第817話 BB
「マズイっ!!!」
身を乗り出した俺にも、DQNの一人が装飾品を投げる姿が目に映る。
奴ら! やりやがった!! とんでもない事をやりやがった!!!
以前は、何もない辺境の村、しかも、俺たちがすぐさま上空に逃げ出したので、地上には殆ど被害が出なかったが、今回は大勢の領民や建物が林立する城下町、しかも上空に投げるのではなく、壁の上の俺たちに向けて投げてきやがった!!!
今から逃げ出して間に合うのか!? そもそも、周りの仲間や住人はどうなる!?
「くっ!!! 間に合えっ!!!!」
そこですぐさまデュドネが弓を引き絞り、放物線を描いて飛ぶ装飾品に矢を放つ!!!!
チンッ!
「あっ!!」
咄嗟の反応と、BBの恐ろしさのあまり緊張していたのかデュドネの矢は、芯を捉えて命中するのではなく、掠る程度に留まる。
その光景を目の当たりにした者は、死を覚悟した。
しかし…
「大丈夫!!! 任せて!!!」
タンッ! チュキィィィィィンッ!!
クリスが早業で放った銃が、装飾品の芯を捉えて命中したのだ!!!
「ちっ! じゃあ、あばよっ!」
その音がDQN達にも聞こえたのか、舌打ちをしてテレポートを行い鬼神や魔族人と供に姿を消す。
なんでテレポートできんだよっ!!でも、とりあえず危機は去った…
俺たちはほんの一瞬の死の危機から死の覚悟、そして死からの解放と目まぐるしく状況が移り変わり、何も言葉を発せず呆然としていた。
だが、DQNたちが姿を消した事で漸く安堵の感情が湧き上がってくる。
「たす…かった…のか…?」
「ふぅ…クリスの射撃がなければと思うと…肝が冷えたぞ…」
冷や汗をダラダラと流すデュドネがほっと胸を撫で降ろす。
ヴォン
しかし、突然、俺たちは陰に包まれる。
はっとして、空を見上げてみると、黒い球体が空に浮かんでいたのだ!!
「えっ!? 銃で撃っても壊れないの!?」
装飾品に銃を命中させたクリスが目を丸くする。
「みんなぁぁぁぁ!!! BBだぁぁぁぁぁ!!! 吸い込まれるぞぉぉぉぉぉ!!! 近くの物につかまれぇぇぇぇ!!!!!!」
俺は再び腹の底から大声を放つ!!!
グゥオォォォオオォォォォォオッォォオォオ!!!!!!!
俺の声と同時にBBが吸引を開始する。その吸引は突然、暴風雨の只中に放り込まれたような轟音と共に凄まじい暴風による吸い込みを始める。
「ひぃぃぃっ!! 吸い込まれるっ!!!!」
小柄なダークエルフたちの身体がBBに吸われて浮き始める。
「貴方たちっ!!! 私の闇の触手に掴まりなさいっ!!!」
そこへカローラがダークエルフたちに闇の触手を伸ばすが、闇の触手自体もBBに吸われて中々ダールエルフたちに届かない!
「ひぃぃぃぃ!!!」
「仕方ないわねっ! 触手の太さを増せばっ!!!」
カローラは闇の触手の太さを人の腕の太さから、丸太並みに太くする。すると風にあおられるようにプラプラしていた闇の触手はしっかりとダークエルフに伸びて、その手をしっかりと繋ぎ止める。
「カローラはどんどん、吸い込まれそうな奴を回収してくれ!!」
「分かってますっ!! イチロー様っ!!」
カローラは一人目のダークエルフを巻き上げると、すぐに次の者に闇の触手を伸ばし始める。
「あっ!」
その時、壁にしがみ付いていたルミィの手が滑って、宙に舞い上がる。
「ルミィ!!」
「姉さんっ!!!」
「私が行くっ!!」
壁につかまっていたブラックホークは、すぐさま手を放し、自分も吸われる事を厭わず、ルミィに向けて飛行魔法を使う。
「ブラックホークお兄様っ!?」
「ルミィィィ!!! 私の手につかまれぇぇぇぇ!!!!!!」
「は、はいっ!!!」
ルミィは先ず、アホ毛から闇の触手を伸ばして、ブラックホークの腕を掴み、その後すぐ、自身の腕でブラックホークにしがみ付く。
「よしっ!!」
ルミィの身柄を確保したブラックホークは、何かを放った後、くるりと身体を反転する。
ドゴォォォォォォン!!!!!!
すると、ブラックホークの後ろに凄まじい爆発が起こり、その衝撃でブラックホークは地上に跳ね飛ばされる。
「ぐっ!!」
地上に打ちつけられたブラックホークは、すぐさまワイヤーを撃ち出して建物に絡ませて、身体を固定する。
「ブラックホークお兄様っ!! ブラックホークお兄様ぁぁぁ!!!」
「だ、大丈夫だ…ルミィ… 私がお前を…二度と手放す事などない…」
ブラックホークは痛みをこらえてルミィに笑顔を作る。
「私も…ブラックホークお兄様から二度と離れません…」
そう言ってルミィもぎゅっとブラックホークを抱きしめる。
「いや…ブラックホークの奴…マジで凄いな… あそこまで出来るとは流石に脱帽だ…」
そんな感想を漏らしていると、俺が掴まっている壁の石材がポロリと取れる。
「うぉ!! マズイ!! 石材のブロックが吸い込まれ始めたっ!! みんな!!! 柱か何か、もっと吸い込まれにくい物に掴まれ!!!」
俺はそう叫びつつももっと丈夫な物に掴まろうとするが、掴まろうとする石材がポロポロ外れて吸い込まれ始める。
「ヤベェ!! このままじゃ、吸い込まれる!!」
「安心せい!! あるじ様っ!!!」
その声と同時に急に身体がグンッ!と重くなる。というか、重さに堪えられず立てなくなる。
「えっ!? 一体どうしたんだ!?」
「あるじ様、初めて会った頃に言っておったじゃろ、わらわは人化している時は質量を魔法で遮断しておるのじゃ、それを切ればこの通り…」
俺の胸にしがみ付いているシュリがどんどん重くなっていく。これなら舞い上げられて吸い込まれる事はないが… 子泣きじじいならず子泣きシュリ…いやオカン?
「俺は吸われる心配がなくなってありがたいが、他の奴らはヤバいな… 掴まっている建材まで吸われそうになっている…」
「わわわわっ!! 闇の触手で固定している所がっ!!!」
カローラが闇の触手を身体の周りにテントのペグのように撃ち込んでいたが、その床が崩壊しかかって、吸われそうになっていた。
「おい! カローラ! こっちに手を伸ばせ!! シュリが重石になってくれる!!」
「分かりましたっ!!」
そう言ってカローラがこちらに手を伸ばして来るのだが、おまけに今まで確保していたダークエルフをヘアカーラーを何個もつけている様な姿でやってくる。
「ひぃぃ! 飛ばされる! 飛ばされる! もっと強く巻きつけて下さいっ!」
「そんなこと言っても、魔素がもう足りないからこれで限界なのよっ!!」
「そんな状態で俺に捕まっても、闇の触手の強度が持たんかも知れんな…」
そんな独り言を漏らすと、胸元の重石になっているシュリが声を上げる。
「ポチよ! 以前やったように、身体を大きく、そして重くなるのじゃ! それで、皆がポチの下に潜り込めば何とかなるかもしれぬ!!!」
「わぅ! こう?」
以前の訓練で行っていた象のような大きさになるポチ、俺やカローラはその下に潜り込んでいく。
「わぅ! なんだか、ポチ…身体が浮きそう…」
「くぅ! 身体は大きくできても、まだ重量までは増やせんか… 仕方がない!! ダークエルフたちは自力でポチの毛にしがみ付いて、カローラはわらわをポチに巻きつけてくれ!!!」
「分かったわ! シュリ!! これでいいの?って 重っ! 通常の太さの触手じゃダメ…もっと太くしないと…」
シュリは俺ごとポチの腹に縛り付けられる。
「わぅ! これなら大丈夫!」
こうして、俺たちはなんとかBBの吸い込みから逃れる事が出来たが、その他の者は大変な事になっていた…