第983話 満月の遺跡へ駆ける
俺たちはフェンリルになったポチに騎乗したまま月明かりの下を駆け抜けていく。そして、とうとう目的の大樹の下にある遺跡の入り口まで辿り着き、一時立ち止まって遺跡と大樹を見上げる。
「ここが、ソーマの眠る遺跡か…」
俺は独り言のように呟く。
「ここって、誰が何の為に作った遺跡なんでしょうか? そして、本当にシュリを救うことができるソーマがあるんでしょうか…」
すぐ後ろのカローラもそんな言葉を漏らす。
「そこは…この大樹から滴る樹液とか何かで、ソーマが生成されるんじゃないかしら?」
「ありえるわね、満月の夜にしか現れない大樹… 過去の偉大な魔術師か誰かがこの大樹の元にソーマを抽出する遺跡を作ったとすれば納得できるわね」
ミリーズとアソシエがそんな言葉を交わす。そこへネイシュが二人に声を掛ける。
「じゃあ、念の為、遺跡に潜る前に、大樹の枝や葉を回収しておく?」
「うーん…枝や葉から、すぐにソーマと同等の物を作れるとは思えないけど、後々のことを考えればアリね… それだけでは薬効成分を抽出できないとしても、シュリに接ぎ木とかしてもらえ…あっ…」
ネイシュの言葉に答えようとしていたアソシエであるが、言葉の途中でシュリがいないことを思い出す。それだけ、皆にとってシュリは当たり前にいて当然だった存在であることが分かる。
「じゃあ、ポチ、とりあえず、枝や葉を回収しやすい太い枝に上ってくれるか?」
気まずそうにしているアソシエに気を使って、ポチに枝に上るようにお願いする。
「わぅ、わかった!」
ポチは俺たちを乗せたまま、ひょいと軽々しくジャンプすると大樹の太い枝に飛び乗る。
「じゃあ、枝と葉を回収するか、俺も協力するよ」
そう言って、ポチの上から降りようとするがネイシュが制止する。
「イチロー、ちょっと待って」
そして、ネイシュは収納魔法袋の中から高枝切りバサミを取り出すと、スルスルと柄を伸ばして適当な枝を切り取っていく。
その姿に、俺はネイシュまで高枝切りバサミを愛用しているのかよ…と思ったが、あえて黙っておく。
「よし、これだけあればいいよね、この道具をシュリに教えてもらってから、採取の仕事がすっごく楽になった…」
ネイシュはシュリとの思い出の品を見るような目で、高枝切りバサミを片づけていく。…なるほど、ネイシュはシュリに勧められて高枝切りバサミを使っていたのか、しかし、俺の見ていない所で、シュリは皆と交流があったんだな…
「よし、大樹の枝と葉の回収は終わったから、遺跡の攻略に取り掛かるぞ! ポチ、降りてくれ!」
「わぅ!」
ネイシュが収納魔法袋に枝を入れるのを確認すると、ポチに声を掛けて枝の上から飛び降りてもらう。そして、遺跡の入り口前まで移動する。
遺跡の入り口は苔むし、石材は劣化して長い年月を積み重ねているように見えた。その入口の様子にカローラが言葉を漏らす。
「満月の日にしか現れないといっても、その時だけ時間が進むのではなく、消えている間も時間が進んでいる様ですね… だったら…日が昇って満月の夜が終わったら… 中に居た者はどうなるんでしょう…」
カローラが不安な表情を浮かべる。恐らくは次の満月まで出られないだけだと思うが、魔族との状況がひっ迫した状態で、一か月近くも俺たちがいなくなれば、戦局がどう傾くかは容易に想像できる。
魔族に操られた黒いシュリが、人類に対して牙を向き大量殺戮でも起こしていた時には、いくらソーマを手に入れたとしても、もはや人類はシュリを許すことは出来ないだろう…
だからこそ、俺たちは早急にソーマを手に入れ、人類に対してシュリが暴れる前に手を打たねばならない…
そのことを指して、カローラは不安を感じているのだ。
「大丈夫だ、カローラ。こんなカビくせい遺跡に一か月もチンタラしているつもりはねえ、速攻で遺跡を攻略して、速攻でソーマを手に入れるぞ!」
「イチロー、本当にあのやり方で遺跡を攻略するの?」
そんな俺にネイシュが心配して確認してくる。
「あぁ! 本気だ! ポチ! 分かってるな! 遺跡の中を駆け抜けろ!」
「わぅ! ポチ! 遺跡の中をかけぬける!」
ポチは元気よく答える。
「アソシエとミリーズは罠対策の防御魔法を掛けてくれ!」
「分かったわ! 久々に聖女の本気の防御魔法を見せてあげようじゃないの!!」
「ミ、ミリーズがいれば防御魔法は大丈夫だと思うけど…一応、私も防御魔法を展開するわ!」
俺の言葉にミリーズは意気揚々と、アソシエは自信なさげに答える。
「イチロー、本当に遺跡の攻略をゴリ押しでするつもりなのね… 私の出番が無くなっちゃうけど、今は急がないといけないから納得する!」
「あぁ、その代わり、ネイシュは後ろから魔族の増援が来ないかどうか見張っててくれよな! それじゃ、ポチ! 行ってくれ!!」
「わぅ!」
その掛け声と同時に、ポチは解き放たれた弓矢のように駆け出し、遺跡の奥へと突き進む。
「カローラ! お前は道を塞ぐ扉があれば、闇の触手で撃ち破れ!」
「分かりました! イチロー様っ! この遺跡の歴史的価値よりも、私はシュリのことが重要ですっ!!」
カローラはそう言うと、早速一枚目の扉を闇の触手で撃ち破る。
「あぁ…歴史的建造物の扉が… まぁ…今はシュリの為…」
破壊された扉に、アソシエがそんな言葉を漏らす。
「気にするな! アソシエ! 全てが終わってから、じっくりと修復事業でもすればいいだろ!?」
俺はポチの行き先をコントロールしながら、アソシエの言葉にそう返す。
「えぇ、分かってるわ、こんな遺跡の攻略法、初めてだから面食らっているだけよ!」
アソシエも割り切ったのか、力強くそう答える。
「わぅ! イチローちゃま! あっちに空気が流れてる!」
「そうか! じゃあ! そちらに向けてかっ飛ばしてくれ!!」
俺たちは、考古学者なら垂涎ものの遺跡をぶっ飛ばしながら、遺跡の奥へと突き進んでいったのであった。




