第82話 フェインののん気な猫たち
「イチロー様! 早く! 早く!」
俺はカローラに手を引っ張られながら、フェインの街中を歩く。
「おいおい! カローラ、はしゃぎすぎてコケるなよ!」
俺はカローラにそう言ったところで、はっと気が付く。これって、休みの日に子供に家族サービスしている父親の姿、まんまじゃん!
「イチロー様? どうしたの?」
考え込む俺を、カローラが深くかぶりこんだフードの奥から伺ってくる。
「いや、なんでも無い… 行くぞ!」
逆にカローラを引っ張って雑貨店に向かう。これで父親っぽさは無くなるはずだが… なんだか事案っぽいな…
「いらっしゃいませにょ!」
店の中に入るなり、俺たちの姿を見つけて、カウンターで肘をついていた店主が起き上がり、俺たちに声をかけてくる。
まぁ、威勢よく声をかけてきたのはいいが、店内の品数を見るとなんだかスカスカだな… 種類も品数も少ない。あまり、期待できなさそうだな…
「ちょっと、カードを買いに来たんだが…」
「カード! カード!」
カローラがカウンター前まで行ってぴょんぴょんと飛び跳ねる。俺たちがそう尋ねると、店主は残念そうに肩を落とす。
「カードは無いにょ… 最近、人族が全然来ないから、まったく品が入って来ないにょ…」
「えぇぇ~ ここ限定のカードパックとかないの~」
カローラがカウンターに捕まり、店主に顔を覗かせる。
「ここではカードを作るだけの施設も技術もないから、限定カードパックは人族に製作依頼しているにょ… だから、人族が来ないと限定カードパックも入って来ないにょ…」
店主はカウンターの上に顎を載せ、カローラと目線を合わせながら答える。
「やはり、マセレタが城を占領しているからか?」
「えっ!? それ! なんの話にょ! 私、知らないにょ!」
俺の言葉に店主はガバっと立ち上がって目を丸くして驚く。ここでもこの有様かよ… もう戦争とか侵攻とかじゃなくて、単なるフェイン家とマセレタ家の喧嘩じゃねぇか… まぁ、軍隊を相手にするよりはいいが…
「本当に一つもカードパック、残ってないの~」
カローラが店主にねだり始める。
「ちょっと、待つにょ、調べてみるにょ」
店主はそう言うとカウンターから離れて、戸棚にあるカードパックの箱を取り、カウンターの上に載せる。
「あっ!?」
店主が声をあげ、その声に合わせてカローラがカウンターの上に身を乗り出す。
「一個だけ残ってたにょ!!」
「買う! 買う!」
一つだけ残っていたカードパックにカローラが必死に手を伸ばす。
「はい、お嬢ちゃん」
「ありがとう~」
カローラはお金を支払ってカードパックを受け取る。俺はカローラがカードパックを買っている間、店内の品を見回していたが、特に欲しいものは無かった。
「カローラ、じゃあ、帰るぞ。開封は帰ってからにしろよ」
「はぁーい」
カローラは元気よく答えると、とことこと俺の所にやってきて手を繋ぐ。髪の色も同じだし、もう親子にしか見えんな…
俺はそう思いながら宿屋へと戻った。宿に戻ると宿の主が声をかけてくる。
「おかえりなさいませ、お客さにゃ! お連れ様が、食堂でお待ちにゃ」
宿の主がそう言うので、俺はシュリとカズオがもう帰って来たのかと思い、食堂を見ると、ミケが椅子にピンと背筋を伸ばして座ってじっとしていた。
「おぅ、ミケ待たせたな、何も注文してないのか?」
俺は声をかけると、目をくわっと開きながらこちらを見る。
「私は、お金を持っていませんので、イチローが帰ってくるのを待ってました」
「おぅ、そうだったな… じゃあ、皆が戻ってから一緒に注文しようか…」
俺とカローラもテーブルの椅子に腰を降ろす。
「ところで、ここフェインの名物料理とかはあるのか?」
「ある!」
普段、腑抜けているミケが珍しくピンと耳を立てて言ってくる。
「いや、あるとは思うが、どういったものかを聞いてんだよ」
「カリカリ!」
「いや、それは輸入品だろ、他のものはないのか?」
「ネズミ!」
「うわぁ… ネズミかぁ… カリカリにしろネズミにしろ… 俺たちの食べやすいものは無いのか…」
俺はテーブルの上のメニューを見る。うん、読めない… 人類圏の文字は何とか覚えたが、猫獣人の言葉は流石に覚えてない。俺はカローラにメニューを渡す。
「カローラ、メニュー読めるか?」
「うーん… 少しだけ?」
そう言いながら、カローラはメニューを開いて中を見ていく。
「俺たちの食えそうなものはあるか?」
「うーん、どうも主食はカリカリしかなさそう… あとはネズミ料理と魚料理もあるね…」
「おっ!? 魚料理!?」
「焼くか揚げるか煮るか生か、選べるみたい」
カローラが眉を顰めながらメニューを読んでいく。
「えっ? 料理じゃなくて調理法を選べるだけ?」
「そうみたい…」
「うわぁ… 食文化が育ってないな… どうしてなんだろ?」
俺がメニューの話を聞いて考えていると、シュリとカズオが帰ってくる姿が見える。
「ただいまなのじゃ!」
「ただいまにゃん、旦那様~」
なんだかご機嫌のシュリと、発作を起こしているカズオとがこちらにやってくる。
「なんだか、ご機嫌だな、シュリ」
テーブルにつくシュリに声をかける。
「そうじゃ、うみねこを見て来たからのう! わらわは初めて見たのじゃ!」
「えっ? うみねこって鳥だろ? その鳥がそんなに珍しいのか?」
うみねこぐらいで喜ぶシュリが不思議に思える。
「何を言っておるのじゃ、主様よ。うみねこが鳥である訳なかろうに」
「も、もしかして… 猫なのか?」
俺の言葉に片眉をあげるシュリに、俺は恐る恐る尋ねる。
「そうじゃ、うみねこ飼いが紐をつけた猫を海に潜らせ、捕まえた魚を吐かせるのじゃ」
「鵜飼の猫バージョンかよ… 異世界なめていたわ…」
そもそも、猫獣人が猫を使って漁をするのってどうなんだ? 人間が猿を使ってヤシの実取らせるのと同じ感覚か?
「カズオの方の市場はどうだったんだ?」
「へいにゃん、市場の方は海産物でいっぱいだったにゃん!」
「おい…カズオ… いい加減、その喋り方…辞めないか…」
食事前だというのにカズオのキモさで食欲が失せそうだ…
「だって… この恰好で普通の喋り方だったら、単なる変態にゃん」
「その恰好の時点で変態なんだよ!!」
「わ、分かりやした…旦那」
俺に怒鳴られた事で、カズオはぶりっこ顔から、普通の顔に戻して、普通の喋り方をするが、今度はその様子になんか吹き出しそうになる。
「海産物はいっぱいあったんでやすが、どうも過剰供給のようで、値崩れをおこしていやしたね… なんでも、取引相手の人族が来ないからだそうで…」
「やはり、そちらでもそうだったのか… 雑貨屋でも同じことを言っていたな…」
「で、ここの猫獣人の方々は、自分で取った魚をあまり食べないようでやすね…」
「ちょっと…や、やめてもらえんか…二人とも…」
シュリが俺たちに声をかけてくる。俺はシュリの方に顔を向けると、シュリとカローラが必死に笑いを堪えている。
「二人とも真剣な顔で真剣な話をして居るが… カズオの姿が…」
クッソ… カズオのせいで俺まで笑いものになっているじゃねぇか…
「分かった… じゃあ、飯にしよう… みんな、注文はいいか?」
「カリカリ!!」
俺がそう言った瞬間に、ミケが背筋をピンと伸ばしてカリカリを注文する。
「お、おぅ、ミケはカリカリだな… おい!、注文を頼みたいんだが!!」
俺は声をあげて店員を呼ぶ。
「はい、注文ですにゅ?」
ウエイトレスの恰好をした、直立した猫のような猫獣人がやってくる。これは性的な意味を抜きにして可愛いな…
「えっと、主食はカリカリしかないんだったよな… ではカリカリを5人前で、あとは何を注文する?」
「わらわはネズミの揚げたのを」
「あっしも同じのを」
シュリとカズオはねずみか…
「私は魚の揚げたの」
「ミケは? カリカリだけでいいのか?」
「私はカリカリだけで」
「分かった、では俺は魚の焼いたの」
ウエイトレスは手のひら大の黒板に注文を書いていく。
「では、しばらくお待ち下さいにゅ」
そういって厨房に向かっていった。
なんかこれなら、カズオ飯の方が良さそうだな… 俺はそう思いながら料理を待つことになった。
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同一世界観の『世界転生100~私の領地は100人来ても大丈夫?~』が
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