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第41話 デッドオアアライブ?

「な、なんでじゃ! 主様! なんでそんな事になるのじゃ!!」


いきなり、一緒に死んでくれと言われたシュリは、イチローに声を荒げる。


「だって、ペットの後始末は飼い主の責任だろ?」


イチローは精神的にやつれた顔でさらりと言う。


「わ、わらわが…ペットじゃと?…」


シュリの顔が強張る。


「ペットが主の死後、悪さをしない様にケリを付けないとな… 大丈夫だ安心しろ、ただ殺すわけではない、ちゃんとお前の身体は俺が食って、俺の身体の一部になって一緒に天国へ行こう…」


 この身体で、イチローのアレを使って性的に食われるのもお断りであったが、人の姿、ドラゴンの姿、どちらの姿であっても、物理的本質的に食われるのも、シュリはお断りであった。


「カローラ、カード仲間であるお前を食う事は出来ない…」


イチローは次にカローラに向き直りそう告げる。カローラはその言葉に少し安心した顔をするう。


「だから、お前は聖水の中に漬け込んで、成仏させてやろうと思う…」


「ひぃっ!!」


 カローラはイチローの言葉に悲鳴を上げ、元々白い顔を更に青白くさせて、奥歯をカタカタならす。


「カズオ…お前はどうすれば一番楽に死ねるか、お前の身体を使って試そうと思う… 安心しろ、ちゃんと最後には殺してやるから…」


「やだぁぁぁぁぁ!!! あっしが一番、酷いじゃないですかぁぁぁぁ!!!」


 カズオはイチローによってありとあらゆる殺し方を試される所を想像して、小娘の様に悲鳴を上げる。


次にイチローはポチに向き直り、その頭を撫でてやる。


「ポチ…お前は、子を残しながら子々孫々に渡って、俺の墓守をしてくれないか…」


「くぅぅ~ん…」


ポチはイチローの言葉に、悲しそうに目を伏せる。


「えっ? ちょっと待ってくれ…主様…」


「なんだ? シュリ…」


イチローはポチを撫でながら、シュリに顔を向ける。


「ポ、ポチは食わんのか?」


「ポチまで食ったら誰に墓守してもらうんだよ」


イチローは真顔で言う。


「贔屓じゃ!! 贔屓じゃ主様!!」


シュリはポチと自分との違いに声を荒げる。


「えぇ… お前は俺と一緒になって、天国に行くのが嫌なのか?」


 シュリはイチローの言葉に、一瞬、二人で抱き合って、光に包まれながら天に昇る姿を想像するが、頭を振って気を取り直す。今までのイチローの生き方を見てきたが、イチローが天国など行けるはずがない。一緒に地獄行きだ。


「わ、わらわも…主様の墓守は駄目なのか? わらわも大人しくするので…」


「シュリ…ドラゴンはフェンリルと違って長生きだろ? そんな気の遠くなるような時間、お前を墓守なんかに縛り付けて置く事は出来ないよ…」


イチローは優しい目でそう告げるが、言っている事はどれも狂気じみている。


 これは何とかしないと駄目だと思ったシュリは、カローラとカズオに目配せし、三人でしゃがんで円陣を組んで、相談を始める。


「これはなんとしても、主様のアレをなんとかせねばならん! でないと、わらわたちは道連れにされてしまうぞ!」


「わ、私も聖水はいや! あれは人間で言うなら、強酸に沈められて溺れ死ぬ様なもの…」


「あっしも何度も殺されるのは、願い下げでやす!!」


それぞれが殺される事に否定する言葉を告げる。


「しかし、何か手立てはないのか?」


「私も骨メイドに何かないか聞いてみる!」


「ちょ、ちょっと! あれを見て下せい!」


 円陣を組んでいたカズオが顔を上げ、指差す。皆が顔を上げ、カズオの指差す方向を見てみると、自分の剣を研いでいるイチローの姿があった。


「ちゃんと肉一片残らず、食ってやらないとな… ドラゴンを三枚におろせるように剣を研がないとな… しかし、ドラゴンとなると量が多いから、保存する方法も考えないとな…」


イチローは冗談ではなく真顔で剣を研ぎ続ける。


「シュ、シュリが食べきられる前に方法を考え付かないと…」


カローラが少し安心したような顔をする。


「カローラ! それではわらわは殺されておるではないか!」


「あっ、旦那が何か別な事を思いついたようですぜ」


カズオの声に、再び、皆がイチローに向き直る。


「そうだ、カローラの為に聖水を用意しないとな… 馬車の水樽を使えばいいか… 俺は神聖魔法が苦手だから、樽一杯にするのに半日ぐらい掛かるかな…」


 そう言って、イチローは立ち上がり、馬車の外に出ていく。そして、暫くしてから、馬車の外から神聖魔法を唱える声が聞こえてくる。


「ど、どうしよう…シュリ… じ、時間がもう半日しかないよ…」


 シュリが食べきられる前と言っていたカローラが、自分の寿命は半日しかないと分かり、奥歯をカタカタと鳴らして、涙目で震えた声で言う。


「兎に角じゃ! 誰か欠けてからでは、後味が悪い! 皆が生き残れるよう、すぐに何か考えなくては!!」


「そうでやす! あっしもシュリの姉さんを捌くのを手伝えとか言われそうで…」


そこへ骨メイドの一人が何かカローラに語りかける。


「えっ? それ本当なの!? ヒカリ!」


「どうしたのじゃ?カローラ」


 シュリが訊ねるが、カローラはたたたっとテーブルに向かう。そして、テーブルの上にあったカードから何か探し始める。


「カローラ嬢…今はカードで遊ぶ時では…」


「あった! これよ!」


カズオの言葉を無視して、カローラはカードの中から何か探し当てる。


「何をしておるのじゃ、カローラよ」


「これで何とかなるかも知れない!」


そう言ってカローラは一枚のカードをシュリとカズオに見せつけた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふぅ…神聖魔法なんて使うのは久しぶりだから疲れるなぁ… それにとても眠い… そうか…俺は昨日から眠っていないのか…」


聖水を作っていた俺は、疲れと眠気から足元がふらつく。


「…死ぬのはいつでも出来る…別に急ぐわけでもないから、一度休むか…」


俺はそう思うと、重い足取りで馬車の入口へと向かう。


 馬車の中に入ると、シュリ達がテーブルの上に何か広げて相談している所であった。俺の姿を見ると皆、顔を強張らせて、俺の挙動を無言で見守っている。


 ん? 地図? …あぁ…そうか…


 俺は皆に語りかけず、無視するように寝台への梯子を昇っていく。そして、ベッドの上に身を投げ出して、目を閉じる。


 あぁ、眠りに落ちていく… このまま、目が覚めなくてもいいな…


俺はそんな事を考えながら、眠りの底に落ちて行った…




「…ん…」


 俺は眠りから覚め始めた事で、眠ったまま静かに息を引き取る事が出来なかった事を覚る。まぁ、普通に寝ただけなら死ねないわな…


 それでも身体を起こすと、馬車の中は暗く、明かりがついていない様だ。俺は僅かな感覚を頼りに梯子を使って寝台から降りる。その途中で、いつも使っているテーブル席を見るが、誰の姿もない…


「…皆、逃げ出したか… それでもいい…いや、それでいいんだ…」


俺は独り呟く。皆で地図を眺めていたのは逃げ出す為であろう。脅したかいがあった。


「イチロー…貴方、イチロー様でいいのよね?」


ふいに後ろから女の声が掛かる。俺はその声に振り返る。


「ミ、ミリーズ?」


 声の先、馬車の入口にいたのは、ミリーズ。勇者ロアンと一緒に旅をしていた仲間である聖女ミリーズの姿であった。


「心配してましたわ…イチロー様」


そう言ってミリーズは顔を綻ばせながら、俺の手をとって握り締める。


「どうしてミリーズがここに?」


ここにいるはずの無いミリーズに、俺はその訳を尋ねる。


「急に私の所に、フェンリルに乗った銀髪の女の子が現れて、土下座しながらイチロー様、貴方の事を助けて欲しいと言い出したのよ」


フェンリルと銀髪の女の事というと、ポチとシュリの事か…


「あんまりにも、必死な顔で言うものだから、赤ちゃんをアソシエとネイシュに任せてついてきたのよ」


 俺はミリーズの言葉にその身体を確認する。追放される前の大きなお腹がすっきりしている。


「もう、俺の子供を出産したのか?」


「うふふ、そうよ、私が女の子、アソシエが男の子、ネイシュが女の子よ。赤ちゃんたちの事や私たちの事もいっぱい、いいっぱぁい話してあげたいけど、今は貴方の事が先よ」


ミリーズはそう言うと、俺の前に屈んで、両手を股間の所にかざす。


「シュリちゃんって言ったっけ、あの子が、必死になって言ってたわ、貴方の大事なものが奪われたから何とかして欲しいって…」


「でも、もう欠損して…無くなってしまったんだ…いくらミリーズの癒しの力が強いといっても、無くなったものを再生させるのは…」


 シュリは自分では励ます事が出来ないと考え、無理だと分かっていながらミリーズを連れて来たのか?


「うふふ、イチロー様は聖女の本当の力を知らないのね…聖女の聖女たるゆえんを…」


ミリーズのかざす両手が輝き出し、股間に何か力が集まる。


「聖女はね、無くなった部位を再生する事が出来る唯一の存在だから、聖女と呼ばれているのよ 本気を出せば、体半分を失った人でも再生できるのよ」


ミリーズの言う通り、ズボンの下の股間から何かむくむくと生えてきているのが分かる。


「だから、イチロー様のアレぐらい、私にとっては朝飯前よ…ほら」


 シャキィィーン!!!

 

「おぉぉぉぉぉ!!! 俺のマイSONじゃないか!! こいつ!心配させやがって!! どこ行ってたんだよ!!!」


俺はズボンの腰の所を広げて、いつも通りそそり立つ、自慢のマイSONの姿を確認する。


「よかったぁ~ いつもの元気なイチロー様に戻って」


ミリーズは優しい顔で微笑む。


「ありがとう! ミリーズ! ありがとう! 命の恩人だ!!」


俺は喜ぶ勢いでミリーズに抱きついた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「シュリの姉さん、お疲れ様でした」


カズオは疲れ果てているシュリに温かい飲み物の入ったカップを差し出す。


「本当に疲れたわ…精神的にじゃがな… 帰って来た時に二人ともおらなんだらどうしようかと思っておったぞ」


シュリはヘロヘロになりながらも、カズオの差し出したカップを受け取る。


「あっしは逆に、姉さん達を心配していたんですがねぇ…」


 カズオはそう言って、焚火の所に向かい、網の上で焼いている、骨付きあばら肉を金ばさみで一つとる。


「まぁ、皆振り向きはしたが、襲っては来なかったなぁ… ただの狼にまたがる小娘にみえたのであろう」


 シュリは熱さに気を付けながら、カップの中身を一口啜る。カズオは先程取った骨付きあばら肉を、ポチの前に置く。


「ポチもご苦労さまでやしたね。一杯用意しておりやすから、どんどん食うでやす」


「わう!」


ポチは一杯走ったはずであるが、そんな疲れは見せず、元気よく骨付きあばら肉に食いつく。


「ねぇねぇ! シュリ~!」


ぐったりしているシュリにカローラが駆け寄る。


「頼んでおいた、ガイラウルのカードパック買ってきてくれた?」


「いや、すまぬ…流石にそこまで気が回らなんだ。しかし、今回の事ではカローラ、お主のカードに助けられたのぅ~」


 今回の一件はカローラの骨メイドの一人が、聖女なら部位欠損を再生できると知っており、その情報から、カローラがイチローの元のパティーメンバーに聖女がいる事とその存在がゲームのカードになっている事を思い出して、カードを探し出して、そこに記されているフレーバーテキストから、聖女ミリーズの出身などを割り出したのである。


 そして、その情報と、カズオから出会った経緯や場所を聞き出し、現在地を割り出して、シュリがポチと共に迎えに行ったのである。


 シュリも最初は困難な捜索だと思っていたが、聖女ミリーズの存在は有名らしく、街の人の話から、すぐに現在地を割り出すことができたのである。


「まぁ、今回はシュリが無事で戻ってきたからいいよ、また、今度、みんなで行こう!」


「そうじゃのう、今回はポチであっという間じゃったが、今度は皆でゆっくり行こうか」


カローラの言葉にシュリは微笑んで答えた。


「さぁ、皆さんの分も焼けましたので、一緒に食いやしょう!」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「で、君はその少女の願いに答えて、イチロー君を助けに行って来たと…」


「えぇ、そうよ。イチロー様が大変だと言うから、付いて行って治してきたの」


聖女ミリーズは目の前にムスッとした顔で座る勇者ロアンにそう答える。


「なるほど…イチロー君が部位欠損するぐらいの傷を負って、駆けつけるのは分かるが…」


ロアンはテーブルをドン!と叩き立ち上がる。


「どうして! また、妊娠して帰ってくるんだよ!!!」


「そ、そのぅ~ イチロー様がちゃんと使えるか確認したいって言うし… それに…」


ミリーズの頬が赤くなり、もじもじし始める。


「それになんだよ…」


「だって、イチローのイチローがあんなにイチローしているんだもの…」


「いや、何言っているのか分からない…」


顔を真っ赤にしてもじもじ指遊びをするミリーズに真顔で尋ねる。


「えっと…イチロー様の陰け…」


「いや、そこは何となく分かるよ!!でも、そんな事をいっているんじゃないんだ!!」


ロアンは詳細に説明しようとする、ミリーズの言葉を遮る様に叫ぶ。


「ようやく、君たちは出産を終え、子供たちを信頼の置ける人物に預けて、再び人類の為に戦いを再会しようと言う時に何をやっているんだ!!」


ロアンは顔をしかめる。


「私だって、ちょっとは反省しているのよ…」


「いや、ちょっとじゃなくて猛省してくれ… それに反省している人間は口角を上げたりしない…」


ロアンの言葉にミリーズはあっと気が付いて口元を隠す。


「まぁ、僕は君を責めるつもりはない。君は頼まれたら断われない性格だからね…だから…今回の責任もイチロー君だ…ふぅ…」


ロアンは今回の一件で怒るというか呆れるというか、疲れ果てていた。


「ようやく再出発の目途がたったというのに、これではまた計画のやり直しだ… イチロー君…君はどこまで僕を追い詰めるんだよ…もう、勘弁してくれ…」


ロアンは珍しく愚痴を呟いた。





「ネイシュ、聞いたわね」


「うん、アソシエ、ネイシュの耳、聞き逃さない」


「では、私達もミリーズに遅れてはいられないわよ」


「うん、分かった」


その一週間後、アソシエとネイシュも再び、イチローの子を身籠って帰って来た。


その時は、町中の人がロアンの怒声を聞いたらしい。






連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

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[一言] まさか姫様出さずに終わるとは思わんかった(笑)
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