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第997話 幾千の輪廻を越えて

 驚くカローラの声に興味本位で視線を向ける。恐らくはカーバルの爺さんがカローラの気を引くために、豪華なプレゼントでも送ったのであろうと、その時は考えていた。


 だが、実際にカローラが手にするものを見て、俺は心臓が止まりそうになるほど、驚愕する。



「ちょっと…これ……」



 カローラの肩が震えていた。 その手にあるのは精巧なクリスタルガラスで作られた小さな小瓶。その中に鮮血よりも鮮明な赤色をした液体。俺たちが切望して遺跡で探し求めていたもの…



「ソ…ソーマ!?」



 そう、それは紛れもない―ソーマであった。

 

 俺の言葉に皆の視線がカローラに注目する。



「ちょっと! どうして、ソーマがここに!?」


「なんでカーバルの学長がカローラちゃんにソーマを送っているのよ!!」


「そ、それが…ソーマなの!?」



 アソシエ、ミリーズ、ネイシュの三人も皿のように目を見開き、カローラが手にするソーマの小瓶に驚愕して、動揺を隠せずにいた。



「おい! ディート! なんでカーバルの爺さんがカローラにソーマを送ってきているんだよ!!」



 俺は驚きつつもディートに事情を尋ねる。するとディートも少し驚きつつも、予期していたかのような顔をして俺に向き直る。



「僕も箱の中身がソーマである事までは知りませんでしたが、カーバルのエドガー教授が僕宛に送ってきた手紙の中では、今のイチロー兄さんとカローラさんに絶対に必要なものが入っているから、必ず見てもらうようにと指示がありました。詳しい内容は、イチロー兄さん宛の手紙と、カローラさん宛の手紙に書いてあるそうです」



 ディートは落ち着いた態度で説明する。俺はその言葉に、衝撃とソーマを手に入れたことによる動揺から、震えた手つきで手紙を開く。



「なになに…お久しぶりです、イチローさん…ん? イチローさん?」



 俺は手紙の冒頭部分から違和感を感じる。カーバルの学長たちは、俺のことを気さくに『イチロー』と呼び捨てしていたはずだ。なのに、冒頭からご丁寧な『イチローさん』と敬称付きの呼び方に違和感を感じたのだ。俺はあの爺さんの一人からそんな呼び方をされて、むずがゆさを感じながらも手紙を読み進める。



『お久しぶりです、イチローさん。以前、カーバルでもお会いいたしましたが、本心、本当の私でお話するのは、私にとっては本当に久しぶりなのです。物凄い長い年月がかかりました。』



 本当の自分? 長い年月? どういうことだ?



『本来の私は、イチローさんと共に過ごした時間は、ほんの僅かな間でしたが、私にとって本当の友達と呼べる人はイチローさんしかできませんでした。私はイチローさんと過ごした日々を今でも鮮明に覚えております。』



 これは…カーバル学園都市での話ではなく、別の場所での話をしているんだろうな…カーバルでの話だったら、カーバルって言うだろうし…



『私は、イチローさんと離れ離れになった後、運悪く事故で死んでしまいました。そして、どういう訳か私の前に曼荼羅が現れ、私をサンサーラー輪廻転生へと導きました。そこで、もう一度、イチローさんとカローラちゃんに会いたい私は、イチローさんの元へ生まれ変わるように念じました。』



 曼荼羅? 輪廻転生!? なんで、カーバルの爺さんからそんな言葉が出てくるんだ!?



『そして、私が生まれ変わった場所は、インドでもなければ日本でもなく、それどころか、私が元いた地球とは思えないような場所でした。そして、私の姿も全くの別人になっていました。私は見知らぬ土地、なれぬ姿でイチローさんたちを探し続けました。何日も何か月も何年も探し続けました。でも、イチローさんとは巡り合うことは出来ませんでした。

 そんなある日、突然、空を包み込む黒い雲と空一杯の目玉が現れて世界と私の人生は終わりました。私はイチローさんに出会えぬまま、訳も分からず、また死んでしまうのかとおもいました。でも、再び私の前に曼荼羅が現れ、私を輪廻転生へと導きました。

 気が付けば、私は一番最初にこの世界に現れた場所、同じ姿で立っていました。最初は何が起きたか分かりませんでしたが、辺りを調べるうちに、私の時間がこの世界に現れた時に戻っていることに気が付きました。

 神や仏が、私にイチローさんと再会するチャンスを下さっていると考え、神と仏に感謝しました。

 そして、イチローさんに出会うために、前回とは別な方法で、イチローさんたちのことを探し続けました。そして、何回目かのやり直しで、ようやくイチローさんと再会できました。しかし、喜びもつかの間、また黒い雲と空一杯の目玉が現れて、全てを無に帰していきました。

 だが、私は何度も何度もイチローさんとの再会をやり直しました。しかし、多くの場合は黒い雲と空一杯の目玉に終わらせられ、それを乗り越えたとしても、カローラちゃんがいなかったり、イチローさんが大切な人を失って、失意のまま人生を過ごすということがありました。

 私もイチローさんの為に努力を重ねて、時にはマリスティーヌちゃんを救ってみたりすることがありましたが、その場合は更に悲惨な終末が待っているので、彼女にはもうしわけないですが、救うことはあきらめるしかありませんでした。

 そうしたやり直しを気が遠くなるほど繰り返した結果、この状況、このタイミングでないと、イチローさんやカローラちゃん、お友達の皆さんを救うことが出来ない事が分かりました。

 なので、イチローさんが今一番必要としている物をお渡し致します。どうか、イチローさんの大切な人シュリちゃんを救ってあげてください。そして、世界が平和になったあかつきには、本当の私と再会してください。


 貴方の友人 マヘーシュ・プラサード・ムルティより』



 その手紙を読み終えた時、俺の頬にはいく筋もの涙が伝っていた事に気が付く。


 ムルティさん…俺が飛ばされた現代日本で、ほんの僅かな間、隣人だったインド人の人物。俺は大したことをしていないのに、それを恩義に感じて、DQNに狙われた俺に忠告してくれたり、最初の住処を引き払う時には手作りの弁当まで持たせてくれた律儀で誠実な人物だ。


 あの最後の夜、二人で曼荼羅を一緒に見ながら、無数と思われる世界は、一つに繋がっていると言っていたよな…だから、時間を超えて何度も何度も俺に会いに来てくれたのか…



 ありがてえ…ありがてえよ… こんな俺のことをそんなに思っていてくれるなんて…



 俺は、感謝の意を示すように、カーバルの爺さん…いや、ムルティさんの手紙に頭を付ける。正直、俺はシュリのことを諦めかけていた…だが、あの夜の神アシュトレトは…今、この時の事を言っていたのか…


 そこへ手紙を読み終えたカローラが声を上げる。



「イチロー様っ! あの変態爺さんがムルティさんだったって手紙に書いてありますっ! 私の親衛隊の皆の伝言と一緒に!」


 

 先程の鬱陶しく忌々しい顔とは違って、カローラも涙ぐんで泣き出しそうな顔をしていた。そんなカローラに俺は袖で涙を拭いながら答える。



「ムルティさんが、俺たちの為にここまで我慢して待って、ソーマを用意してくれたんだ! 必ずシュリを救って、魔王を倒し、この世界を平和にしないとな!」



 すると、カローラも俺のように涙を拭って、明るい顔で答える。



「はい! イチロー様! 絶対シュリを救い出して、ムルティさんと再会しましょう!」



 そうして、心機一転して立ち上がろうとした時、執務室の外にドタドタと騒がしい足音が響く。



「大変だ! イチロー!」



 そして、扉が開かれると同時に、血相を変えたブラックホークが姿を現したのであった。




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― 新着の感想 ―
なんやって…( ´•̥̥̥ω•̥̥̥`) 他の奴の賢者は親衛隊か…?
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