天人(テンジン)
少し時間が空いてしまいました
いつも続きをお読みいただきまして、誠にありがとうございます
剣は力を振り絞って視線の先へと手を伸ばそうとするが、力が入らない。
「ヌル、来たのか…」
消えそうな声でそう剣が呟くと、頭上で浮かぶ者の視線が剣へ向かった。
そして、その者は眉を歪ませる。
その時、大きな声で叫ぶ者がいた。
「やはり、やはりそうであったか。私の仮説はあっていたのだ!SQを傷つけると、FQが姿を現すというのは本当だったのだ。あはっ、あはははははは、やった、やったぞ!ついに、ついにオリジナルに会えたのだ!?」
チャールズが両手を空に向かい広げて、上機嫌に笑う。
「おい、何をしている。早く奴を引きずり下ろすのだ!!」
笑っていたのも束の間、慌ててこの場に居るQたちへ空に浮かぶ男を下に降ろすよう命じる。
「ですが、我々にはそれに見合う能力がありません。」
怯えながらQたちは答える。
「クソッ、この役立たず共が!!」
そう吐き捨てると、チャールズは胸元から拳銃を取り出し、空に浮いている男に向かって、銃をぶっ放したのだ。
二発、三発と銃声が鳴るが、浮かぶ彼の元へ届いているのか、不明だ。
分かっていることは、空に浮かぶ彼は、その場からピクリとも動いていないという事。
突然のことで、皆が動きを止めていた。
と言うか、剣が怪我をしてからずっと、剣の周りにいる者達は、精神が大混乱となっている。
彼を助けるにはどうしたらよいのか、必死に考えても手段が思い浮かばないのだ。
もうどうしてよいのかとパニック状態に陥っていたのだ。
そんな中で空へと放たれた弾丸なぞ、目で追うことくらいしかできない。
そんな中、さすがの大熊も意識を戻さないわけにはいかない出来事が目の前で起きた。
気づいた時には、剣の横にその者が居て、手を握っていたのだ。
先程まで空中にいたソレだ。
瞬間移動したのだろうか、真横にいきなり現れたその男に、大熊は驚きを隠せなかった。
以前、甘草家の歴代当主の写真が飾られている部屋で、とても似ている男の写真を見たことがある。
テンシュ様がヌルと呼んだということと、甘草家での記憶を踏まえると、ある人物へと辿り着いた。
大熊の背中に、冷や汗が大量に流れた。
“FQだ!!”
FQは、SQであるテンシュ様たちよりも遥かに強い力を持ち、世界王の能力を自在に扱う者だ。
そして、地球上での世界王の力の管理をしている審判者であり、秩序の番人とも呼ばれている。
彼は寿命がすでに決まっているのだと、極秘事項を知るとても偉い方々から、王シリーズの保護士となった際に教えられた。
だがFQは未だに生きている。
寿命年数がとうに超えているにも関わらず、こうして大熊の目の前に現れ、動いているのだ。
これまでどう生き永らえてきたのか不明だが、世界王の力を使い世界の秩序を乱した者への制裁の際にだけ、この世界に姿を現し、罰を与えるのだと伝えられていた。
その人物が、今、目の前に居る。
おそらく、この者は、大熊の命など一瞬でかき消せるだろう。
側にいるだけで、強者の圧を感じた。
FQが剣の手を握っている最中に、チャールズが素早く傍まで駆けてきて、拳銃を構えた。
そして、躊躇なく再び銃口を剣に向けた。
気付いたJ国側の者達が助けようと駆け寄る。
大熊も必死で身体を動かした。
無情にも銃声が鳴る。
間近での大きな銃声音に、J国民たちは反射で体が停まり、耳を咄嗟に抑えた。
慣れていないその音に、恐怖心と怒りが湧き、そして酷い不安を抱く。
だが、弾は剣には当たらなかった。
至近距離にも関わらず、弾が剣の体に命中しなかったのは、大熊が大きな体で覆い被さり、庇ったからだ。
大熊の肩から血が滲み、真っ赤に染まり始める。
「グッ…」
と、大熊が苦しそうな声を漏らし、肩を抑えて顔を歪めた。
「クソ、外したか…だが、次は外さない。どうだ、オリジナル。私と一緒にE国に来ると言うのならば、SQを見逃してやろう。返事次第では、その者の命はないぞ。」
そうチャールズが放った瞬間、彼の手首をオリジナルが掴んでいた。
拳銃を握る側の手首を掴み、グッと力を入れると、チャールズの顔が歪む。
「イタッ、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い、手を離せ、離せ、手を、手を離せーーー」
苦しみながら手を振り払おうと、力を籠めるがビクともしないらしく、必死でもがく。
パッと、FQが手を離すとチャールズはすぐさま後ずさり、距離をとった。
すぐさま、自身の腕を確認する。
FQが掴んでいたチャールズの手首の部分から先が、干からびてミイラと化していた。
チャールズはもう片方の手でその手を支え、ジッと干からびた手を見つめている。
感覚がないので、痛みもない。
動かそうと、考えても、ビクともせず、信じられないと言った様子で、混乱しているようだ。
「お、おい、戻せ…戻せーーーーー!」
干からびた手ではない方の手で、銃を持ち、FQへと銃口を向ける。
FQが何も反応しないので、速足で近づき、銃を突きつけた。
「早く戻せ!!」
それでもFQはピクリとも動かない。
カッと来たチャールズは、銃を放った。
バンッ!!!
という音ととともに、至近距離で撃たれたFQの身体が、衝撃で後ろ手に倒れる。
「ああああああああ!」
チャールズが頭を抱える。
目をひん剥きFQを睨みつけると、倒れたFQへと銃口をさらに向けて、何度も何度も発砲した。
バンバンと銃声が鳴り、FQの身体にあたる。
その度に、倒れたFQの身体が動く。
玉が切れるまで、チャールズは叫びながらFQの身体を打ち続けた。
弾切れし、チャールズは銃を投げ捨てる。
弾を補充できるもう一つの手が無いのだ。
動かせない手を再度認識し、その場にへたり込んだ。
「ウ…ウッ…ウッ…」
むせび泣く。
その間に、駆け付けた来栖とジェイが大熊の元へと合流していた。
***
大熊の元へ戻った来栖は、すぐさま大熊へと声を掛けた。
「これはいったい、どういう状況ですか!?ああ、あなたも撃たれているではないですか!?!?」
あまりにも悲惨な目の前の光景に、声を冷静にどうにか保ちながら、大熊へと投げかける。
ジェイも、倒れている男へと銃を放つ頭のイカレタ男を目の前にし、体が縮こまる。
来栖の背中に張り付き、恐怖を抑えた。
大熊も来栖が来て、混乱した精神状態を取り戻す。
「ああ、俺はなんとか大丈夫だ。状況は、打たれた男はFQ、テンジン様だ。あの御方が姿を現し、あの男の手を掴み、腕をミイラ化した。逆上した男が錯乱し、テンジン様を射撃した。」
「あの倒れている人が、FQ…テンジン様だというのですか!?」
「ああ、FQ…天人様に間違いない。甘草家で指標の写真を見た事がある。」
来栖が息を飲む。
すると、来栖の背に居たジェイが、剣の元へと駆け寄る。
抱き着き、
「剣、剣、大丈夫!?」
と必死で声を掛ける。
その声に驚きのあまり混乱していた来栖が正気を戻し、剣の方へ目をやる。
自分が助けを呼びに行った時と変わりなく、酷い有様である事に気がついた。
あのままでは出血多量で死ぬのではという状態であったので、今にも危ういはずだ。
「け、警視監、テンシュ様の容態は?」
来栖が聞くと、
「…一刻も早い手当てが必要だ。」
と、答えるだけであった。
その時、ジェイが
「あれっ?剣、停まっているよ?なんで?」
と言った。
「なんだと!?」
慌てた大熊は、剣の胸に耳を当てる。
心臓が止まってしまったと思ったようだ。
確かに、心臓は停まっている。
「心臓が…止まっている……」
自分が傍に居ながら手遅れだったというのか!?
大熊は、絶望に打ち拉がれた。
大熊が震えた涙声でそう言うと、
「違う、違う、剣の時が止まっているの。」
と、ジェイが言う。
その言葉に、ジェイへと大熊たちは顔を向けて、どういう事かと説明を求めた。
大熊の患部の時を止めながら、ジェイが説明する。
「誰かが剣の時を止めたんだ。ほら、その所為で、血が全く流れ出ていない。これなら助かるって、僕はこれをやるように蓮に言われてここに来たのだから。」
それを聞いた大熊や来栖は、思い当たる人物へと、目をやった。
倒れているFQへと。
その瞬間、FQの身体が倒れたままの姿勢で、おきあがりこぼしのようにスクッと起き上がった。
人知を超えたその動きに、皆は口があんぐりと開く。
地面に倒れた時の少しの汚れは残っているが、血も流れておらず、付着もない。
全くの無傷で、無表情のまま、何事もなかったかのようにその場に立つFQに、驚愕の視線が集まっていた。
さっき、あれほど打たれたにも関わらず。
確かに服には弾が当たっただろうな穴が開いている。
それのに、穴の開いた場所は既に綺麗な肌が顔を覗かせていた。
人知を超えた動作で起き上がったFQに恐怖を覚えたのは、大熊たちだけではない。
チャールズが最もその場で恐怖を感じただろう。
傷付けた本人なのだから。
無表情のまま静かに、FQはチャールズへとコツコツと足音を鳴らして歩みよる。
逆にチャールズはその場から逃げる。
先程、自身が投げ捨てた拳銃をへっぴり腰になりながら拾い上げ、Qたちの元へとよろよろと逃げる。
「お、おい、早くコレに弾を込めろ。」
片手が使えないのでQたちにそう命じると、Qたちも仕方がなく、応じる。
弾を込め終え、振り返ると、そこにはFQの姿はなかった。
「どこだ、何処に行った!?」
焦るチャールズは、周囲を見回し、狙いを定めた。
動けない剣へと数歩近づき、銃口を向けてこういった。
「私に何かしたら、コイツを打つぞ!!」
その声に反応したジェイが剣の体に覆い被さるように隠す。
剣の頭を膝枕する大熊は再び頭付近をガードした。
「クソッ。」
その様子に、チャールズの苛立ちが募る。
焦る彼の後ろから、声がした。
「お前はやってはいけない事をしてしまったのだよ。」
肩に乗せられた手が冷やりとしていて、その冷気がチャールズの背中へと伝う。
顔だけゆっくり振り向くと、やはりそこには、FQが居た。
ガタガタと体を震わせるチャールズを無表情で見つめている。
背はチャールズより小さく、線も細い青年なのに、肩に置かれた手から伝わってくる不穏な力に変な汗が勝手に噴き出してくるのだ。
「ああ、あああああ…」
“俺が終わる?”
心の中の不安が爆発した瞬間、チャールズは思わぬ行動に出る。
支離滅裂な言葉を大声で放ちながら、銃口を構えている方向に向けて、何発も狂ったように打ち放った。
そう、剣が倒れている方へと、容赦なく弾が飛んでいったのだ。
チャールズの放った何発もの弾の内の一発が、不運にも剣のこめかみに命中した。
血は流れてはいないが、時を戻した途端、彼は即死かもしれない。
次の瞬間、剣は大熊の腕の中から、姿を消していた。
剣の周りにいた者達が、首を振って、周囲を慌てて探しまわる。
そして、そのうちの1人が見つけて声を上げた。
「あっ、あそこに!!」
見つけたのは、来栖であったが、彼の指さす先は、空であった。
空高くに、FQが剣を片手で抱えて浮かんでいる。
来栖の声と共に、その場に居る者の全てが空を見上げた。
そして、信じられない光景を目にする。
FQが剣を抱えている手ではない方の腕を空へと向けた瞬間、その掌から暗黒色のモヤが出始め、渦を巻く。
そしてそれは、アッと言う間にここら辺一帯を覆い尽くすほどの大きな球体へと変貌したのだ。
「あれは,マズい…」
大熊が顔を大きく歪めて、状況の悪さを口にする。
「地球が無くなるぞ。」
そう、恐怖を吐きだした。
少しずつですが進んでおります☆




