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第986話 ねじ曲がった世界観

 イチロー達が遺跡の奥底で何者かと遭遇していた頃、魔王城では、転生者のユウセイが、不貞腐れて毒づきながら、城の離れの監視を行う役目についていた。



「くっそ! なんで俺が、こんな雑魚のやる仕事をしなければならないんだよっ! ムカつく!」



 本来、監視を行う衛兵は、直立不動でその役目を務めなければならないが、ユウセイは離れの中から勝手に椅子を持ち出して座り、革袋に入った酒を飲みながら悪態をつく。


 反勇者として魔族内でもてはやされていたユウセイが、どうしてこのような落ちぶれた扱いを受けているのかというと、元々魔族内には人類を毛嫌いする風習があったことに付け加え、彼ら反勇者と呼ばれるユウセイたちの面々が、非常に素行が悪く協調性が皆無であり、その事が更に魔族たちの印象や評価を下げていた。


 だが、魔族の者たちは、魔王セクトリアがホラリスを裏切ったカール枢機卿に召喚を執り行わせたことや、いざという時には役立つと考えられていたから、皆口や態度に出さずに黙っていたのだ。

 しかし、ユウセイたちは期待されていた最初の任務で、目標の達成どころか、仲間と希少な武具と寄生魔の幼体を失い、這う這うの体で逃げ帰ってきたのだ。そして、その経緯などの報告をするどころか脅えて部屋に閉じこもる有様なのであった。

 そこへ、今回の直上の上司であるプリニオの裏切りの発覚である。もはや後ろ盾を失った、穀潰しのユウセイを擁護するものなど魔族の中に誰一人としておらず、順当にその能力と評価に相応しい、離れの衛兵の仕事を押し当てられたのである。


 だが、そんな正当な評価と扱いに、当の本人であるユウセイは納得しておらず、苛立ちを隠せずにいた。



「くっそ! くそくそくそぉぉぉ!!! なんで俺がこんなこと、しなくちゃなんねえんだよ…これもアイツ…アシヤ・イチローに出会ってケチが付いた所為だ…」



 この期に及んでも、ユウセイはまだ自身を顧みる事のない他責志向で、全てはアシヤ・イチローの所為で、自分は悪くないと考えていた。

 ユウセイがそういった歪んだ自己評価と思考を持つに至ったのは、現代日本における彼の生い立ちや環境に寄るところがある。

 ユウセイ・タク・ゲンの三人は、それぞれ政治家・マスメディア・弁護士の父親を持ち、一般の正常な価値観を教えられる家庭教育を受けたのではなく、自分たちは選ばれた特権階級の存在であると教えられてきたのだ。普通の家庭なら叱られる場面でも、彼らの親は「お前たちは庶民とは違う」と言い聞かせ、罪をもみ消すことを愛情だと勘違いしていた。

 

 そんなユウセイたち三人は小学校の頃から悪戯などの悪事を繰り返し、学校の良識ある先生や同級生から批難されても、三人の親が権力を振りかざして黙らせてきた。

 そして、高校生に上がった時には、盗み・犯し・殺すという三悪を悉く成し遂げ、残虐非道・暴虐の限りを尽くしたのにも関わらず、悪びれず飄々と暮らしていた。そんな事をしても自身の経歴が無傷でいられたのは、やはり三人の歪んだ精神を持つ親たちのお陰で、法・倫理・道徳の全てを権力と知識の悪用で道理を曲げてきたからである。


 だからこそ、ユウセイたちは自分たちが特別な存在だと思い込み、この世は全て自分の思い通り、自分こそが世界の主だと勘違いして生きてきたのである。


 しかし、彼らはアシヤ・イチローに出会ってしまった。


 その日を境に彼らの歪んだ歯車は狂い始める。今まで彼らが相手をしてきた者たちは、彼らの風貌や言動で竦み上がり無抵抗となる。たとえ、抵抗してきたものがいたとしても、次の日には、弁護士の父によって法を悪用し、メディアの父によって真実を捻じ曲げ、政治家の父によって権力を振りかざして、被害者を事実とは真逆の悪人に仕立て上げてきた。

 

 だが、アシヤ・イチローだけは違った。彼らの風貌や言動に臆することなく、またナイフを出しても竦む事もなかった。逆に彼らを蹴り飛ばし殴り飛ばして、逆に彼らが行ってきたカツアゲー強盗致傷をやり返してきたのである。そこで金とスマホ、そして衣服を奪われた彼らは復讐を試みるが、親の力を使っても一向にアシヤ・イチローの行方や居場所を突き止めることは出来なかった。それはまるで、存在していなかった人間がこの世に紛れ込んで来たかのようであった。


 そんな中、彼らは運が良いことなのか、それとも悪いことなのか…アシヤ・イチローの手がかりを得る。それはアシヤ・イチローと同行していた少女、カローラの姿を見つけたことである。彼らはその場で拉致または復讐することも考えたが、まだ昼間で人目があり、カローラの後を追いアシヤ・イチローの居所を突き止めようと考えたのだ。


 そして、その日の夜、彼らはアシヤ・イチローに「奪うのは奪われる覚悟のある者だけだ」という忠告を忘れて、武器を用意して、アシヤ・イチローの居場所に忍び寄る。するとアシヤ・イチローが自分から家の外に出てきたので、その後を追い人気の無い河川敷まで来たところで襲い掛かったのだ。


 だが、彼らは再び返り討ちにされてしまった。その時は前回と違って痛めつける程度では済まずに、あるものは頭をかち割られ、あるものは喉を刺されて… それぞれ、アシヤ・イチローに直接手を下されたものではなく、同士討ちという形で命を落とすことになったのだ。


 その後、騒ぎを聞きつけた住民によって通報され、警察が駆けつけた。


 仲間たちが全員死んだなかで、ユウセイ一人だけが生き延びた。しかし、生き延びたといっても無傷というわけではなく、仲間たちが次々と倒れていく光景に正気を失っていたのだ。


 お互い武器を持って同士討ちした状況に、正気を失い話すことも出来ないユウセイの姿に、警察は仲間内のでの殺傷事件ということで処理しようとした。


 そして、その中で生き残ったユウセイに殺人の罪が問われたが、精神喪失ということで無罪判定がなされて措置入院ということになった。だが、今までのユウセイの被害者がその話を聞きつけ、自らも精神疾患を装いその病院に入院し、そこで見つけた肉親の仇であるユウセイを襲い、その命を奪ったのである。


 こうして、三人はめでたく死ぬことになったのだが、運の悪いことにその邪悪な魂が、異世界で行われた召喚の儀式に引き寄せられ、この世界に転生することになったのだ。


 ユウセイたちは前世での因果応報を受け入れ、心を入れ替えるかと思われたが、全くそんな事は無かった。彼らの魂の本質は、完全に悪辣で邪悪なものになっていたのだった。


 そして、彼らは自分たちを貶めた人物がアシヤ・イチローだと知り、アシヤ・イチローがこの世界にいると教えられる。そこで彼らは復讐心を滾らせたのであるが、実際は威勢だけで、技量や覚悟などはアシヤ・イチローには遠く及ばず、仲間を討ちとられただけで、こうして、しがない監視の衛兵をしているわけである。



(くっそ!くっそ!くっそぉぉ!! 本当の俺はこんなんじゃないんだっ! 本当の俺はもっと凄いんだ! 俺の意志が絶対なんだ! 俺を邪魔するイチローが悪なんだ! なのにアイツにしてやられるなんて… ぜってぇにチートでも使っているに違いねぇ…)


 

 ユウセイは自分の理想に現実がそぐわず、どんどんと世界に対する認識を自分の都合の良い方へと歪めていく。


 気が付けばユウセイはガシガシと爪を噛んでいた。


 そんなユウセイに不意に声が掛かる。



「よぅ…クズ野郎…」



 癇に障る言葉にユウセイが顔を上げると、本城と離れを繋ぐ連絡路の上に、見知らぬ黒装束の男が立っていた。



「なんだよっ! てめぇはっ! お前は新しい転生者だとでもいうのか!?」



 ユウセイの頭では、目の前の男が侵入者かもしれないという考えには思い至らず、自身の立場を揺るがす新人の転生者に思えたのだ。



「…だったらどうする? お古のお前は用無しってことだろ?」


 黒装束の男の目には、ユウセイを“ただのゴミ”と断じるような冷たい軽蔑だけがあった。


 ブチッ


 その言葉にユウセイは頭の血管が切れる様な音が聞こえる。



「野郎ぉぉ! ぶっ殺してやるぅぅぅ!!!」



 ユウセイは任務を忘れ、漆黒の剣を構えて黒装束の男に飛び掛かったのであった。




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コマンドーw
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