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第88話 野生に返すか、人の世に戻るか…

第2章、結末というかおまけ?

「しかし、またしても恥ずかしくて、二度と訪れる事が出来なくなってしもたのぅ…」


シュリはジト目で俺を睨みながら言ってくる。


「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか、息子がケガさせられたんだぞ?」


俺は左手を振りながら答える。


にゃっ! にゃっ!


「いや、ケガさせられたからと言って、公衆の面前で出さんでもよいじゃろ」


「いや… それはもののはずみで…」


俺はシュリから目を逸らしながら、手を振り続ける。


にゃっ! にゃっ!


「まぁ、わらわ達の本拠地より離れた場所じゃから、あまり来るような場所ではないが…」


「という訳でもういいだろ? あまり重要な場所でもないし、もののはずみで恥かいただけだし…」


俺は手を動かしなら、シュリの表情を伺うように見る。


ガリッ!


動かしていた手が引っかかれる。


「痛ってぇなぁ! おい! こら! ハバナ! ひっかくなって言ってんだろ!!」


「にぃにゃ… そ、その…、もののはずみにゃ…」


俺の手をひっかいたハバナはそう言って、耳を伏せる。


 一体、何をやっていたのかと言うと、色々構って欲しがってくるハバナに疲れた俺は、その辺りでとった猫じゃらしで、腕だけでハバナを構っていたのである。やはり元々猫なのか、こんな事でも満足するのはいいが、興奮しすぎてよく俺の手をひっかいてくる。


「くっそ! 左手がひっかき傷だらけじゃねぇか…」


「もののはずみじゃろ? 許してやるがよかろうて…」


シュリがニタリと笑う。


「ぐぬぬ… 仕方ねぇな… おい、ハバナ、もういいだろ? 後はミケと遊んでもらえ」


「わ、分かったにゃん…」


 ハバナはそう言って、ミケに向き直るが、ミケはポチの上で寝そべっており、ハバナは怖くて近づけないようだ。


「思わず、連れて来てしまったが… 結構、面倒だな…」


「ミケは無気力系じゃが、ハバナはかまってちゃんじゃからのう… 一日何回か遊んでやらねばならぬのぅ…」


 ハバナは見た目、猫耳と尻尾をつけただけのコスプレの様な猫獣人であるが、性質に関しては、かなり猫っぽい、しかも面倒を見なければいけない子猫系だ。


「猫耳は好きだったが、ここまで猫の性質が強いと厄介だな… 構うのも大変だ」


「ハバナもそうじゃが、もう一人の方は構わんでよいのか?」


シュリがそう言って視線を促す。その視線の促す先には…戸棚がある…


「クリスか…」


「どうするのじゃ? あのままでよいのか?」


 フェインから馬車に戻った時にクリスの事で一悶着あった。なにがあったのかと言うと…




「後、もう少しで馬車でやすね…」


カズオがハバナを担ぎながら言ってくる。


「あぁ、そうだな… こんな、バカバカしい所はさっさとおさらばだ」


俺がそう答えた瞬間、遠吠えが聞こえてくる。


「わぅぅぅぅぅぅぅぅぅ~」


俺たちはその遠吠えに耳をすませる。


「ポチだな」


「獲物でも捕まえたんでやすかね?」


カズオがそう言うと続けて遠吠えが聞こえる。


「あぅぅぅぅぅぅぅぅぅ~」


ポチとは違う遠吠えだ。


「なんだ? ポチとは違うぞ?」


「そうでやすね… なんだか人の声に近いでやすね…」


カズオのいう通り、人の声に近い… しかも、俺たちのよく知っている人物の声に近い…


「なんか… 嫌な予感がするな…」


「そうでやすね… 早く戻りやしょうか…」


 俺たちは速足で馬車に戻る。そして、そこで見た物は… 獲物を捕らえて遠吠えをあげるポチとそれに合わせて、遠吠えをあげるクリスの姿であった。


「あいつ… この短期間で一体、何があったんだよ…」


「なんか、クリスさん… 野生化してやすね…」


そこへ、馬車の中から骨メイドが出て来てカローラに耳打ちをする。


「えっ? そうなの?」


「なんだ? カローラ、何があったんだ?」


骨メイドの言葉を聞いて驚きの声をあげるカローラに尋ねる。


「あ、あの… イチロー様、クリスは肉が食べたくなって、ポチに獲物をとり方を教えてもらっていく内にあんな風になったんだって…」


「ポチに狩りを教わるって… 猫獣人の次は、狼少女…いや、フェンリル少女、違うな、フェンリル女騎士か… あいつ、どこまで芸風を広げるんだよ…」


「あ、クリス… 鹿の首筋に噛みついて、息の根を止めてるよ…」


 そう言ってカローラがクリスを指さす。言われて見てみると本当に鹿の首筋に噛みついていた。


「うわぁ~ マジで噛みついてる…」


「旦那… もう、クリスさんは野に返してやりましょう… クリスさんは野生に帰るのが一番でやすよ…」


「あぁ… 確かにそうだな… 見てみろよ…クリスの奴、あんなにイキイキとしてやがるぜ…」


俺は、カズオの言葉に合わせて答える。


「いやいや、何を言っているのじゃ、主様たちは、クリスは元々、人の子であろうが、野に返してどうする、人の世にもどしてやらんと」


シュリが俺の袖を引っ張りながら言ってくる。


「でもな… 狭い戸棚の中で生きていくより、広々とした大自然の中で生きていく方が、あいつの為になるだろ… いわば、リリースって奴だ」


「小鳥ではあるまいし、何を言っておるのじゃ! おい! クリス! 早う戻ってこんと、そのまま野に返されるぞ!!」


シュリがクリスに大声で呼びかける。クリスはその声にようやく俺たちが見ている事に気が付く。


「み、見ていたのか…」


クリスが鹿の首筋から口を離し、唖然とした顔で俺たちに向き直る。 


「こ、これは違うんだ!!! ちょっと、ポチ殿に獲物の仕留め方を教えてもらっていただけなのだ!!!」


クリスは耳まで真っ赤にしながら叫ぶ。


「いや… 人間なら、刃物を手に持って使えよ」


「そ、それは… その… もののはずみで…」


クリスが涙目になりながら答える。俺はその言葉にシュリに向き直る。


「シュリ… この場合、俺は何をどう、許せばいいんだ?」


「もののはずみで、鹿の首に噛みついた事に対してか? 人の世に戻る事を許してやればよいじゃろ…」


シュリはなんとも言い難い顔をして答える。


「…じゃあ、ポチの時みたいに歌ってやるか… るーるる るるる♪」


俺は酒場の街でしたように、歌い始める。


「そうじゃな… るーるる るるる♪ ほれ、カローラも歌うのじゃ!」


シュリも歌い始める。


「えぇ~!? また、あれやるの!? るーるる るるる♪ ほら、カズオも!」


カローラもいやいや歌い始める。


「やっぱり、あっしもですか… ルールルルルル」


「カズオ! るーるる るるる♪ と言ったろうが!」


「へ、へい、すいやせん… るーるる るるる♪」


そして、カズオも歌い出す。


「わ、私は人間だから… ポチ殿の時ように歌わんでも… ちゃんと、言葉で戻ってこいと言えばいいだろうがぁぁぁぁ!!!」


 クリスはそう言って涙目になりながら走ってきて、そのまま俺たちを通り過ぎて、馬車の中に入り、バタン!と扉の閉まる音がなり響く。


「あ~ クリスは泣いておったのぅ…」


「まぁ… 人の世に戻れたんだからいいんじゃねぇか?」


 俺はシュリの言葉にそう返した。そして、クリスは城に戻るまでの間、ずっと戸棚の中にこもったのであった。



連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei


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