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第999話 迫る決戦、揺らぐ猶予

 スタインバーガー教皇との念話を終えた後、ブラックホークに向き直る。



「ブラックホーク、ホラリス馬車が損傷したと言っていたけど、もしかして、人類連合軍を確認しようと接近して攻撃されたのか? それとも、遠距離から攻撃されたのか? 後から話がしたいと言っていたが、あり得ない程の遠距離攻撃をされたとか?」


「いや、違う。魔族が密かに上空から人類連合軍を護衛しており、そいつらから攻撃されたんだよ、しかも、新型の寄生魔を弓矢のように一斉射撃をしてきてな…」


「なに? 奴ら魔族は寄生魔自体を武器として使ってきたのか!?」



 他大陸のセントシーナの利用に寄生魔の武器化…俺たちもシュリのことでなりふり構っていられない状況であったが、敵である魔族もなりふり構っていられない状況なんだと分かる。そして、予定より早い人類連合軍の運用…人類と魔族との決戦の日が近いことを感じさせた。


 そして、ブラックホークは言葉を続ける。



「あぁ、しかもその寄生魔というのは、新型のようでな、カローラの話では闇の触手なら侵蝕されないという話だったが、ルミィの闇の触手には侵蝕したんだ… お陰でルミィは…」


 悲壮な表情をするブラックホークに、俺はルミィが重傷や消えない傷でも付けられたのかと思ったが、ブラックホークの後ろにいるルミィを見るとなんともない…いや…頭の上に生えていた所謂アホ毛が途中からぱっくり横に切れていた。



「可哀相にルミィ…お前のチャームポイントであるアホ毛がこんな姿になってしまって… でも、安心してくれルミィ…私はそんな事ぐらいでお前を嫌いになったりしないぞ、お前に何があっても妹であることは変わりないし、私は何があってもお前の兄だからな!」


「ブラックホークお兄様!」



 そう言って二人はひしっと抱擁し合う。そんな二人にカローラが呆れながら口を開く。



「あー 二人の世界に入ってるところ悪いけど、その寄生魔…新型と言えば新型だけど、厳密には“違う”のよ」


「ん? カローラ、それはどういうことだ?」



 俺もブラックホークもカローラに向き直る。



「それがですね、私の闇の触手…いや、私が寄生魔に侵蝕されないのは、私自身が特殊な状態なんですよ」


 

 そのカローラの発言にブラックホークはむっとした顔をする。 



「それはルミィの姉ということだからか?」


「いや、そうじゃなくて…イチロー様、私がカーバルで、変態爺さん…まぁ、本性はムルティさんだったわけですが、変な血液を飲まされていることがあったでしょ? あれの一つがソーマだったんですよ」


「えっ? マジか!? だったら、なんでその時に、俺やシュリにも飲ませてくれなかったんだよ!!」


 確かにカーバルに滞在中に、あの爺さんがカローラを使って、ヴァンパイアが人間の男女の違いや性経験などの違いを味覚で感じているかを検査をしていたが、まさかあの時にカローラにソーマを飲ませていたなんて… それに、飲ませる機会があれば俺やシュリにも飲ませてくれていたら、今のような事にはならなかっただろう…



「イチロー様、それがムルティさんの手紙では、当時一人分のソーマしかなくて、誰に飲ませるか色々試したそうですけど、イチロー様やシュリに飲ませるのはダメで、私に飲ませるのが、一番良い結果になるそうなんですよ」


「カローラに飲ませるのが良い結果?つまり、俺やシュリだと、ソーマを摂取したものは生き残るけど、それ以外のものは寄生されて死んでしまうということなのか?」


 そう言いながらカローラを見る。カローラは色々と便利な闇の触手を利用することが多い。逆に言うと、その闇の触手から寄生魔に寄生される可能性が一番高いということか…それにもしカローラが寄生された場合、寄生魔に操られたカローラが、闇の触手を使って寄生魔を寄生させまくれば大惨事になるな… そう考えるとカローラにソーマを飲ませたのが一番無難だったのか…



「イチロー、どういうことなのだ? 説明してくれ」



 事情の分からないブラックホークが尋ねてくる。



「いや、遺跡でソーマを手に入れることは出来なかったが、カーバルの爺さんの一人が、俺の知り合い…いや親友の生まれ変わりで、カローラに過去にソーマを飲ませてくれていたり、また今回ソーマを送ってきてくれたんだ」



 全てを話すと話が長くなるので、かいつまんで説明する。



「そうか、経緯は兎も角、ソーマを手に入れたんだな? では、ソーマのことはもういい、次の問題に話を移すぞ! 特に今重要なのは、こちらに向かってきている人類連合軍とアネレイトスの対処だ! セントシーナに攻められているホラリスのことはホラリスに任せるしかないだろう」



 ブラックホークは感動的に入手したソーマのことや、絶賛他国に侵略されているホラリスのことは投げ捨てて、人類連合軍やアネレイトスへの対処を求めてくる。



「いや、確かにそうなんだけど、随分とサバサバした物言いだな…」


「それはそうだろう、今はソーマを手に入れて浮かれている場合じゃない。自分たちのことで手一杯の俺たちが大陸一の大国であるホラリスの心配をする余裕があるというのか? 逆にホラリス側に心配を掛けないように俺たちは俺たちの仕事をするべきだろう」


 

 全くの正論だ。ブラックホークのこういうところが仲間にしていて頼もしいところだ。俺は色々考えて悩むところが多いが、ブラックホークのように目的を見誤る事無く、しっかりと見据えているところが頼りになる。



「そうだな、確かに俺たちは俺たちにしかできないことをするべきだな」


「そうだ、それで人類連合軍やアネレイトスの対処はどうなっているんだ? 前の時間軸ではいいようにやられてしまったんだろ? 以前の会議では、人類連合軍とアネレイトスへの対策について“策がある”と言っていたが、今現在準備はどうなんだ?」



 ブラックホークの言葉に、チラリとミリーズの姿を見てからブラックホークに視線を戻す。



「アネレイトスの対処に関しては、既にミリーズが済ませており、何時でも対処できる状態だ…ただ、人類連合軍の対処に関しては…どうなんだ? エイミー」



 以前の会議で人類連合軍の対処を任せてくれと言っていたエイミーに向き直る。



「はい、交渉は成功しており準備を行っておりますが、敵の動きがこうも早いとは思わなかったので、間に合うかどうか…」


「エイミー、時間が掛かるというのだな? ちょっと待ってろ」



 ブラックホークは黒板から大陸地図を剥がすとテーブルに広げ、腰のポーチから定規とコンパスを取り出し、距離を計測し始める。



「私が人類連合軍を発見した場所はここで、カローラ城の場所はここだ。軍隊の行軍経路を考えるとこのルートになるな… このルートならば…通常の軍隊であれば四週間の距離になる…だが、連中は騎兵や兵員輸送馬車を多数用意している…それにアネレイトスもいるんだ… 悠長に四週間もかけてくるとは思わない方がいいだろう…」


「では、最長で三週間、最短では一週間程になるということか…エイミー、お前の援軍は間に合うのか?」



 俺はエイミーに向き直る。



「難しい所ですね…四週間なら余裕がありますが、一週間では間に合わないかも…」


「そうなると、色々対策を考えないといけないようだな…」



 ソーマの入手で明るくなった執務室の空気は、再び重々しくなったのであった。




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