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第84話 カリカリの真実

「カズオ! 私に近づかないでね!」


「いや、あっしは… おかしいでやすね…」


俺の後ろではカローラとカズオが距離をとって歩いている。


「しかし、主様よ、先ほど受付で申しておったが、幽霊を倒したのは本当か?」


シュリが俺に纏わりつくように歩きながら、俺を見上げて聞いてくる。


「あぁ… とんでもない悪霊だった… 本当に恐ろしい奴だったよ…」


 本当に思い出しただけでも恐ろしい… なんで、カズオなんかにとりつくんだよ… その後の事を想像するだけでもサブいぼが出るわ… ってマジ出てきた…


「でも、主様が倒してくれたのじゃな? 今夜からは安心して眠れるのう」


シュリはにこにこして言ってくる。お前、昨日も安心して熟睡してたじゃねえか…


「で、市場への道はこっちでいいんだな?」


 俺はシュリに尋ねる。昨日、カズオから話は聞いているが、俺自身が直接フェインの状況を確認したいからである。交易の件もあるし、ここの食生活のなんだかおかしい… その原因を自分の目で調べたいからである。


「あぁ、こっちじゃぞ、ついでに主様もうみねこ漁を見てみたいのか?」


鵜飼の猫バージョンの奴か… それは何気にめっちゃ見たいな…


「市場の近くなのか?」


「そうじゃぞ、市場のすぐ近くなのじゃ! わらわが案内してやるのじゃ!」


 シュリはそう言うと俺の手を引きながら駆け出す。昨日のカローラに続き、今日はシュリか… 昨日の俺とカローラは親子だったけど、今日の俺とシュリなら見た目、兄妹ぐらいか? まぁ、どちらにせよ、子守には変わりないな…


 シュリに手を引かれながら、表通りに出ると、鼻先に潮の香りを感じ始める。そして、人混みの向こうにキラキラと輝く海が見えてくる。


「おぉ! 海だ!」


俺は海を見て、思わず声に出してしまう。


「あっちの海辺に市場があるのじゃ! そして、すぐ近くの海でうみねこ漁をやっておるののじゃ! さぁ! 主様! 行くのじゃ!」


シュリは無邪気に俺を市場まで引っ張っていった。




「今、朝市の時間だよな…」


「普通ならそうでやすね…」


後から遅れてやってきたカズオが答える。


「なんで、こんなに活気がないんだ? なんか、市場の連中、みなぐったりしてるぞ?」


 普通の朝市なら、威勢のいい掛け声や、品物に目を光らせる買い物客で溢れているはずだが、人手も少なく、店の店員もまるで、徹夜明けか腹でも空かせているようにぐったりしているし、昨日のカズオの情報とは異なり、品数も少な目だ。


「昨日はもう少し、活気があったんでやすがねぇ~」


カズオが首を捻る。


「ちょっと、直に聞いてみるか…」


俺は近くの露店に近づき、カウンターに頭を乗せてぐったりしている店員に声をかける。


「おい、みんなぐったりしているが、どうしたんだよ?」


 俺が声をかけるとぐったりとしていた店員は、伏せていた耳を片耳だけあげて、半開きの目で俺を見る。


「お腹が空いて… 力が出ないみぃ~」


「お腹が空いたって… お前んところ、鮮魚を売ってるじゃねえか、魚食えよ」


俺がそう言うと、店員は品物の魚を見た後、ため息をつく。


「…カリカリじゃないと食欲が沸かないみぃ~」


「ここまでカリカリを? いくら何でもおかしすぎるだろ!?」


ちょっと、これは普通じゃない。何か原因が必ずあるはずだ。


「あれ、そんなに美味しくなかったよ」


「まぁ、腹の足しにはなるがのう~」


カローラとシュリもその様に答える。


「カズオはカリカリをどう思う? ちょっと、猫獣人たちが普通じゃない」


「そうでやすね… 元々、保存食、携帯食でやすから、特別な作り方も、変な材料も入っていやせんでしたね… 小麦、豆、肉、魚粉… あと風味付けと栄養を足すのに、ウコンにハッカク、マタタビぐらいでやすね…」


「ん?」


俺はカズオが述べる材料名に引っかかった。


「カリカリの中にマタタビ入ってるのか?」


「へい、食べてみたので分かりやす、疲労回復の為にマタタビが入っていやした」


「それかぁ~!! マタタビが入っているから猫獣人はやみつきになってるのか…」


 猫が魚に見向きもせず、カリカリばかり食べるのはマタタビが原因に違いない。多分、俺の元の世界のマタタビより猫にとっての麻薬成分みたいな物が強いのであろう。


「猫獣人にとってマタタビがダメなんでやすか?」


「あぁ、おそらく中毒症状になっていると思う… これは面倒だな…」


 もっと空腹になれば魚を再び食べ始めるかもしれんが、交易が始まってまたカリカリが輸入されれば、再びカリカリを食い始めるかも知れんな…


「なんとか、ならねえですかね?」


「ん~ 猫がもっと好きそうなものと言えば… ちゅるちゅるか?」


「なんでやす? そのちゅるちゅるって奴は?」


「あぁ、うまみ成分を濃縮したようなペースト状の食べ物だ」


 前の世界で猫を飼っていた時に、猫が飛びつくように食べていたものだ。あれなら、なんとかなるかも知れない…


「で、旦那、そのちゅるちゅるって奴の作り方は分かるんでやすか?」


「…大丈夫だ… 俺は一度作ったことがある…」


俺は少し悲しい過去を思い出しながら答える。


「仕方ねぇな… 猫獣人たちを助けてやるかぁ!!」


 俺は気合を入れて叫ぶ。俺はキョロキョロと辺りを見回し、暇そうにしている食べ物屋の露店を見つける。普段はカリカリと素揚げの魚を売っている店の様だ。


「おぅ、売れてるか?」


俺は暇そうにしている店員に声をかける。


「いや、カリカリが無くなったから、全然売れないみゅ~」


腑抜けた声が帰ってくる。


「じゃあ、これやるから店を一日貸してくれ」


俺はそう言うと金貨を一枚投げて渡す。


「えっ!? こんなに!? 貸すみゅ! 貸すみゅ!」


店員は金貨に目を大きく丸くする。


「カズオ! お前は材料を買い集めて来てもらう。柑橘系の果物一つとなにかとろみをつけるもの、後、出汁を取る干物だな。メイン食材の魚もありったけ買ってこい!」


「えっ!? そんなにでやすか? 分かりやした」


俺はカズオに金をいくらか渡して買出しに行かせる。


「あと、カローラ、昨日言った雑貨屋行って、食べ物を濾す物と、ミンチ作る道具、あとすり鉢をいくつか買いに行ってこい。運ぶのはお前じゃ無理だから、追加料金を払って持ってこさせろ」


「分かった、イチロー様」


カローラは深くかぶったフードの奥から答える。


「あとはこの世界に昆布はあるのかな? おい店員のにぃちゃん、平べったい海藻を干した物って見たことあるか?」

 

「さぁ、見た事無いみゅ~ でも、漁師に頼めばなんとかなるかも?」


現物は流石にないか… 無いのなら自分で作るしかないな…


「シュリ、うみねこの処へ行くぞ!」


「主様! こっちじゃ!」


シュリが俺をうみねこ漁をやっているすぐ近くの海岸へと連れて行く。


「なるほど、確かにうみねこ漁だ…」


 俺の目の前では、船に乗ったうみねこ飼いが何匹もの紐につないだ猫を海の中に飛び込ませて漁をしている。


「おーい! うみねこ飼い!」


俺は大声でうみねこ飼いに呼びかける。


「なんみゃー?」


「ちょっと、平べったい海藻とってくれないかぁー!」


「わかったみゅー!」


 うみねこ飼いは大声で答えると、うみねこ達に何か命令をして飛び込ませる。そして、暫くするとうみねこ達が数匹で昆布を咥えて上がってくる。


「これでいいみゃー?」


「おぉ! それだぁー!」


お互いに大声で確認をすると、うみねこ飼いが船をこちらに近づけてくる。


「銀貨一枚でいいか?」


「そんなにくれるのかみゃー? ありがとうみゃー!」


そうして、俺とうみねこ飼いは銀貨と昆布を交換する。


「主様よ、そのような物をどうするのじゃ?」


「ん? まぁ、見てろって」


 俺は受け取った昆布を乾燥魔法で一気に乾燥させる。すると見慣れた昆布の姿になる。俺は端っこをパキっと割って、シュリに一欠片を渡し、自分も少し口に含む。少し物足りない気がするが、まぁこれでいいだろう。多分、本物は熟成とかさせているのかな?


「ほぅ… これは口の中でしがむと味が出てくるのう…」


シュリは昆布の欠片をガシガシと噛んで昆布を味わっている。


「じゃあ、露店に戻るぞ」




連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei


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作品に興味を引かれた方はぜひともお願いします。


同一世界観の『世界転生100~私の領地は100人来ても大丈夫?~』が

最終回を迎えました。よろしければ、そちらもご愛読願います。

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