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第990話 光が落とす影

 確かにミリーズの放った強力な光は、辺りを強く照らし出し、薄暗闇を払ったが、同時に、大樹から伸びる主根や側根、外壁に掘られた螺旋通路、そして、地下の奥底に眠るソーマの精製装置の影を色濃くすることになった。


 その結果、強く落ちた陰から、強靭になった敵の闇の触手が生えてくる結果となったのだ。

 特に縦穴の奥底は、装置や遺跡の装飾が落す陰影から、太く強靭に…そして更に漆黒になった闇の触手が無数に生えて、縦穴の底面を埋め尽くすように湧き上がってくる。



「ひぃっ!」


「ちょっと! 気持ち悪いわよっ! アソシエ! 早く上へあがって!」


 

 悲鳴を上げるアソシエに、ミリーズは闇の触手の群れから逃れるように急き立てる。



 俺と、ポチとカローラコンビは、逆に上方から伸びてくる闇の触手に対抗する。



「敵が何本もの闇の触手を出そうとも、カローラと同じ、自身の魔素を使って生やしているなら、聖剣や聖氷の剣で切り続ければ、その分の魔素がすり減っていずれ枯渇するはずだっ!!」


「ポチ! 私の足代わりになりなさい! その分、私は敵の迎撃に集中できるから!!」


「わぅ! わかった!!」


 

 カローラは移動方向を指し示すように何本かの細い闇の触手をあちこちに伸ばして、残る聖氷の剣を手にした闇の触手で、敵の太く強靭な闇の触手を切り払っていく。



「なるほど、私の闇の触手の魔素を削り取って、持久戦に持ち込むおつもりですな? しかし、私の魔素を削り切るまで、私の攻撃を避け続けられますかな?」



 手を開いた巨大な闇の触手が俺の目の前に迫る。俺は密かに飛ばしているインビジブルワイヤーを使って、掴まれる直前で直角に軌道を変える。俺に避けられた闇の触手は、俺の後ろにあった丸太程の太さの側根を鷲掴みにして、そのまま粘土のように握り潰す。



「ひぃっ! なによっ! あの威力っ! あんなのに握られたらひとたまりもないわっ!!」


「アソシエ、ちょっとうるさい」



 敵の闇の触手が側根を握り潰すところを見た、アソシエは焦って騒ぎ出すが、そんなアソシエにネイシュが苦情を漏らしながら、スリングショットボウガンで敵を牽制しつづける。


 そんなアソシエ達の頭上に、敵の巨大な闇の触手が迫る!



「きた! ちょっと! きたわよ! 握りつぶされる!」


「ちっ! 仕方ないわねっ!! 狙いを定めて… 神の鉄槌! Malleus Dei etiam saxa frangit!!」



 ミリーズ達の前から巨大な拳が撃ち出され、眼前に迫った闇の触手をまるで暗闇の空間を光で塗り替えていくように突き抜けていく!


 ドォォォン!!


 そして、闇の触手を撃ち抜いた神の拳は、そのまま外壁に衝突し、その表面を破壊する。


 

「この際、外壁ぐらいは仕方ないわね… でも、ミリーズ、下に向けて神の拳を使っちゃダメよ! ソーマの精製装置が壊れるかも知れないから!」


「分かってるわ! アソシエ! その代わり、射線の先が外壁になるように飛びなさい!」



 アソシエとミリーズがそんな会話を交わしている横では、カローラとポチのコンビが思った以上に苦戦を強いられていた。

 それというのは、確かにカローラの聖氷の剣は敵の闇の触手に有効なのであるが、それは敵の闇の触手がカローラのものと同等の大きさだった時の話で、今の太い丸太のような大きさでは、その指先を大木の枝をはらうように切り離すのが精一杯といった感じだった。

 また、切り離した指先も霧散して消滅するのではなく、しばらく付近を漂って、後から闇の触手本体に回収されているようにも見えた。



(くっそ! このままではマズイな… 今の所、敵の魔素を削り取れているのは、ミリーズの神の拳が正面から闇の触手を撃ち抜いた時だけか…このままでは敵のリソースを削り切れない!)

 


 俺はそんなことを考えながら、敵を見る。敵は主根の俺たちよりも高い場所から、余裕の表情で見下ろしている。



(敵はどういうつもりか分からんが、上へ上へと上がっている様に見える… もしかして、ソーマから注意を遠ざける為に上へと上がっているのか?  まぁ、ソーマの精製装置に戦火が及ばなくなるから、こちらとしてもありがたいが…)


 

 そんな考え事をして見上げる俺の視線に気が付いたのか、敵は挑発するように俺に話しかけてくる。



「おやおや? どうしたのですか? 聖剣の勇者アシヤ・イチローよ、私の圧倒的な闇の触手を前に、手も足も出ないのですか?」


「お前みたいに、何本も手がある訳じゃないからな… 手足の出しどころを見定めているんだよ!」


「ふっ! ただ手をこまねいているというのに、物は言いようですな!」



(確かにその通りなんだが、一々癪に障る言い方をする奴だな… しかし、別の見方をすると…奴は俺を挑発しているのか?)


 俺は、聖剣をぐっと握り直し、俺を見下ろす敵を見返す。敵が挑発してくる時の、普通の選択肢は乗るか反るかの二択だ。敵が罠を張っているからこそ挑発してくるのも分かる。


 ならば、俺の選択肢は…敵が張った罠を噛み千切ってやることだ!!



「俺が手をこまねいているだと? それはお前のことじゃねえのか? そうじゃないなら、ほら、ご自慢の闇の触手を出して来いよ! 俺がただ手をこまねいていただけじゃないってことを証明してやるぜ」



 そう言って、俺もクイクイと手招きして敵に挑発する。



「ふっ… 言い合いでは、聖剣の勇者に敵いそうにないですな… ならば、そのご希望にお答えするしかありません!!! 我が闇の《かいな》腕をうけるがいい!!」



 その言葉が合図のように、様々な場所から、極太の闇の触手が生え出て、死肉に群がるハゲワシのように一斉に俺に向かってくる。


 それに対して俺は、筋肉強化・心肺機能強化・エアバースト・飛行魔法・インビジブルワイヤーと使えるものはすべて使い、聖剣を前に構えて俺自身を一つの弾丸のように、敵の触手ーーその先の敵本体目掛けて撃ちだす!!



「なんだとっ!」



 俺が再びスライドして躱すであろうと考えていた敵は、闇の触手を真っ向から撃ち破っていく俺の姿に驚きの声をあげる。


 俺自身は普段の数倍の力と勢いで飛び出し、自身の身体にドリルのような回転を加えて、闇の触手の中を穿ち続ける! そして、太く長い闇の触手を貫通し続け終えると、そこは敵の直ぐ側であった!



「なっ!」



 俺の姿がすぐ近くに現れたことに、敵の表情までは読むことは出来ないが、ビクリと肩を震わすその仕草から、驚く様子が見て取れた。



「ふざけたてめぇの面! 首を落として見てやんよっ!!!」



 言葉と同時、いや、言葉を発する前に、俺は敵の首目掛けて聖剣を薙ぎ払う!!



「くっ!!」



 しかし、敵は一人で俺たちに立ち向かってきただけあって、咄嗟に反応して手で庇う。



 ポッ!



 今までの暖簾に腕押しの反応ではなく、僅かに肉を切り裂く手ごたえを切っ先に感じる。それと同時に空気でも弾けたような音が響き、辺りを黒い煙が覆う。



(浅かった!? いや! この距離、この瞬間で敵が対応しやがった!?)

 


 俺の考えを裏付けるように、敵の姿が10メートル離れた上方の主根から現れたかと思うと、すぐにスッと姿を消し、またそこから10メートル上方の主根の影からぬっと姿を現す。


 ただ、今までの敵の影渡りの回避と異なるのが、俺の聖剣の斬撃を受けたと思われる肘から先の右腕が存在しなかった事である。



(ちっ! 仕留め損ねたか…)



 そう思った次の瞬間、白い影が敵を襲う! ポチだ! ポチが敵の出現するタイミングを見計らって襲い掛かったのだ。



「わぅぅぅぅぅ!!!!」


「たかがフェンリル如き! なぬ!?」



 敵も…そして、俺も…ポチの攻撃では魔素で構成されていると思われる敵の体には通用しないと考えていた。だが、ポチは敵の左肩を噛み千切ったのだ!


 そして、すかさずカローラが別の場所から現れる。



「とどめよ! 死になさいっ!!!」



 カローラの聖氷の剣を持った無数の闇の触手の斬撃が漆黒の敵を襲う!



「やらせんっ!!!」



 慌てた敵は主根の表面の隙間という隙間の影から、無数の闇の触手を生やし、左肩に嚙みついたポチを持ち上げてカローラの斬撃の盾にする。 



「くっ!!」



 カローラもポチを盾にされては流石に斬撃を止める。すると、漆黒の敵は、緊急回避をするように、すっと姿を消し、パッパッパッと飛び石でも飛び移るように、主根の更に上方の場所に現れていく。



「ぐぬぬ… よもやここまでしてやられるとは…捧げられしテュシアスメーノ・フォス計画の為に、お前たちを傷つけず、ソーマの入手だけを阻止しようと考えておったが、もはやそのようなことはしてられぬ!!」



 敵は欠損した身体で、怒りに身を震わせながら怒声をあげる! すると、その怒声に合わせるように今まで生えていた敵の闇の触手の指や腕が、刃へと変わっていき、辺りがまるで剣樹地獄のような様相へと変わっていく。


 その光景に、俺は鳥肌が立ち、背筋に冷たい汗が流れる。



(俺たちを傷つけるつもりはなかっただと!? アイツ! 今まで本気を出していなかったのかよっ!)



 そして、敵は手始めに、聖氷の剣で斬りかかったカローラを襲い始める。



「たかが、ヴァンパイアの小娘が! 思い上がりよって!」



 巨大な漆黒の剣となった闇の触手がカローラを薙ぎ払う!



 キンッ!キンッ!キーンッ!



「くっ!」



 カローラは聖氷の剣で敵の闇の剣を受け流そうとするが、聖氷の剣はまるで枯れ枝のように容易く折られていく。しかし、カローラは即座に収納魔法から折られにくい鋼の剣を取り出し、必死に凌ぐ。


 そんなカローラを片手間のように対処しながら、敵はアソシエ達に向き直る。


 

「お前たちは、剣に埋もれて死ぬがいい!」



 アソシエ達は無数の闇の剣に取り囲まれ、アソシエとミリーズが必死に防御魔法を使うが、敵の闇の剣は二人が展開する防御魔法の周りを、まるでボールにまとわりつくタコのように張り付き、時折、闇の剣の切っ先を防御魔法に突き立てる。



「くっ! これじゃ防御に精一杯で、こちらから攻撃を仕掛けられないわっ!」


 

 ミリーズも防御に必死で、先程の神の拳を使えずにいた。



「次はお前だっ! 犬ころめっ!!」



 そして、敵は左肩を嚙み千切ったポチに怒りを込めて向き直る。そして、大樹の根、外壁の螺旋通路の影から無数の闇の剣が生えてきて、ポチを追い立て回す。



「マズイっ!」



 いくら俊足を誇るポチといえども、無数の闇の剣に追い立てられては、いずれ追いつかれて切り刻まれてしまうし、そもそも、ポチは防御魔法など使えない!



「わぅ!わぅ!わぅ!」



 ポチは無数の闇の剣に追い立てられて、必死に縦穴の上へ上へと逃げまどう。 



「ポチ!」



 俺もそんなポチを放っておけないと、密林に生い茂る様な闇の剣を切り払いながら、縦穴を飛行魔法やインビジブルワイヤーを使って駆け上がる。


 そんな時、ポチが追い詰められて、大樹の側根に飛び乗った時、ポチ自身とポチの飛び乗った側根がグラリと揺らぐ。



「ハハハっ! 犬ころ!! その根はあらかじめ切れ目を入れておいたのだ!! もはや、逃げ回れまいっ!!」



 自由落下し始めるポチに、漆黒の敵はポチの落下地点に闇の剣を並べたてて高笑いを始める。敵はポチがその根に乗るように追い立てていたのだ!!



「ポチぃぃぃぃ!!!!」



 自由落下するポチを救うため、俺はもてる力を全て使って飛び出す。



「いちろーちゃまっ!」


「ポチっ!」



 俺は自由落下するポチの巨体を空中で受け止める。だが、今のフェンリル状態のポチでは、このまま空中を移動するには大きすぎるし、重すぎる。



「ポチ! 幼女でも子犬状態でもいいから、小さく軽くなれ!!」


「わぅ! 分かった!」



 ポチはポンっとぬいぐるみのような小さな幼女状態になって俺にしがみ付く。



「後は、飛行魔法とインビジブルワイヤーを使って…」



 俺は、飛行魔法とインビジブルワイヤーを撃ちだそうとするが、うんともすんとも魔法が発動しない…



「なっ!!」



 何度も飛行魔法とインビジブルワイヤーを使おうとするが、落下するばかりで一向に魔法が発動する気配がしない。俺は背筋にどっと冷や汗が流れ出す。




「ハハハっ! かかったな! アシヤ・イチロー! そこは魔法禁止区域だ!! そのまま、私の闇の剣で犬ころ共々串刺しになるがいい!!!」


「イチローっ!!」


「イチロー様ぁぁ!!」



 敵の高笑いの声が響き、カローラやアソシエ達が叫ぶ中、落下する俺たちの真下には無数の闇の剣が待ち構えていたのであった。





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アクロレイン:思いあがるなよ!雑種!
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