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蓮と学校

お付き合いくださりありがとうございます。

 翌日、蓮は剣に叩き起こされた。


「蓮、今日からお前は和泉小学校の四年生だぞ。」

 学校へ挨拶に行くから準備しなさい。


「えっ、はぁ?」

 この一言で目が覚めた。


 蓮が渋々、着替えを済ませ、喫茶店のフロアに下りていくと、カウンターに美味しそうな朝食が用意されている。


「ゼクス、俺達には食事は必要ないだろう。」

 ため息交じりに伝える。


「蓮、私は今は剣ですよ。あなたのお兄さんなのです。日頃から慣らしてください。食事の習慣はあるのとないのだと、人間への意識が違いますよ。朝昼晩と食事をきちんと取るべきです。」

 ニヤニヤとした気持ちの悪い笑顔で店主の剣は話す。


「分かった。だからその顔、やめろ。生活スタイルはいつも通りお前に合わせるから。」

 そう言って、カウンターに座り、朝食を食べ始めた。


「美味しいですか?」

 剣がニヤニヤした顔で聞く。

「ああ、美味しいレベルだ。」

 と、口にいっぱいにオムレツを頬張り、蓮が不機嫌に返事をした。

 そんな蓮を、剣がニヤニヤした笑顔で見つめる。


「おい、剣。さっきもだけれど、お前の笑顔、それだと不自然だぞ。」

「え?じゃあ、どうしたらいい?」

 蓮の一言に剣が絶望に満ちた顔になり、縋り付いてくる。


「分かった。俺があとで手本見せてやるから。その顔、今はやめてくれ。」

「分かった。」

 そう蓮に言われ、剣は表情の一切ない顔へと変わった。


「そう、それが俺には一番落ちつく。」

 蓮が呟いた。


 ***


「さあ、では小学校へ行きましょう。」

 剣が嬉しそうに笑いながら言う。


 不貞腐れながら、後を追い掛け、店を出て、学校へと2人で向かう。


「先日、設定(戸籍)と共に、カピパラさんからあなたの転校手続きをしておいたという連絡を受けたのです。なんと、ラッキーなことに、蓮は瑞樹君と同じクラスですよ。彼にお願いしておきましたから、すぐにお友達が出来るに違いありません。」

 ワクワクした様子で、そう言われた蓮は、複雑であった。

 つい先日まで、最先端の研究をしていたと言うのに、小学四年生のフリをしなければいけないなんて…。


「ハハ、ウレシイナ。」

 返すコメントが片言になってしまう。


 小学校へ行くと、教頭先生と面談し、今度の話を聞く。

 担任になる先生も急いで誰かに代わってもらったのか、途中で抜け出してきたのか分からないが、少しだけ挨拶をする。


「明日からどうぞよろしくね。猫田蓮君。」

 と若い担任に両手を握られ挨拶される蓮は、何とも言えない気分に晒された。


「はあ、明日から通いたくねえ。」

 校舎を見学すると言って外に出てきた蓮は吐き出した。


「そんな事言わないでよ。テンシュ殿。」

 声のする方を見ると、ビオトープがあるだけで誰もいない。


 気のせいかと、スルーしようとしたら、また声を掛けられる。

「テンシュ殿、私はここです。水の中を覗いてみてください。」


 そう言われたので身を乗り出して水の中を覗くと、一匹のメダカがいた。


「お前、魚の王だな。何でこんな所に…。」

 不審な目付きで質問する。


「はい、魚の王、シーラカンスのシーラちゃんです。猫屋のテンシュ様のところにいたのですが、狭い水槽の中だけでは気が滅入るだろうと、ここへ連れてきてくれました。おかげで、毎日、可愛らしい者たちが順番に声を掛けにきてくれて、楽しい日々を送っていおります。あっ、そうそう、同じ理由で、そちらには植物の王が…」

 そう言いかけると、悲鳴が聞こえる。


「ギャァアアアアアー!!!何で私の事も喋るんだよーーー!?」

 ビオトープから少し横にずれ、日当たりのよい草が生い茂る一帯から声がした。


 声の主は、植物の王ユグドラシル、今の見た目はオジギソウで王たちの間ではユグと呼んでいる。


「あ、お前もいたのか…。」

 蓮が素っ気ない反応すると、

「あなたって昔からそういう感じよねーーー。」

 とオジギソウは言い、怒りだした。


 植物の王が怒っている理由は分からないが、自分が何か気に障る事を無意識に言ってしまったのかと、引きずり気にしつつ話しを進めた。


「なんか、すまん。えっと、お前、一昔前は歴史ある神社の神秘的な神木として人々に崇められて大事に扱われていたのに、今はそんな草って…いったいどうしたんだ?」

 蓮が質問すると、

「ああ、なんてことないよ。いい加減に同じ場所で動けなくて飽きちゃったから、雷落としてその場とは決別したの。今は、若くてキラキラした子達を毎日眺められて、とても幸せなのよ。クローバーになって幸せ探しゲームのターゲットになったり、オオバコで相撲を取らされたり、シロツメクサになって冠になったり、煤気になったり、色々と楽しい毎日なの。」

 なんだか素直に良かったねとは言えない心境を持ちつつ、本人が良いようなので、流す。


 少し話をしていたが、話題も尽きてきた。

 アイツはまだかと見回すと、ここから少し離れた校庭脇に麦わら帽子を被った用務員のおじさんが、黙々と草むしりをしているのが見える。

 ふと、日差しが差すのを感じ、暑さがジワリと押し寄せ、喉が渇く。


 丁度、校長と話を終えた剣が校舎から出てきたので、じゃあまたなと、王たちに挨拶し、帰路に着いた。





長くなり過ぎたので、区切りの良いところで切ったら、今話は少し短めに。

次話、近々投稿予定です。

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