愚か者は掌の上で踊る
読みいただきまして、誠にありがとうございます
「協定契約を致しましたので、我々の知り得ている重要な情報を共有いたしましょう。Qシリーズは持って生まれた力の量を全て使い果たすと、白い灰になる事はそちらも把握していますよね?彼らを救う方法を我々も調べていたのですが、Qシリーズが生き残るためにすべきことが先日やっとわかったのですよ。今、あなた方が一番知り得たい情報のはずです。」
チャールズの暴露に、フェイのクローンたちは動揺した。
生き残る道があると言う希望を、既に彼らは得ていたのだ。
「それは、いったい何なのですか!?」
思わず声を大きくしてクローンの1人が質問する。
「この答えを伝える事は容易いですが、これを教えることで、こちら側には何も利益を生みません。まあ、タダではお教えできないという事です。」
チャールズがクローンを細めで見つめ、話を続ける。
「コレを教える条件として、あなた達に約束をしてもらいます。一つは、今回の作戦に力を貸す事。協力的にお願いしますね、少し無理をさせてしまうかもしれませんが、こちらのいう事をきちんと聞いてもらいたいのです。二つ目はその作戦が終わるまで、助かる方法を試さない事です。この二つを守ってもらいます。よろしいですか?」
チャールズは優しい口調である。
それが返って恐怖をあおっている。
クローンの二人はジェームスに視線を送る。
ジェームスはすでにこの作戦を受け入れることを決断したようで、彼らに向かって大きく頷いた。
それを見た2人は、チャールズに返答する。
「分かりました。約束します。」
それではこれをと、一枚の契約書を見せられる。
先程、チャールズが分かりやすく言葉にした内容が少し難しい文章にまとめられ、書かれたものだと、ジェームスが先に目を通し教えてくれる。
「ここにサインを。」
と、チャールズが言うので、2人は恐る恐る記入した。
「ああ、良かった。それではお教えしますね。あなた方が助かるには、能力を失う事が必要だという事が分かりました。自らが能力を捨てることで、自身の延命を手に入れられるという事が少し前にとある情報筋からもたらされたのです。」
自分の能力を捨てることで命が助かるだと!?
残り少ない能力を捨てることなど容易に決断できることだ。
だから、先程の署名をさせられたのかと悔しさが湧く。
この先、能力をギリギリまで使わされるのだろうと、不安が過った。
「ということで、コレを。能力増強剤です。残り少ない力を有効に使うために研究開発された我々の秘密兵器です。コレを手に出来るのは、我々の組織でも超エリートの子達だけなのですよ!」
君達は幸運ですね~と、恩着せがましくチャールズが言い錠剤を手渡してくる。
「これはどういった仕組みですか?もしや、潜在する力を取り戻すことが出来るモノなのでしょうか?コレを飲めば、僕らは灰にならなくてもよくなりますか?」
年上の方のクローンが期待を抱いて質問する。
「残念ですが、潜在する力の量は増やすことは出来ません。今ある少ない量を増やしたかのように見せるという薬剤になります。チョロチョロのホースの先をギュッとつまむと威力を増すように、少ない量で大きな衝撃をという事が出来るようになるのです。あなた方の中の力が少しでも減るのを送らせるために開発されたものです。さあ試しに一粒飲んでみてください。」
チャールズから受け取った錠剤を、2人はその場で口にした。
飲んでも何も体には変化はなかった。
「分からないかもしれませんが、能力を使う際に実感できるでしょう。効き目は一錠で一日程度です。それから、作戦時には、我が組織の人間を付けます。彼らはあなた方の力を分散し、さらに増量できる能力を持っていますので、広範囲での能力の使用が可能となるでしょう。まあ、作戦の事はおいおい。今日は契約も出来ましたし、一先ずこのへんで切り上げます。」
チャールズはそう言うと、後ろを振り向いた。
そこには、いつの間にか、1人の少年が立っている。
先程まで、この部屋にはチャールズを含め、4人しかいなかったはずなのに、突如として現れたのだ。
「アハト、ドアを。」
その少年に、チャールズが命令すると、少年はドアを床から引き出した。
ドアが開くと、そこはA国ではない場所であった。
「では、またご連絡いたします。」
チャールズがドアへと向かい、足を踏み入れる前に、ジェームスが急いで尋ねる。
「どのような連絡手段で?」
「手紙です。それではまた。」
そうチャールズが言い残し、ドアは静かに閉じられた。
***
シャランシャラン。
猫屋のドアベルが心地よい音色を奏でる。
あのSQ招集の日から1か月半過ぎた頃、検察庁から栗栖が言伝を携え店にきた。
「いらっしゃい、栗栖さん。外は暑そうですね。」
店主がいつもの笑顔で対応する。
「はい、どうやら季節外れの暑さのようです。額から汗がダラダラと垂れてきて、ハンカチがビチョビチョですよ。」
栗栖は暑さに弱いようで、席に座るなり、目の前に置かれた氷水の入ったグラスを持ち上げて、グビッと一気飲みした。
「はあ、生き返る。」
カランとグラス内に残った氷が音を立てる。
店主はグラスを持ち上げて、再度、水を注いだ。
もう一度、飲み干そうと、栗栖がグラスに手を掛けるが、テーブルへと置き直す。
「すみません、ビールをください。」
アルコールを注文したので、店主も驚く。
「よいのですか?就業中では?」
思わず店主が聞いてしまう。
「いいのです。僕はこれで、こちらでのお仕事は終了ですから、あとは駅前のホテルに一泊して、明日の一番の新幹線に乗るだけ、手筈は整っていますおりので。報告は美味しい料理とアルコ―ルを口にしながら、そうさせてください。」
分かりましたと、店主が受け入れ、泡立ちが100点満点のビールが冷えたグラスに注がれる。
来栖の前へ置かれると、店主が、
「つまみは、【店主のおまかせ】で、よろしいですか?」
と聞く。
来栖は
「はい、お願いします。」
と、言いながらグラスを素早く持ち上げた。
店主は来栖が最初の一杯を飲んでいる間に一品作れればと考えていたのだが、来栖のペースは待ってくれないらしい。
「ビールのおかわりを。」
厨房へと向かう背中で、来栖が2杯目を注文した。
どれだけ働かされて色々溜めているのかと考えたが、それを口に出すことはない。
とりあえず、作り置きしていたものをいくつか小皿へ乗せ、お通しを作り、ビールは大ジョッキへ入れて、運ぶ。
これで少しは時間稼ぎができるだろう。
来栖の前に差し出すと、枝豆を見つけて嬉しそうに豆をプチっと出し、一つ一つ頬に溜まっていく。
全ての枝豆を口に入れ、咀嚼する。
ビールを流し込み、大満足という顔をしていた。
その隙にと、つまみを作り始める店主。
アルコール追加注文をする来栖と店主の仁義なきアルコールの戦いは、暫く続いた。
来栖がベロベロに酔っぱらってきた頃に、店主が漸く話し掛けられる時間ができた。
「来栖さん、報告をしてくれるのではなかったのですか?」
店主が聞くと、
「う~ん、聞かせなくても、僕の頭の中をあなた様が覗けば済みますよね??それで確認してくださいよ~僕はちょっと~一休みしますので…その間にちゃちゃとお願いしますよ…」
小さな欠伸をした後に目を閉じ、テーブルに伏して寝落ちする。
「まじか!?」
と、呆れた声を店主が出した時、店の扉が開いた。
シャランシャラン。
「あ、蓮おかえりなさい。」
嬉しそうに店主が蓮に挨拶するが、蓮はそれよりも気になる店のカウンターに座って寝息を立てている来栖を凝視し、呆れ顔である。
「どうしたの?コレ、仕事中なのにかなり飲んでるじゃん。まだ夕方だよ?」
日が伸びてきたので、公園でのサッカーを存分に楽しんでから帰宅したばかりの、まだ汗だくで頬に赤みが残る蓮が、来栖への疑問を店主にぶつける。
「ここへの報告で、こちらでの仕事は終了なのだそうです。報告は勝手に脳を覗いてくれと言っていました。脳への干渉は、やられる方がかなりの負担となりますが。まあ、寝ている間であるならそうならないだろうと安易に考えたのでしょうけどね…」
そう言いつつ、来栖の額へと手を乗せ、脳内報告書、その中身を確認した。
脳内を覗いた時の来栖は悪夢を見ているのか、酷くうなされていた。
だから言ったのに。
「ふむ、つつがなく対処したようです。私達の手助けなどいらなかったようですね。うん。ほらっ。」
確認を終えた店主が額からビー玉代の光の玉を指先に取り出し、それを蓮へ向けて弾く。
ホワホワと進んできたその光の玉を、蓮が指先で受け取り、自分の額へと押し付けると消えていく。
「ああ、本当だ。I国の部隊がいい仕事をしたね。まあでも、あいつが裏で誘導していたし、問題は無いとは思っていたけどね。」
蓮がそう言った瞬間、店の奥から煩いあいつの声がしてきた。
「ちょっとー、頻繁に、忙しい僕を呼びつけないでくれないかな!!?」
プンスカと怒りながらの登場、フェイだ。
「ああ、やっと来てくれましたか!」
「ん?フェイきたの?」
二人の反応が微妙だったので、フェイはムッとした。
「何その態度、呼びつけてきたのはそっちなのに。それで、なんの用なの?急いで駆けつけたんだよ。」
フェイがカウンターの裏手で、勝手にグラスに水を入れ、飲みながら質問する。
「エアコンの修理のお願いです。」
店主がそう言うと、フェイは目を見開く。
「ちょっとー僕は、その手の業者じゃないぞ!!」
真っ赤にして言い放つ。
「でも、このエアコンはフェイが開発してくれた優れモノだろう?巷の業者では点検すら出来ないだろう。このところ、冷房の効きが悪くてさ、頼むよ。見てくれない?最高峰の頭脳の持ち主のフェイ様にお願いしたいな。」
店主が一気にフェイを持ち上げ、いい気分にさせる。
「わ、分かったよ~」
と、フェイが店主に煽てられニヤニヤとなってしまう顔を抑えながら返答し、せっせと点検へ移った。
それを見た蓮が
「チョロ。」
と口走る。
「あ、そうだ。さっきurasimaから連絡があってさ、秋からA国に行くことになったから。」
蓮がランドセルをテーブルに置き、カウンターの椅子に腰かけて、切り出した。
「え?え?秋からですか?」
店主が焦りながら聞く。
「正確にはまだ決まってない。秋ごろ出発で、来年から本格的に撮影に入るって話だった。ほら、数年前にボンボンの息子が役者デビューしたでしょう。アイドルみたいな扱いしかされないから、役者として拍を持たせたいとかでハリウッドデビューさせてくれっていう依頼。やったの覚えてない?例の、英語が全然ダメなアイツだよ。アイツの代わりに俺が行って、新人賞受賞しちゃったやつ、まあ覚えてないか??そんで、その続編映画を撮るらしい。続編にも出演が決まったから、また俺にお願いしたいってさ。どうやらあれから全く語学を勉強していなかったらしいぞ。それにも驚きだわ。」
おやつのどら焼きをもらい、緑茶と共に食しながら、蓮が話を続ける。
「秋にここを出る。」
その言葉に、店主は寂しそうに笑い、
「そっか、頑張ってね。」
と一言伝える。
彼に同じ形態で居ることが難しい事は店主もよく理解しているので、定期的に他人へなる仕事を入れ、そうして彼の人生を保っている。
仕方の無いことだと、割り切るしかない。
「おう!」
と、剣もカラ元気の返事をする。
「僕もA国に行こうかな~」
後ろで作業をしていたフェイが会話に入ってくる。
「お前はちょくちょく行っているだろう。A国にいるお前のペット、最近構い過ぎて瀕死になっているじゃないか。」
剣が嫌味を返す。
「いいじゃ~ん。僕のなんだからさ。それに先日、君のペットが僕のペットにちょっかい出しにきていたよ。なんかやらせようとしているみたいだから、ちゃんと監視していてくれないと。変なモノ飲まされて死んじゃったらどうするの?困るよ!」
と、フェイも言い返し、2人は小競り合いを始めた。
「まあまあ、まだ何も起こっていませんし、何かあっても我々でどうにかできますから。ただ、あの人をまた起こすようでしたら、私は君達のペットたちに容赦はしませんからね。」
ペットは大事に!といい残し、店主は店を後にした。
「どこに行ったの?」
「ジェイの迎えじゃない?」
urasimaがジェイの能力の調査をしたいと今日は昼から組織の施設に連れていかれていたので、施設に繋がる扉のある阿部家まで迎えに行ったようだ。
***
ピンポーン。
阿部家のチャイムを押すと、玄関の扉が開く。
「テンチョー、家に来るなんて珍しいね。何か用?」
瑞樹が顔を出し、家へと招き入れてくれる。
「やあ瑞樹君、元気そうで何よりです。いつも蓮と遊んでくれてありがとう。」
そう店主が言うと、
「ああ、俺達、親友だからな!」
と嬉しそうにそう返すので、数か月後に彼がここから去るのだと知れば悲しむだろうと、心配になった。
「ご両親は?」
いっこうに顔を出さない瑞樹の両親の行方を店主が尋ねると、瑞樹は首を傾げて答える。
「父は朝から出かけたきりで、母は昨夜から、二階の部屋から降りてきていません。」
と言う。
二階のモノはおそらく、新たな毒生成や新種の生物でも見つけて楽しんでいるところだろうから放っておくとして、店主が迎えに来る事を知っていたにも関わらず、まだ帰宅していない匠の事が気がかりだ。
「そうか、じゃあ遅いし、私が匠さんを呼びに行ってくるよ。」
リビングを通り越して、例のドアの前まで行き、瑞樹君にそう告げると、ドアノブを回し、扉を開けた。
その先は、大阪城でもなく、五稜郭でもなかった。
J国の象徴が住まう御所の地下深くである。
元々、地下に広がるこの施設は古城の下に作られていたのだが、時代が移り変わり、J国にとっての偉い御方が頭上に住むようになった。
彼らが住んでいようともこの地から施設が移ると言う選択肢はなかった。
むしろ、何かあった時の崇高な御仁の一時避難場所になってよいと考えられ、そのままにしてある。
この施設はJ国中に散らばっているurasima研究所のデータを取りまとめて、管理しているデータ専門の施設である。
それから、urasimaが何らかのトラブルに見舞われた時や国の要人から接触が合った際の秘密裏の面会や会合、集会によく使われる場所でもあった。
一時避難所の役目もある最高機密基地である。
ドアを開いて入った部屋の先に居たのは、匠さんとジェイだけかと思いきや、この国の総理大臣秘書が同席していた。
確か、総理の息子だったか…
この男は何故ここに居るのだろうかと首を傾げる。
「わぁっ、驚いた!!」
秘書はそう声に出した。
ひとえに印象を抱く、頭が悪そうだと。
「凄いですね、どこでもドアみたいだ。」
呑気にそうテンシュへ話し掛けてくる秘書を見て、苦笑いを浮かべるのは、彼の真向かいに座っている男、ここの責任者である樺太賢児である。
彼はフクロウのエンゲルだ。
賢者とのあだ名がつくほど真面目で努力家、そして勤勉で、能力の恐ろしく高い男だ。
樺太は立ち上がり、テンシュに腰を90度曲げて挨拶をする。
つむじが見えるまで。
「やあ、ズク、元気だった?」
店主は樺太の肩にポンッと手を置くと、直ぐに離れ、空いている席へと座る。
秘書の事は無視だ。
「はい、御無沙汰しております。テンシュ様。こちらにワザワザお見えになるとは、御足労お掛けし、申し訳ございません。」
まだ樺太のつむじが会話したままである
「ああ、姿勢をなおして。座って話そう。」
そう店主に言われて、ようやく上半身を起こし、席へと座り直す。
その様子を秘書は、不思議だと太文字で大きく描かれているのではという顔で、ポカンと口を開け見ていた。
そして、ハッと意識を戻して
「そうですね、座って話しましょう。」
と言ったのだ。
この人はとても凄い御方なのだと、樺太は目に見える形で秘書に見せ、勘づかせようとしたのにも関わらず、この有様だ。
…無能すぎる。
この時点で店主はこの男を見限った。
あの不気味な笑顔を張りつけたまま、店主は樺太へ話し掛けた。
「ジェイの帰りがあまりにも遅いので迎えに来た。検査はもう終わっているのだろう?帰らせてくれ。」
「そ、それがですね…」
樺太は秘書の方をチラッと見る。
秘書はその視線に気づき、自分の発言の番だと勘違いしたのか、話し始めた。
「はじめまして、総理大臣秘書を務めております。土田太郎と申します。」
名刺を差し出してくる。
店主は数秒前まで微塵も動かぬ笑顔での無視を決めていたが、政界関係者ならぬ脅威の鈍感力に驚き、差し出された名刺をつい受け取ってしまう。
「色々とお噂は聞いております。」
秘書はそう前提したのち、総理の構想プランを勝手に話し始めた。
①王シリーズの手助けによる動物から人への変身、人材不足の補充要員確保
②ジェイの能力を生かした高齢技術者の若返りプロジェクト
といった話を回りくどく長々と謳った。
彼らからの勝手な提案であった。
それも、強制ともいえるような物言いである。
店主はこれまでにもなく、この男らにイラついた。
この男が腹の中では別の計画があり、腹黒く駆け引きを持ちかけてこの話をしているのであれば、かなりの逸材になるであろうと期待を持つところである。
本当に何もなく、ただ言伝を託され、話をしていると言うならば、彼は|この世界≪政治≫には向いていないだろう。
そう考えている中で、彼の長い話は終わりを迎えた。
話し終えて黙っている。
どうだと言ったしたり顔に腹が立つ。
その結果、どうやらこいつはやはり後者だったと位置づけた。
「という事ですので、総理が直々に会ってお話をしたいと申しております。来月頭、3日の午後は如何でしょうか?」
と、彼らが上なのだといった態度で、段取りや台詞を覚えてきたのか、棒読みで話を進めてきたのである。
何故、彼の、総理の要求だからと言って、こっちが都合を会わせなければいけないのかと店主は内心思いながら、張り付いた面と冷え切った瞳で、直ぐにこう返した。
「会うことはないよ。君、さっきから勝手に誰に何を言っているの?」
さくっと拒否する。
「えっ、え!?あ、あのですね。総理が、土田総理が直々にお会いしたいと申しているのですよ?」
秘書が焦り出す。
拒否されるとは微塵も思っていなかったらしい。
「総理だからって、何?」
店主は答える。
「あの、その、総理大臣ですよ?我が国の首相ですよ?」
もう一度聞いてくる秘書官に、悲しいお知らせ。
「総理だからって何?これまでにコンタクトを願い出たこの国の政治家は数知れない。唯一、一人だけ認めた者は居たけれどね、彼だけは優秀であった。この地の総てを把握しようと、懸命に学び、舵をとれる人物だ。この国にはそうそういないよね。もうかれこれ何十年も前の話だ。他にも自身に能力が低いことを認め、優秀な者を周囲に集め、大いに助けられながら運営出来ていた人物もいた。大半がこれかな。総理は悲しいがな、無能でもなれてしまうもの。カリスマ性と運の良さを同時に兼ね備えてれば、そこそこ出来てしまうものなんだよね、これが問題さ。でも、能力が低いことを自覚している者はまだいい方。周囲に優秀な人物を集めてちゃんとやってるし。でも、本人が自身の能力を過大強化し、しゃしゃり出る人物はキツイ。無能でしゃしゃり出てこられるのが一番迷惑だ。無能ならば、手を出すなと言いたくなるよね…という事で、今の総理がどれに当てはなるかなんて、羞恥の沙汰だろう。国民誰もが知っている。そんな奴と関わるのは、お断りだ。自国の問題くらいは自分達で解決しなさいよ。」
今の総理何と言いたかはお察しの通りだろう。
「君も、もっと政治だけでなく、世間一般的知識の勉強もきちんとしないといけないよ。誰から私達の事を聞いたのか知らないけれど、教えてもらった人から我々への対応を聞かなかったのかな?聞いていたらそんな態度が出来るはずがないものね。ああ、人徳もないのか…助けてくれるどころか…消されてもいいと…ふむ。」
そういうと、少し黙ったのち、秘書へ止めを刺す。
「勉強不足で、君は文字通り、命取りとなるだろう。」
そう言い切って店主は席を立ち、ジェイの手を引いて動き出す。
地面からドアを引き挙げ、ドアノブに手をやり、思い出した様子でアッと声を上げる。
そして、振り返る。
頭を抱えたままでいる秘書の方を向き、指パッチンをした。
すると、直後に、秘書の体が傾き、そのまま音を立てて床に転げた。
「ズク、あとよろしく。」
と言い残し、店主たちはドアを開けて去っていった。
秘書は少しして目覚めたが、店主やジェイについての記憶がなくなっており、何故か、勉強を頑張らないと呟き、意欲をたぎらせていたのであった。
***
「ただいま~」
猫屋に帰って来た。
「おかえり~」
「お帰り。」
二人が同時に返事をした。
「あれ、もう直ったの?」
店主がフェイにエアコンの修理状況を確認する。
「ああ、とっくにね。」
そういいながら、店の冷蔵庫にあったメロンケーキを勝手に出して食べている。
「あ、それ、売りものだぞ。」
怒ったぞと店主がフェイに言うと、
「報酬だよ。」
と、皿を背中に斯くしていう。
冷蔵庫を開けると、旬のデザート、メロンのホールケーキは半分ほどすでに消えていた。
はあと大きく溜息をつく。
「あ、あいつらが動き出しそうだよ。O州行のチケットを手配したって。」
フェイが得た情報を報告する。
「そうか、やはり狙いは世界的スポーツの祭典か。」
店主が疑問を投げかけると、
「「そうだ。」」
と、2人は同時に答える。
「何かあったら、動かないとだね。」
店主は呟く。
顔を上げて、フェイへ声を掛ける。
「エルフ、はいこれ。入手したってさ。」
先程、阿部から貰い受けた薬を、フェイへと渡す。
「あの子達が創った薬?やはりまだ彼らに解析は難しかった。どれどれ、僕が調べてみよう。」
そういい、嬉しそうにその場から去った。
「C国の研究室に戻った?それとも自室?」
剣が店主に聞く。
「研究所じゃない?調べものするみたいだから。」
「僕もそう思う。」
店主に続いて、ジェイが同意する。
「わかったよ。優秀作だ!!」
フェイが秒で戻ってきた。
時間操作はお手の物。
そして、薬の報告を興奮しながら話していた……
それから蒸し暑い日が増えた頃。
例の世界的スポーツの祭典が照り付ける太陽のもとで始まりを迎えた。
いつ、どこで、テロが起きてもおかしくはない状況に一同は身構える。
お待たせいたしました
最終章へ向けた導入部分、躓きました
猫屋、難しいのです
なるべく早く、次話をお届けできるよう、頑張ります
どうぞよろしくお願いいたします




