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はらつい・孕ませましたがなにか? ~勇者パーティ内で女性メンバー全員を口説いて回った最強チートの俺が、リーダーにばれて追放? だが、もう遅い~  作者: にわとりぶらま


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第1012話 昇天-人の戦いの終わり

 アネレイトスが春風に舞うたんぽぽの綿毛のように空に消え去ったのを見送った後、マリスティーヌはほっと一息ついてから、俺に振り返る。


 マリスティーヌの姿は、遺体が保管されている礼拝堂でよく見ている。しかし、生身で、生きて、言葉を発し、微笑む姿を見るのは本当に久しぶりであった。


 本当であれば、流れる涙をそのままに、ここから駆け出して、もう二度と手放さないように力強く抱きしめてやりたかった。


 だが、そんなことはできない・してはならない事は、俺もマリスティーヌも良く分かっていた。


 今、ここにマリスティーヌがいること自体が例外中の例外であり、アネレイトス―フィリアという神の存在が人類社会に過干渉したことへの緊急措置なのだ。



「さて…」


 

 マリスティーヌは俺からの視線を切るように、アネレイトスが消えた後、呆然とする人類連合軍に向き直る。



「彼らの精神的後ろ盾であった、フィリアさんはようやく天界へと帰りました…」



 アネレイトスがマリスティーヌとの邂逅前に使っていた大陸全土に向けての投影魔法は霞のように消失しつつある。だが、マリスティーヌとアネレイトスとの邂逅から話し合いの経緯は全て大陸全土に映し出されており、誰の目から見ても何が真実であったのかは一目瞭然であった。



「あの方々はこれからどうするんでしょうね…でも、これからは生きている人間同士の問題です…」



 その言葉は、俺には去り際の別れのセリフのように聞こえた。だから、俺は声を上げてマリスティーヌに呼びかける。



「マリスティーヌ!!」



 すると、マリスティーヌはくるりと振り返り、微笑み掛けてくる。



「はい、イチローさん!」



 その微笑みは、あの時止まってしまった時計の針が、再び動き出すような思いを呼び起こさせた。だが、その針にはタイムリミットがあることは分かっている。


 だから、僅かに残された時間の中で、俺はマリスティーヌに言葉を伝えようと思った。でも、胸の内に湧き上がる思いが多すぎて整理できず、何から話せば…どう話せばよいか分からず言葉が詰まる。


 そんな俺の姿を見て、俺の胸の内を察したのか、マリスティーヌがクスリと笑う。そして、マリスティーヌの方から話しかけてくる。



「イチローさんとは、盛大にお別れの言葉を交わして、あれから直ぐのことですから、私も何だか気恥ずかしいです…」



 その言葉は、あの日、マリスティーヌが置手紙をして飛び出した後、再会したようにも思わせる言葉であった。


 その時、息を呑んで状況を見守っていた群衆の中から、「まるで、神話の一場面に遭遇している様だ…」という声が漏れ聞こえる。


 すると、マリスティーヌはその言葉に答えるように群衆に向けて語り出す。



「神話ではありません」



 マリスティーヌは群衆を見渡す。



「神話とは神々の日記のようなもの、自身の日記を他人に委ねてはなりません。人は…生きる者は、自身の手で自身の日記を記すものだと思います。そうした失敗も成功も含んだ人々の日々の積み重ねが歴史となり、人々の生きた証となるのです! 主人公は神ではなく、あなた達なのです!」


 マリスティーヌは告げたのだ。今、ここに集うものは人々が生きた証の歴史の立会人であり、目の前の出来事は自分が主人公の物語の一ページに過ぎないと…



「なので、脇役である私は、そろそろお暇致しますね…」



 マリスティーヌは少し寂しそうな顔をする。そのマリスティーヌに俺は再び呼びかける。



「マリスティーヌ!!」



 すると、マリスティーヌは微笑みながら顔を上げる。



「はい、分かってますよ、イチローさん…イチローさんとちゃんと再会するのは…イチローさんが人生を生き抜いて、自身の物語を終えた時です…」



 その言葉は、やはりマリスティーヌが去ってしまうことを告げていた。



「でも、安心してください。私はイチローさんを見守りながら、ずぅーっと待っていますから」



 マリスティーヌは一番良い笑顔を作る。



「あぁ! 分かってる! 俺は俺という人生をやり遂げる! そしたら土産話をたんまり持って行ってやるから待ってろよ!!」



 俺はようやく…あの時伝えられなかった言葉を伝えられたのだ。



「えぇ! 楽しみにして待ってます! それまではイチローさん…お元気で!」



 マリスティーヌはそう言い残すと、その身体が糸の切れた人形のように崩れ落ちる。だが、俺は倒れたマリスティーヌに驚くことも凝視することもなく、ただ天を見上げる。


 マリスティーヌは天に還ったのだ。俺との約束を守り続けて再び会うその日まで、天で俺たちを見守り続けるであろう。


 崩れて倒れ込んだマリスティーヌに群衆がざわめく中、俺は流していた涙を服の袖で拭う。そして、近くにいた蟻族に声を掛ける。



「おい、すまんがマリスティーヌの身体を回収して、以前のようにちゃんと保管してやってくれ、あいつがちょっと、気が向いて…何時でも遊びに来れるようにな… あと、儀式をやり終えたミリーズが疲れ切っているはずだから、介抱してやってくれ」


「あっ、はい! 分かりました! キング・イチロー様!」



 反応が乏しい蟻族でも、流石に先程の光景に見入っていたのか、俺の声で我に返り、慌てるような仕草でマリスティーヌの元へ飛び、その身体を回収し始める。


 その様子を見届けると、俺は前に向き直り、人類連合軍の軍勢を見る。


 奴らは後ろ盾のアネレイトスが消えたことや、何が本当の真実なのかを悟ったようで、ある者は恐れ慄き、ある者は武器を捨て膝をつき祈りを捧げ、そして、残りの者は武器を投げ捨て逃げ出していた。


 俺たちと人類連合軍との戦いの結果は、もはや誰の目から見ても明らかであった。


 すなわち、俺たちの勝利なのだ。



「俺たちが…勝ったんだよな…」



 俺は噛み締めるような口調で呟く。その言葉を否定するような合戦の音はどこからも響いてこない。



 すると、城の皆や、前線の塹壕の中に隠れていた者たちも、頭を出し、人類連合軍の連中が戦意を失っている様子を見て、生き残ったという実感と、戦いの勝利の余韻を感じ始める。



「生き残った…あの人知を超える戦いにも、地獄のような戦闘にも生き残ったんだ!」



 領兵の一人がポツリと呟く。そこから堰を切ったように皆が声を上げ始める。



「私たちは勝ったんだよ! 勝鬨を上げな!!」



 マイティー女王がその筋肉で引き締まった腕を振り上げる。



「ハハハ! この日、この一瞬は我らがダスタールの歴史に…いや人類の歴史に深く刻まれる!! もはや、我々は歴史の隅に追いやられた民ではなくなったのだ!!!」



 オリヴェルも負けじと太い腕を突き上げる。



「この歴史的瞬間に立ち会えたのだ…今回の出兵に本国も文句をいうことは無かろう…」



 サイリスはほっと胸を撫でおろし、笑みを零す。



「やれやれ…こんな場所に立ち会えなかったことに、後からカミラル王子から愚痴を言われそうだな… でも、今は戦いに勝って生き残ったことを良しとするか…」



 ランベルトが後でカミラル王子に愚痴を聞かされることを想像しながら、達成感に身体の緊張をほぐす。


 そうして、皆が勝利と生存の喜びに酔いしれている中、その余韻を切り裂く地響きのような轟音の声が響き渡る。



「アシヤ・イチロォォォォォォォ!!!!」



 この声の先には、強烈な存在感を放つ異形の存在があった。その者は、死蝋のように真っ白で血の気を全く感じさせない手足を幾つも持ち、そして、その手は掴んだものを同じ境遇に引き込もうと空を掴んでいる。また人の頭部が有り得ぬ場所から幾つも芽吹き、絶望を慟哭するように叫んでいた。



 そう――魔王幹部ムレキシドがいたのだ。



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