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第86話 スターゲイザーと愛すべき黒猫

「ふぅ~ ようやく、落ち着いてきたか…」


俺はミンチ機から手を放して、そこらの木箱に腰をおろす。


「わらわもすりこ木を回し過ぎたので、腕があがらん… もう暫くすり身は見とうない…」


 シュリがそう言って、すりこ木を回し続けて疲れた腕をだらりと垂らして、俺の横に腰をおろす。


「旦那もシュリの姉さんもお疲れ様でやす… 何か飲み物でも買ってきやしょうか?」


「おぅ、頼むわ、カズオ」


 魚のフィレを作り切ったカズオが手を拭いながら言ってくるので、俺は素直に頼む。シュリもすりこ木で腕が疲れているが、俺もミンチ機を回し続けていたので、結構、手がだるい。


「そういえば、お腹も空いてきたね、イチロー様」


カローラがぴょこぴょことやってくる。


「そう言えば、朝飯まだだったな…」


 こうなったら、残ったちゅるちゅるでも食うかと思って、鍋の方を見ると、既にミケが鍋に残ったちゅるちゅるを指ですくって、食べきっていた。


「あっ、ミケ… 食べきったのか…」


「イチロー! これ、凄く美味しかった! また作って!」


いつもは気だるそうな顔をしているミケが、大きく目を見開き興奮しながら言ってくる。


「俺が作らなくても、レシピは皆に公開したから、いつでも食べられるようになる」


 今回の件は、人族が持ち込んだカリカリが原因なので、俺はこのちゅるちゅるのレシピを公開して、ここの猫族が自分でちゅるちゅるを作れるようにした。これでカリカリ中毒の連中も減るだろう。


 ここの連中はのん気でいい加減な奴が多いから、これで問題解決でいいんじゃないかと思う。ミケが国を守りたいと言っていたのもカリカリが食べられなくなるのが原因だったしな… あぁ、だから奴隷落ちした時に、苦労せずともカリカリを食べられたので、国の事を真剣に考えずにぐーたらしていたのか… ほんと、バカバカしい…


「旦那ぁ~ 飲み物買ってきやしたぜ。たんぽぽ茶でやすが…」


カズオがコップを抱えて帰ってくる。


「おう、ありがとな」


俺がカズオから飲み物を受け取ろうとした時に、向こうの方から歌が聞こえ始める。


「なんだ?」


俺は耳を澄まして聞いてみる。


「さかにゃ♪ さかにゃ♪ さかにゃ~♪ さかにゃ~をたべ~ると~♪」


女の子の声だ。


「けなみ♪ けなみ♪ けなみぃ~♪ けなみぃ~がよく~にゃる~♪」


 俺は立ち上がって、声のする方を眺めてみる。すると、向こうから神輿の上にプールの監視台の様な物を乗せて、その上に黒髪の猫耳少女がメガホンの様な物を持って歌っているのが見える。


「なんだ? ありゃ?」


 俺が不思議がっている間にも、黒髪猫耳少女を乗せた神輿はどんどん近づいてくる。俺はその黒髪猫耳少女の姿を良く見てみると、小柄ではあるが、ちゃんとくびれのある体系をしているので、子供ではなく、身長が少し低いだけなのであろう。また、その身体は露出の多いビキニの様な服装に太ももまでのストッキングにガーターベルト。どうやら、ミケとはことなり、人間に猫耳だけが生えた感じで、体毛が無い。また、小ぶりな胸が可愛らしい。その小ぶりな胸と合わせるように可愛らしい顔立ちをしているが、勝気な表情をしている。


「さぁにゃ~♪ みんにゃで~♪ さかにゃ~をたべよう~♪ さかにゃはわれにゃを~♪ まっているぅ~♪ にゃ!」


 歌の最後で黒髪猫耳少女はポーズを決めるが、市場の者たちは突然の異様な光景に皆、静まり返っている。


 その様子に黒髪猫耳少女は拍手喝采が来ると思っていたのか、肩透かしをくらって、咳払いをして気を取り直す。そして、再びメガホンを使って語りだす。


「聞くにゃー! フェインの者たちよ! 人族はカリカリを使って、われにゃを支配しようとしているにゃ!!」


いや、多分それは偶然だぞ。お前らが勝手に中毒になっただけだ。


「今こそ、食生活をさかにゃに戻し! 人族からの解放を目指すのにゃ!!」


 黒髪猫耳少女はそう言って拳を突き上げるが、人々の反応は全くない。まぁ、さっき魚で作ったちゅるちゅるを食べたばかりだからな…


「どうしてにゃ! どうして、みんにゃ、何にもいわにゃいのだ!」


そう言って黒髪猫耳少女は辺りを見回す。


「あっ! ラグにゃん!」


「あっ… 見つかった…」


ミケの姿を見つけて指さす黒髪猫耳少女に、ミケは見つけられて目を逸らす。


「さては、ラグにゃん! にゃーの計画を妨害するために、人々ににゃにか吹き込んだにゃ!?」


黒髪猫耳少女は勝手な妄想して、メガホンを振り回しながらプンプンと怒る。


「ラグにゃん! そこを動くにゃ! にゃーが行って、とっちめてやるにゃん!!」


 黒髪猫耳少女はそう言って、自分があがっている台の下を見る。すると顔を青くして、足を内またにしながら、生まれたての小鹿の様にブルブルと震わす。


 何度か、下に足を伸ばそうとするが、すぐに引っ込める。それを何度か繰り返すうちに、その黒髪猫耳少女は涙目になってくる。


「あのおなごはどうしたのじゃ?」


「あぁ、あの子、怖くて降りられなくなっているんですよ…」


シュリの言葉にミケがめんどくさそうに答える。


「ハバナ様! 頑張って!」


「ちゃんと私たちが下にいますよ!」


神輿を担いでいた者たち、台の下で両手を広げて、黒髪猫耳少女を応援し始める。


「なんか、可愛い生き物だなぁ…」


俺はその様子に言葉を漏らす。


「にゃん!!」


「良くできました! ハバナ様!」


ようやく降りてきた黒髪猫耳少女に担ぎ手たちは拍手で迎える。そして、涙で潤んだ瞳をキッとさせて、つかつかとミケの所にやってくる。


「ようやく見つけたにゃ! ラグにゃん! ここであったが百年目だにゃ!!」


「ミケ、お前、ラグにゃんて言うのが本当の名前か… で、あの娘はお前の知り合いなのか? なんだか恨まれているみたいだぞ?」


俺はミケに尋ねる。


「…はい、昔、小さいころに… まぁ、ハバナは今でも小さいですが、よく遊びにきたので…」


「そうにゃ! にゃーが折角、ニシンパイを作って遊びにいったのに、ラグにゃんは、『あたしこのパイ苦手なのよね…』とか言い出したにゃん!!!」


黒髪猫耳少女はその辛い過去を思い出したのか、ポロポロと泣き始める。


「ミケ、ひでぇ事言うなぁ~」


「だって… パイの上に無数のニシンの頭があるんだもの…」


あぁ、本場イギリスと同じタイプか… それは仕方がない…


「今こそ、積年の恨みを晴らす時にゃー! ラグにゃん! 勝負するにゃん!!」


「勝負挑まれているぞ? どうすんだ? ミケ」


ミケはめんどくさそうな顔をした後、ため息をつく。


「しょうがないにゃあ… その代わり、私が勝ったら、フェインから手を引いてもらうわよ」


ミケの目がくわっと開かれる。


「望むところにゃー! にゃーが負ける訳ないにゃー!」


こうして白猫のミケ、そして黒猫のハバナの戦いに火ぶたが切って落とされたのであった。








連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei


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同一世界観の『世界転生100~私の領地は100人来ても大丈夫?~』が

最終回を迎えました。よろしければ、そちらもご愛読願います。

https://ncode.syosetu.com/n4431gp/


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[一言] テイオー推しだからめっちゃ嬉しい
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