第1002話 二着の防護服
俺がカローラ城の地下の入り口に辿り着くと、いつもの警備をしている蟻族だけでなく、アソシエやミリーズ、ネイシュも俺が到着するのを待っていた。
「イチロー! プリニオが意識を取り戻したそうよ!」
「どうするの? どうやってプリニオと面会するの?」
ミリーズとアソシエが俺の姿を見つけるなり矢継ぎ早に聞いてくる。そこで、ネイシュが奇妙な衣装を持って俺に駆け寄る。
「これ、ディート君やBLD工房の皆が作った防護服。これで寄生魔の寄生は防げるそうよ」
そう言って、以前カローラ一家が攻めてきた際、臭水を作る時にディートが着込んでいた防護服に似た服を渡してくる。
「これで、寄生魔の寄生を防げるのか?」
俺はネイシュから渡された防護服を見ると、以前ディートが着ていた防護服よりかは強化されている様で、なんだかアメリカのアポロ宇宙船に乗っていた宇宙飛行士のような防護服となっている。
これは恐らく俺がディートに渡した寄生魔の幼体を調査するために作られた防護服なのであろう。以前、ディートが研究室で着ているのを何度か見かけたことがある。
「ネイシュ、ちなみにこの防護服は何着あるんだ?」
俺は防護服を両手で摘まみ上げながらネイシュに尋ねる。
「イチローの分を除いたら、ディート君の着ていた一着だけよ」
ネイシュが答えると、アソシエとミリーズがどちらが俺と付き添うかジャンケンの準備をし始める。俺はそんなミリーズに声をかける。
「おいおい、今回ミリーズは遠慮してくれ」
「なんでよ! 私の防御魔法が必要じゃないの!?」
俺と同行する気満々だったミリーズは、不満の声を上げる。
「いや、そうじゃなくてな…寄生魔のいる所にミリーズを連れていくのはな…俺が前のループのことを思い出して、気分が悪くなるんだよ… だから、防御魔法は、コニアの森で使っていたように、他人にかける制限時間付きのがあっただろ? アレを掛けてくれよ」
「ぐぬぬ…あの時の魔法を覚えていたのね… 確かに、魔界魔素に侵食され続けるような状態じゃないから、もっと長持ちできるけど…」
ミリーズはギリギリと歯を食いしばる音を立てそうな感じで悔しがる。その横で、不戦勝を得たと思ったアソシエがイキリ顔をし始める。
「では、私がミリーズの代わりに、別の防御魔法を掛けてイチローを守るわ! ネイシュ、防護服を渡して貰える?」
「別にいいけど…アソシエ…着れるの?」
ネイシュは少し呆れた顔で防護服をアソシエに渡す。
「別に私は太ってはないわよ? そりゃ… 以前のように歩いて冒険はしなくなったし、ここのご飯は美味しいけど… あれ? この防護服…小さすぎない? 特になんだか丈が足りないような気がするんだけど…」
アソシエは早速防護服に足を通すが、子供のズボンに成人が足を通すような感じで、防護服の丈が足りていない。このままでは防護服の上を着こんでもへそ出しルックのようになるだろう。
「うん、だから最初から言ったように、イチローの分は新しく作ったものだけど、もう一着はディートの分を借りてきただけだから、アソシエじゃ小さいかも…」
「じゃあ、こんなの誰が着れるのよ、誰も着れないんじゃないの?」
「私なら、ディート君と同じ背丈だから着れるかな?」
そう言ってディートと同じ背丈のネイシュが防護服の上を着こむと、あつらえたようにピッタリであった。すると、アソシエは俺に向き直る。
「じゃあ、イチローが手にしている防護服なら、ちょっとぶかぶかになるかも知れないけど、私にも着れるんじゃないの? それなら私がイチローと二人で…」
「着れるんじゃないの?って…俺の分をお前が着てどうすんだよ、俺の分とディートの使っていた分の二着しかないって言ってるだろ? アソシエとネイシュの二人で行くつもりなのかよ… それじゃ、俺がプリニオの尋問ができねえだろ?」
「あっ…」
そこでアソシエは漸く、自分が無理難題を言っていた事に気が付く。そして、ぐぬぬ…と悔しがった後、少し怒った顔をネイシュに向ける。
「謀ったわね! ネイシュ! 最初から、選択肢は貴方しかいないじゃないの!」
「えー でも、普段からプリニオとヴラスタの様子を見に行ったり、食事を給仕するのは、私と蟻族がこの防護服とイチローの持っている防護服を着こんで行っているから、いつも通りのことだし、謀っては無い…」
ネイシュが少し困り顔で答える。その埒が開きそうにない様子に、俺は思わず口を挟む。
「あきらめろん、アソシエ、今のお前は、カローラレベルの屁理屈を言って駄々をこねているだけだぞ?」
「カローラレベルの何が問題なのよ?」
アソシエはケロリとした顔で言い返す。その言葉に、俺は思わず「そういうところだぞ…」と言いたくなったがグッと堪える。
「兎に角、俺とネイシュがプリニオの元に行くから、ミリーズとアソシエは俺たちに防御魔法を掛けて、ここで待っててくれ、後詰めがいなければ前に出るものは安心できないからな」
そう言って、バックアップの重要性をそれとなく伝える。
「わ、分かったわよ!ここで待っていればいいんでしょ! ミリーズもそれでいいのね?」
「えぇ、いいわ、その代り、イチロー、クラムプ先生たちによろしくね」
ミリーズは同じく地下にいるサキュバス三姉妹によろしく言うように言ってくる。
「それと新作が上がっていたら受け取ってくればいいんだろ?」
俺は防護服の金魚鉢のようなヘルメットを被る。
「あら、イチロー、気が利くじゃない、よろしくね!」
「忘れるんじゃないわよ! イチロー!」
ミリーズとアソシエは気をよくして都合の良いことを言ってくる。
「イチロー、私も着込めたから、もう大丈夫」
ディートの防護服を着こんだネイシュが準備完了を告げてくる。俺も防護服の上下とヘルメットを固定し、防護服に隙が無いかを確かめる。
「よし、問題なさそうだな、じゃあ、俺たちはプリニオのところへ行ってくる。三十分経って戻って来なかったら、カローラのレビンとトレノを使って様子を見に来てくれ」
「分かったわ」
「じゃあ、イチロー、気を付けてね」
俺とネイシュはアソシエとミリーズに見送られ、地下に続く階段を降りて行ったのであった。




