第1001話 前線視察と、目覚めの知らせ
俺は城下町のすぐ外にある、イアピース本国が出してくれた王国軍の駐屯地を視察していた。流石、正規の王国軍だけあって、装備は整っているし、兵たちは士気も高くよく訓練されている。
今は、麻袋を使って土嚢を作り、簡易的な陣地を構築している様だ。王国軍というエリート集団でありながら、その様子も手慣れており、要領よく陣地を構築している。
そんな陣地を構築している兵の中から、陣頭指揮をしている指揮官を見つけて声をかける。
「すまないな、防衛に来てもらった上に、陣地の構築までしてもらって、何かこちらから出せる人手や資材などがあれば遠慮なく言ってくれ!」
土嚢を積み上げた指揮所に立つ指揮官に下から見上げて声をかけると、指揮官は、俺の姿に気が付き、側にいた部下に幾つか言葉を残して降りて来た。
「これはこれはアシヤ卿、わざわざ前線にまでお越しいただきありがとうございます!」
そういって、にこやかな顔で挨拶してくる。この人物は俺と同じイアピースの伯爵で、身長が180㎝以上はある黒髪30代男性のランベルト・アルカコアという人物で、ここに着任してきた時にも、嫌な顔せずに挨拶してくれた人物である。
元々は国軍を指揮するカミラル王子の副官であるが、ダスタールの一件で俺に恩義あるカミラル王子がアシヤ領防衛線の参加に乗り気だったが、カミラル王子に何かあってはと思い丁重にカミラル王子の参戦を御断りしたところ、ランベルトのみが参加してきたのである。
「いやいや、こちらこそすまない、この領地は産まれて間もない赤子のようなものだ。自前の領兵どころか、領民の掌握もまだまだだからな、正直、王国軍が来てくれたことが本当に心強い」
自前の領兵をみると、学校で演劇をするようなコスプレみたいで、表情も場違いな場所に連れて来られた感じで、全く様になっていない。一方、王国兵を見ると、皆ビシッと装備が整っており、顔つきも百戦錬磨の猛者の顔つきをしている。
その違いの差に、羨ましいやら恥ずかしいやら、俺は複雑な思いをしていた。
「ハハハ、人材を育てるには時間が掛かりますからな、それは仕方ありません。その代り、アシヤ卿の元には蟻族騎士団がいるではないですか… 白髪の見目麗しい乙女たちが、光沢のある漆黒の鎧を身に纏い、手には白銀の槍と盾を手に、そしてガラス細工のように繊細でレースのような透明さを纏う羽を背にした姿は、まるでいける芸術品のようではありませんか! こちらのほうが羨ましくなりますよ!!」
ランベルトはあちこちで働く蟻族を眺めて、うっとりとしながら蟻族たちを褒める。…ここにも蟻族推し信者がいたのか…しかも、貴族独特の文学的な言い回しだな…
そして、ランベルトはくるりと俺に向き直り、キラキラした目の期待に満ちた表情をする。
「ちなみに私は次男坊のまだ独身でしてな… 親が早く結婚しろとうるさいのですよ」
ええと…これは蟻族の一人を嫁に寄越せと遠回しにいっているのか? なんだかレーヴィみたいな奴だな…
「お、おぅ…そうか…そうだな…結婚して早く孫を見せてやらないとな… ちなみに蟻族は上から下まで120人いるから… 別に口説く事は禁止してないぞ?」
上の108人は蟻族たちを倒す時に致し済みだけどな…
「それは誠ですか!? では、手柄を立ててプロポーズしないと!」
ランベルトは鼻息を荒くする。そこへ王国軍の昼食を運んできた蟻メイドや肉メイドたちが姿を現す。
「王国兵の皆さーん! お昼のお食事でーす!」
「おぅ! 昼食か! ここの飯は美味すぎて、イアピースに帰った時に今までの飯が食えるかが心配なんだ!!」
美味い食事とそれらを運ぶ蟻メイドと肉メイドの姿に、ランベルトは瞳を輝かせ、作業をしていた兵士たちも、コンサート会場でアイドル達が登場した時のように色めき出す。
そんなメイド達の姿を見て、ランベルトが再び話しかけてくる。
「アシヤ卿…ちなみにあちらのメイドも…口説いてもよいのですか?」
ランベルトが神妙な面持ちの部下たちを背に俺に聞いてくる。…うしろの部下たちは肉メイド狙いなのか? それをランベルトが代表して聞いてきている訳か…
「いや、あちらの蟻族ではないメイドは、うちのカローラが主だから、俺からは許可を出せん。カローラに掛け合ってくれ」
「そうですか…では、カローラ嬢を見かけた時に話して見ます」
ランベルトはそう答えると一礼し、後ろに待ち構えていた部下に説明し始める。カローラに直談判するにしても、肉メイド達はカローラから離れんと思うし、それにもともとスケルトンだからな~ 正直、難しいと思う…
そんなことを考えていると、パトロールに出ていた蟻族の一人が、スッと俺の側に着地する。
「キング・イチロー様」
「えっと、お前はシータか? 確か、ぼっさん捜索隊の一人だったな… それでぼっさんは見つかったのか?」
「それが…未だ見つかっておりません」
シータはわざとなのか、それとも本来の蟻族らしさなのか、無表情な顔で答える。
「発見する前に、ぼっさんが獣に襲われた可能性は?」
「仮に我々がその人物を保護する前に、森の獣に襲われていたとしても、血や骨、衣服やテレポート時に持ち運んだという大量の本が残されるはずです…しかし、それらも見つかっておりません」
「そうか…では、まだぼっさんの生存の望みがあるって訳だな…」
「しかし、人類は空気なら3分、水なら3日、食料は3週間、無ければ死んでしまいます。そして、もう五日目… 水が無い状況では…」
流石に蟻族も話の空気を読むということはできるので、ぼっさんが既に死亡したとまでは明言しない。
「水に関しては、そこらの小川や、水たまりを飲んで凌ぐ事もできるだろう、夜の寒さも毛布を持っているという話だから凌げるはずだ。だから、捜索範囲を広げてもらえるか?」
現在、ぼっさんの捜索範囲は城の近辺から領内に広げていた。
「すると、領外まで広げるということですね?」
「あぁ、人類連合軍との決戦前で忙しいのは分かっている。でも、人命が掛かっているんだ、すまんが頼む」
俺は蟻族に目礼する。
「我らはキング・イチロー様あっての蟻族、キング・イチロー様が望まれるのなら、いくらでも探します!」
報告に来た蟻族のシータは騎士のする敬礼をすると、羽をはためかせ空へと舞い上がる。
それと入れ替わりで、トロワが息を弾ませながら駆けてくる。
「イチロー様! 例の人物が目を覚ましました!!」
「分かった! すぐ行く!」
俺は踵を返して城へと急ぎ戻ったのであった。




