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第1005話 愚者の雷鳴、智者の矢雨

 互いに話し合えない・分かり合えないという確認作業の話し合いを終えたアネレイトスは、平静さを装って、軍の後ろへと下がっていく。



「いやはや…あのアネレイトスという女…思っていた以上に傲慢な女でしたな…」



 その様子を見ていたマグナブリルが口を開く。



「まぁ、人間の素振りをしているが、元々は神だからな…」



 俺は上っていた胸壁から降りながら答える。



「しかし、その神を前にして、一歩も引かぬイチロー様もご立派でしたぞ、神を舌戦で言い負かしたのですからな」


「それは、前のループと違って、ミリーズも殺されてないし、聖剣も折られてない。俺自身も殺人の汚名を被せられていなかったからな、敵に俺をなじる材料が少なかったにすぎない」


 胸壁から降りた俺は、敵の軍勢に振り返る。すると、舌戦を終えアネレイトスが引き下がった人類連合軍は、数万という人員で足を踏み鳴らしながら侵攻し始めた様子が伺えた。



「きやがったな…奴ら… 前回とは違う所を見せつけてやろうじゃないか…」



 これから始まる戦いの空気に、俺は武者震いをしながら敵を睨むつける。



 その頃、人類連合軍側で、先程俺の舌戦に負けてすごすごと引き下がった敵将が、軍に命令を下していた。



「これより人類の敵アシヤ・イチローに対して制裁を行う!! 真の聖女アネレイトス様よりもたらされた神の武器、銃を用いて先ずは雷鳴の一撃を食らわせてやるのだ! 鉄砲隊! 前へ!!!」



 敵将の指示により、軍勢の後ろから鉄砲隊が銃を持って前に進み出す。



「狙え!!」



 500名程の鉄砲隊が膝をつき、俺たちに向けて銃を構えだす。


 

「うてぇぇ!!!!!」



 敵将が発砲の号令を下すと同時に、500丁の銃からの乾いた銃声の轟音が雷鳴のように響き渡る。



 ダァァアアアアン!!



 耳を劈くような、金属的な響きを持つ破裂音が一瞬で発生し、複数の音が混ざり合い、共鳴して空間を歪ませるかのような感覚に囚われる。


 その轟音に俺は思わず耳を塞ぐ。そして、戦場の様子を確認すると、敵側に上がる白い硝煙と、こちら側に着弾した土煙が上がるのが見えた。


 そこで俺は、魔法で強化した糸電話のカップを手に取り、前線のランベルトに様子を尋ねる。



「おい! ランベルト! そっちは大丈夫か!?」


 

 すると、少し間をおいてからランベルトの返事が届く。



「あぁ! 大丈夫だ! イチロー卿が設置するように言ってくれた土嚢のお陰で、こちらは全く被害がでていない!!」



 俺はその言葉に胸を撫でおろす。銃弾を盾や木製の壁で防ごうとしても、簡単に撃ち抜かれてしまう。だが、石材で防御壁をつくるには時間が掛かる。なので普段からよく使われている麻袋を使い、塹壕を掘った後の土をつめて土嚢とし、安価で短時間に作れる防壁を用意したのだ。


 俺への返答をした前線のランベルトは部下たちに向き直る。



「やられたらやり返すのが俺たちの流儀だ!」



 部下たちはランベルトの言葉にコクリと頷く。



「それにカローラの嬢ちゃんから、あのメイド達を口説く許可を貰ったぞ!! その為には手柄を立てないとな!!!」


「「「おぉぉぉ!!!!」」」



 部下たちは天に拳を突き立てて答える。そんな部下たちの絶好調な士気の高さを確認すると、ランベルトは観測兵に向き直る。



「観測兵! 敵までの距離と陣形の幅を伝えろ!!」


「はい! 敵までの距離280! 幅、北に200! 南に300の一列横隊です!!」



 分厚い鋼鉄製の盾に守られた観測兵が覗き窓を使って、敵鉄砲隊の距離と隊形を伝える。



「弓兵!! 言われた通りに対応する陣形をとれ!! やり返してやるぞ!!!」



 ランベルトの声に土嚢の防壁の後ろで待機していた弓兵たちが、観測兵の報告を元に隊形を組み始める。



「銃は強い。だがな、使い方を知らなきゃただの鉄の棒だ… そんな敵に弓の使い方というものを教えてやるぞ!」



 隊形を組み終えた弓兵たちは、矢を番えて弓を引き絞る。



「弓兵! 射撃開始!! 撃ちまくれ!!!」



 ランベルトの号令により、一斉に矢が放たれる。土嚢の防護壁の後ろの弓兵からは、直接敵の鉄砲隊を見る事は出来ない。しかし、観測兵の報告で敵との距離が分かる弓兵たちは、曲射を行ったのだ。そして、弓兵から曲射された矢は山なりに飛んでいき、敵の鉄砲隊に吸い込まれるように着弾していく。



「うが…」

「ぐっ!」

「はぐぅぅ!!」



 鉄砲隊の多くの者に矢が突き刺さり、あるものは頭や胸にあたって即死し、あるものは肩や太ももに矢が突き刺さり、苦痛の声を上げる。



「くっ! 小賢しい敵め! こちらも撃ち返せ!!!」



 敵将が少々裏返り気味な声で応戦の指示を飛ばす。だが、ランベルトの弓兵の矢は、鉄砲隊に応戦の暇などあたえず、次々と…それこそ矢継ぎ早の言葉通りに撃ち続ける。


 そんな中、即死を免れた鉄砲隊の者が悲鳴を上げて、のたうち回り始める。


 

「ひぃぎゃぁぁぁ!!! 痛てぇ! 苦しいっ!!」


 

 重傷者だけでなく、矢が掠った程度の者まで、悲鳴を上げ始める。



「まさか!? 奴ら! 毒を使ったのか!? くぅ! 卑怯者め!」



 敵将は土嚢の向こうの弓兵を忌々しそうに睨みながら、歯軋りをする。そんな敵将に副官が悲壮な声を上げる。



「ラグラン将軍! 今は悔しがることより、鉄砲隊を! このままでは鉄砲隊が壊滅していしまいます!」


「ぐぬぬ! 分かった! すぐに動ける槍兵を前に! 盾を使って鉄砲隊を守れ!! 敵の矢は毒が塗られておる! 密集隊形で防御するのだ!!」



 敵将ラグランの指示により、大盾を持った槍兵が鉄砲隊の前に進み出て、その大盾を並べ立て密集の防御壁を作り出す。しかし、その隊形が完成した時には、多くの鉄砲隊が矢に打たれ、あるものは死に、あるものは毒の痛みで使い物にならず、鉄砲隊はほぼ壊滅状態になっていたのだ。



「ラグラン将軍! 槍兵の防衛で鉄砲隊を保護しましたが、時既に遅く、十数名程しか残っていません…鉄砲隊は壊滅状態です…」


「何ということだ! では、ダクラス!こちらも弓の曲射でやり返してやるのだ!!」


 

 ランベルトの弓兵にしてやられたラグランは怒りに任せて狂ったような声を上げる。 



「それが…将軍の指示により、弓兵を鉄砲隊に編成した際に、残った弓兵を歩兵に編入した為、我が軍にはもはや弓兵は…いません…」


 

 副官ダグラスの言葉に、ラグランは自身のした指示のことを思い出す。アネレイトスから銃を支給された際に、最新の銃さえあれば旧式の弓など不要と考えたラグランは、弓兵の残りを歩兵にしてしまっていたのだ。


 そして、その時、密集隊形を作って鉄砲隊を守っていた槍兵の場所より、轟音と共に火柱が上がる。



 ドガァアアアシャアァン!



「なっ!」



 何が起きたのか分からず唖然とするラグラン。一方、イチロー側のランベルトはニヤリと口角を上げ呟く。



「バカが、あんな密集隊形、魔法攻撃で一掃してくれといっているようなものだろ…」



 ランベルトは密集防衛陣形をした槍兵に範囲攻撃のできる魔法攻撃を指示したのだ。



「ギギギ…小賢しい生意気な奴らめぇ!!! こちらの魔法兵も反撃しろぉぉ!!! うちまくれ!!!」



 それは正常な軍の攻撃指示ではなく、感情的な報復攻撃を指示するものであった。

 


 ドゴォォオォォン!!! ドゴォォオォォン!!!



 敵の魔法攻撃により、土嚢のいくつかが吹き飛ぶ。しかし、ただ吹き飛ぶだけで、依然として土嚢の防壁は健全であった。確かに魔法攻撃は強力であるが、それは生物に対してだけで、幾重にも積み上げられた土嚢――圧倒的な質量の前にはいくらかの土嚢を吹き飛ばす程度でしかないのだ。

 しかもラグランの指示が悪かった。一つの場所に集中させるような指示をすれば、防壁の一部を崩壊することができたであろうが、ただの攻撃指示だったため、威力を集中させることができなかったのだ。


 ランベルトが観測兵を見る。


「観測兵、敵の位置は見定めたか?」


「はい! 見定めました!」


「やれ!」



 タァァーーーン! タァァーーーン! タァァーーーン!



 イチロー側の陣地から銃声が響く。その音と同時に、人類連合軍側の魔法兵がパタパタと倒れる。



「はっ!?」



 再び、ラグランは唖然とする。



「フフフ、敵の魔法兵を狙撃してやった…これが銃の使い方だ」



 ランベルトはニヤリと不敵な笑みを浮かべたのであった。




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ランベルト有能…いい男
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