のギリギリまで近づいてくる。



「イチローっ! さっきの触手は何!?」



 近づいてきたアソシエがいの一番で聞いてくる。…ってか、敵を倒したと思われる状況で、最初に聞いてくるのがその言葉かよ…


 まぁ、俺のマイSONが最初に覚醒した時には、アソシエ達とは合流していなかったから、知らなくても当然か…



「もしかして…イチロー…貴方、寄生魔を使いこなしているとか…なの?」



 ミリーズが眉をひそめながら、そんなことを聞いてくる。



「いや、ちげーよ、俺は寄生魔に寄生なんてされてないし…」


「じゃあ、なんであんな触手を使いこなせるのよ? そもそも、あの触手は何なのよ!」



 俺の言葉にミリーズは更に問い詰めてくる。ミリーズが俺を非難しているのではなく、心配して聞いてきているのは分かるのだが… あの触手が、俺のナニのなれの果ての姿とは…いえないよな…人としての尊厳的な意味で…


 なので、ミリーズたちにも大嘘をかますことにする。



「あ…あれは… 聖剣の勇者になった者だけが…使える能力の一つなんだ…心配する必要はない…」



 俺の言葉にカローラは、そういうことにするのかと呆れた顔をする。…まぁ、カローラも俺のマイSONの関係者の一人だからな…自分があの触手の姉にあたる人物であることを他人には知られたくないであろう…


 だが、もう一人の人物はそういうわけにはいかない。聖剣のことだ。


 聖剣は俺が聖剣の力によって、あの触手の特殊能力を得たという大嘘にお怒りのようだ。



「ちょっと! イチローっ! …!?」



 声を上げ始めた聖剣に、俺は黙らせるように手を添える。



「聖剣、今はそんな事よりも、アイツがちゃんと死んだか確かめる方が先だろ?」


「…そうね…今はそれが最優先ね…貴方を問い質すのは、後でいくらでもできるわね…」



 聖剣は聖剣であることのプライドがあるが、そのプライドを守ることよりも魔族の討伐を一番の最優先に考えている。だから、俺の言葉にも素直に乗ってくれた。…まぁ、恐らくその次の二番目に優先しているのが、BLだろうな…



「ポチ、悪いがフェンリルに戻って、俺を下まで乗せていって貰えるか?」



 そう言って、肩車していたポチを立っている側根の上に降ろす。



「わぅ! 分かった!」



 ポチは素直に俺の言うことを聞いてフェンリルの姿へ戻る。俺はその上に跨ってアクロレインの落ちた縦穴の底へと向かう。


「そういえば、ポチ」


 俺は戦闘時に疑問に感じたことを聞こうとする。


「わぅ?」


「どうして、あの敵、アクロレインをかみ砕けたんだ?」


「わぅ、カローラちゃまから、魔素も食べられるはずだって言われて、試してみた」


「食べれるはずって…まぁ、実際に食べることができたんだからいいか…」


 しかし、カローラはなんでそんな助言をしたんだろう…カローラにも後で聞いてみるか…



 そして、側根の上を飛び石のように飛び渡っていくポチに跨り、縦穴のそこに辿り着くと、アクロレインの上半身は、ソーマの精製装置の上に引っかかっていた。



「上半身を切り飛ばされた上に、あの落下…流石に死んでいるか?」



 装置の上にだらりと力なく引っかかるアクロレインの姿を、縦穴の底の床から見上げて独り言のように呟く。そこへ、カローラやアソシエ達も合流する。



「イチロー様、奴は死んでますか?」


「脈や呼吸は確認した?」



 カローラとネイシュが聞いてくる。



「いや、まだだ、これから確認する!」



 二人にそう答えて、死体を確認しようとして装置に飛び上がろうとした時、だらりと引っかかっていたアクロレインの頭が起き上がり、俺を見る。



「イチロー…貴様には…ソーマは渡さぬ…この命に…代えてもだ…」



 その瞬間、アクロレインの身体から、まばゆく凶暴な光がほとばしった。




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