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第988話 黒き霧の襲撃

 手分けして捜索を行おうとして、皆がバラバラに離れた中央に降り立った漆黒の存在。仲間の皆は直ぐにその危険度を感じ取り、さっと距離をとって戦闘の構えをとる。


 俺は速攻で聖剣を手に一陣の風のように漆黒の存在に斬りかかるが、奴はスッと煙のように姿が消えて、離れた場所の影からぬっと地面から生えるように現れる。



「おやおや、お互い名乗りを上げる前に攻撃とは、聖剣の勇者とやらは、随分と粗野で無粋だな…」


「そうかい、そんなに名乗りを上げたいのか? なら倒した後に生きてたら聞いてやるよっ!」



 飄々と声を上げる漆黒の存在に、俺は距離をとって聖剣を構えながら答える。そして、仲間たちに敵は尋常じゃない強さの敵だということのアイコンタクトを送り、皆も小さく頷いて答えるのが見えた。



「それは冗談のつもりですか? だったら笑えない冗談ですなっ!!」



 その言葉と同時に、漆黒の存在はカローラの闇の触手のような腕を何本も伸ばしてくる!



「くっ! カローラと同じヴァンパイアか!?」



 敵の繰り出してきた闇の触手を切り払い、俺は前へ進み敵の懐に飛び込む!



「むっ!!」



 すると、漆黒の敵は再び黒い煙となって姿を消し、それと同時に仲間たちに伸ばしていた触手も消え去る。



(やはり、思った通り…大人状態のカローラと戦った時と同じで、本体を攻撃すれば闇の触手を引かざるを得ないようだな…)



そして、漆黒の敵は再び離れた場所の影からぬっと生え出てくる。



「流石は聖剣の勇者アシヤ・イチローといったところですか… 反応も良いし思いっきりも良い… 奇妙奇天烈な手段だけではなく、武人としての腕も兼ね備えている…なるほど、我々の計画がひっくり返される訳だ」



 敵は自身の戦い方が封じられたというのに、慌てることなく、自身の状況を俯瞰して語り始める。



「俺のことをそんなに評価してくれるのなら、逃げ出してもいいんだぜ?」



 俺は漆黒の敵と間合いを取りながら、そんな提言をしてみる。


 今回の目的は今ここに現れた魔王の幹部らしき存在を倒すことではない! シュリを元通りにする為に安全にソーマを手に入れる事だ。その為だったら、魔王の幹部であっても逃がしてよいと考えていた。


 すると、敵は漆黒の靄のような姿からはその表情は伺えないが、芝居がかった仰々しい口調で答える。



「まさか! この私は貴方のソーマ入手を阻止するために、わざわざここまでやってきたのですよ? その目的を果たさずして引き下がる事などあり得ません!」


 チッ!



 俺は奴の言葉に舌打ちする。素直に引き下がってくれたら楽だったんだが、敵は俺たちのソーマを手にれるという目的をお見通しのようだ。だが、俺たちがソーマを欲しているということを魔族が知っているということは…もしかして、プリニオの奴がソーマの盗み出しに失敗したのか?


 まぁいい…既に遺跡まで来た今じゃどうでもいいことだ…それよりも目の前の強敵、魔族の幹部らしき存在の方が重要だ。お互いの目的は相容れないもの同士…生半可な痛み分けなど無く、どちらかが倒れるまで死力を尽くさねばならないだろう…


 そうなると、シュリを救うために誰かが犠牲になることが許されない俺たちの方が不利か…いや、違うな、奴は俺たちを何人倒そうが、最終的に俺たちのソーマの入手を阻止しなければならない覚悟で来ている…


 つまり、互いに譲れないものの為に戦う俺たちに、覚悟の優劣なんて考えるのは間違いだな…


 俺は改めて聖剣を握り直す。



「私もどちらが闇の触手の使い手なのか、雌雄を決めようじゃないですかっ!!」



 そう言ってカローラが《ゲートオブカローラ》姉の財宝を使い、無数の闇の聖氷の剣を持たせて構える。


 その一方、アソシエ達は、ミリーズの神聖魔法の防御の中で一塊になり、敵に備える。これは、以前カローラを撃退した時の布陣であり、闇の触手による各個撃破を防ぐ為のものだ。


 そして、ポチは敵を中心に基本、ぐるぐると円を描くように動きながら、敵に目標を定めさせないようにしている。


 通常の人間同士の対戦でも一対二、一対多数となると、相当な実力差があっても数の劣勢を覆すのは困難になる。それが実力者同士の戦いになれば、数の劣勢を覆すのは更に困難になる。互いの攻撃の一撃一撃が致命傷になりうるからだ。


 さて、この状況…敵はどう動くのか…それが見ものだな…


 ピッピッ!


「ふむ…聖剣の勇者に、その仲間の一団、父親の実力すら凌駕したヴァンパイアに、縦横無尽に駆け回るフェンリルですか…この数的劣勢を覆すのは少々、骨が折れそうだな…」


「骨が折れるだけで済むと思ってんのかっ!」



 俺は再び聖剣を構えて突進する。すると、敵は俺の軌道を読んで体勢を横に滑るようにスライドさせるが、俺の方もそんなことは想定済みだ。漆黒の敵の左右に予め張り巡らせておいたインビジブルワイヤーを使って敵のスライドした方向に軌道を変える。



「逃さないっ!」


「むっ!」


 

 カーブして軌道を変更した俺と、その後ろに回り込むようなカローラの闇の触手。敵を追い詰めたと思ったが、敵は足元の影に吸い込まれて行くように姿を消し、そして離れた場所の影から、またぬっと生えてくるように姿を現す。



「アイシクルランスっ!!」



 その敵の出現位置に合わせて、アソシエが地面から円錐状の氷の槍が生えるアイシクルランスをかける!


 すると、敵は黒い煙のように霧散して、また別の影からぬっと姿を現す。



「わぅ!!!」


 

 そこへすかさず、ポチが爪と牙の突進攻撃を加えるが、またしても黒い煙となって霧散する。その動きに“重量”という概念を感じさせない。



(なるほど…これは通常の魔法や物理攻撃では決定打にならないな…滅茶苦茶やりづれぇな…)



 どうやら敵は通常魔法攻撃や通常物理攻撃が効かない身体のようだ。その証拠に、平然とした仕草で大樹の主根の影からぬっと生えて姿を現す。流石は一人で俺たちに立ち向かってきたことだけはある。


 だが、緒戦を観察していて気が付いたことがある。俺の聖剣による斬撃は攻撃が当たる前に回避するなり姿を消そうとしている。またカローラの聖氷の剣による攻撃も同様だ。


 その事に気が付いた俺は、アソシエたちにアイコンタクトを送る。


 すると、アソシエとミリーズの二人はコクリと頷いて、防御魔法を担当していたミリーズと攻撃魔法を担当していたアソシエがポジションを入れ替えて、アソシエが防御担当、ミリーズが攻撃担当に入れ替わる。そして、一緒にいたネイシュは腰にぶら下げていた、小さなボウガンのような物を構える。



「やれやれ、私がただの魔族であれば、何度も殺されていた事でしょうな……残念ながら、私はそうではないのですが」



 漆黒の敵が、俺たちを見下ろしながら口を開く。



「今なら、尻尾を巻いて逃げ出してもいいんだぜ?」



 俺は軽口を叩きながら、敵の対処方法を考える。普通の敵のように目標に向かって突進しても、コイツは影を使って移動が出来る。ということは…


(影さえあればどこへでも逃げられる…なら、逃げ道を限定してやる必要がある)



「では、今度は私の方から攻撃しましょうか!」


 

 その言葉に俺は身構える。



「イチローっ!!! よけてっ!!」



 次の瞬間、俺の近くの影から、闇の触手が生えてきたのであった。




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