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ジェイ入学する

あけましておめでとうございます。

投稿が遅れてしまい申し訳ございませんでした。

これからのよろしくお願いします。


「とりあえず、君達が猫屋で保護しておいてよ。」


 あの騒動のあと、剣たちは後処理に追われていた。

 食堂には幼児化された者達が集められていたが、館内の休憩スペースや医務室、娯楽室などあちこちに、5歳から20歳ほど若返らせられた者達がわんさかいたのだ。


 このままの姿でいたいと懇願する高齢の研究者もいたのだが、フェイが容赦なく元の姿へと戻していった。


 その後、警視庁に戻り、元凶を連れて報告へ向かうと、冒頭の言葉が剣たちへと放たれたのだ。


 大熊が直接彼らに言う事の出来ない台詞を、気高い鼠の王に言わせた。

 厄介な存在を手に余るからと押し付けてきた。


 という経緯から猫屋はさらに賑やかとなっていた。


「やっぱり、小学校に行かせた方がいいのかな?でも、安全性が疑われるのに、通わせるのは難しいんじゃない?」


 あのあと、保護した子供の年齢が6歳であることが発覚した。

 年齢に比べて、体が小さく幼く見えていたので、誰のクローンであったのかを再認識させられ、皆が納得したと同時に、フェイが不満を漏らした一幕があった。


 そして、彼を小学校へ通わせるべきか否かを、今、猫屋にて話し合っている。


「小学校へ通って、俺みたいに友達を沢山作るのがいいと思う。」

「ええ、私も瑞樹の意見に賛成です。能力を使わないよう制御できるのであれば、小学校に通わせる事は日常に慣れるためにもよい事だと思います。」

 阿部親子がそう言う。


「でもさ、耳が聞こえないのに集団生活は難しくないか?」

「難しいかもしれないけれども~やっぱり沢山人と触れ合うのはいいことだよ~友達は必要。友達いないとパーティー開けないし、ワイワイ騒げないよ~耳の事はどうにでもなるよ。」

 蓮が指摘し、フェイがすかさず答える。


「治してあげないの?店主様ならすぐ治せるでしょ?」

 瑞樹もそう言うのだが、

「うーん、治せない訳があるんですよ。治さない方がこの子の為にも幸せだから、あえて治さないのです。」

 猫屋店主の剣が、困った顔でそう答えた。


 瑞樹や匠も遊びに来ていたので、彼らも交えて意見の交換がなされていた。


「みんなの意見をまとめると、コイツが苦労せずに済む環境で、安全であるならば行かせた方がいいって事でいいんだな?」

 蓮がまとめ、仕切る。


「そうですね。あっ、それならばよい案がありますよ。」

 ニヤリといつもの気持ちの悪い笑いを浮かべて、猫屋の店主は語りだした。


 東北でも有数のお金持ちとして知られるご老人の飼っていた猫を人間にしてほしと少し昔に頼まれた。

 その猫は大層賢かったそうで、ご老人亡き後、学校経営を始めたのだという。

 その学校が国際的に強い能力が身につくと評判を呼び、あれよあれよという間に大きくなって、幼稚舎から大学までの規模の大きな私立学校へと発展したようだ。



「経営も問題なく羽振りもよいし、質が高く、事細かな教育が受けられる。さらに、私立の学校なので留学制度も使えますし、少人数制です。だから個別で素早い対応をしてくれると評価が高いです。それに、ここはセキュリティが大変素晴らしい。元ゴリラやクマと言った猛獣のエンゲル集団がやっている警備会社と協力体制を取っていますから。もう、何があってもバッチリですよ!」

 店主は自信満々の顔で言い切る。


「持つべきものは近くのお金持ちの知り合いだな。とりあえず、コンタクトを取ろう。」

 蓮の一言で、話はまとまった。


 後日、理由をつけて断ろうと頑張った元猫の理事長であったが、結局、根負けして、元猫の経営する私立小学校へと、フェイのクローンである子供は通う事が決定した。


 だが、入学に待ったを掛けたのは、政府であった。

 先日の五稜郭での事件をネタに、能力が爆発した時の危険性を指摘され、許可できないの一点張り。

 ジェイは落胆し、皆もそんな彼の様子に気落ちした。


 ***


  “お前、名前は?”

  “ジェイ…”


 あの頃のぎこちないやり取りが懐かしい。


 ジェイは一週間後にはすでに、店の住人に馴染んでいた。


 もはやクローンの元ネタであるフェイよりも人の心を掴むのが遥かに上手く、愛らしい姿からつい手を貸してしまう、そんなふうにして猫屋内では存在を確立していた。


 そんなある日、彼が非常に賢いから海外の学校か、偏差値の高い小学校へ通わせようと、フェイが鼻息を荒くし言いだしたのだ。


 目ぼしい入学先を決めてきていると、一覧票をフェイは並べたのだが、これにストップを強くい出したのだ、普段は強い口調の無い、店主の剣であった。


「何で、何で反対するの?」

 フェイが食って掛かる。


「彼はまだ、能力がうまく制御できない時があるから、何が起きるか分かりません。何か起きれば、この場合、あの方が動いてしまう可能性があります。よって、次期早々だと考えたのです。」

 いつものニヤニヤ顔ではなく、真顔で店主は語った。


「そうだな、その可能性が彼の能力にはある。」

 蓮も同調する。


「何か起きても、すぐに対処できればいいのか?あの人が動く前に、僕が元通りに戻せばいいんでしょ?それならば、僕に任せて。あの後、仲間に相談したんだ。良い案がある。」

 フェイが自信満々に、言い切った。


 翌日、フェイはある物を持って、猫屋にやって来た。


「コレがあればいつでも駆け付けられる。」

 そう言ってフェイはジェイにそれを渡した。


 それからすぐに、ジェイの元猫が経営する小学校への転入が決まり、クラスメイトの前で、元気よく挨拶をしていた。

 フェイは自身の推していた学校でないことに不満を漏らしたが、環境や様々な許可を得るためには、彼が指名した学校では無理があり、ジェイが安全に過ごすためにも譲歩は必要であったのだ。


「初めまして、C国から来ました。猫田ねこた 慈瑛じえいです。父の故郷の国の事、あまり詳しくないので色々と教えてください。よろしくお願いします。」

 手の上に乗った四角い電子機器からそう音声を発し、皆に挨拶した。


 猫田の息子となるので、当て字であるが、漢字名も用意した。

 フェイはミドルネームにC国名をつけたかったようだが、今の生活になじむためにと、不安要素を増やすことを辞めたのである。


 それから、彼は声が出せないので、フェイが声を出せるよう、機器を持たせた。

 これはフェイが研究者たちと開発している物の1つらしく、高性能で多機能。

 子供に使用したいと話したら、試験運用できると仲間も快く貸してくれたらしい。

 コレがあるので、無事に学校への通学が許可されたほどの高性能な機械だそうだ。


 その機器の影響も少なからずあり、ジェイは瞬く間にクラスに打ち解け、人気者へとなった。

 もちろん、機器だけでそうなったわけではない。

 ジェイは可愛らしい容姿に、助けてあげなきゃと思わせる振舞い、さらに勉強では成績優秀で、運動も出来て足も速かった。

 そんな子供が小学校の低学年で人気者にならないはずがない。


 だが、一月過ぎた頃、ジェイの消しゴムや鉛筆が消えることが増えた。

 皆が心配し、探してくれるのだが、教室の後ろの棚の上や落とし物箱の中、ゴミ箱という時もあり、見つからず探し出せない時もあった。


  ***


 シャランシャラン

 ドアのベルが音を立てる。


 その音に反応して、フェイがドアの方へ首を長くして覗き見る。


 目線の先に居たのは、大きな釣り目が印象的な黒髪が艶めく小柄な男であった。


「わざわざお越しいただきまして、感謝いたします。理事長。」

 店主が入ってきた男に声を掛ける。


「いえ…お招きありがとうございます。テンシュ様方。」

 と男が深々と頭を下げて挨拶をする。


 店主が座席へと案内する。

 理事長の隣にはフェイが、理事長の前にはジェイ、その隣に蓮が座っている。


 店主である剣が、皆の飲み物を運んできて、テーブルへ配り終えると、別のテーブルから椅子を拝借し、誕生日席へ置くとそこへ座った。


「さあ、始めましょうか?」

 剣の一声と共に、聖ルナ学園理事長、菅原月夜すがわら つきやは吐き気を催し、すぐに飲み込んだ。


「何で呼ばれたか、分かってる?」

 フェイが切り出す。


「はい、タブレットの件、ですよね…」

 もの凄く小さな声で、理事長が答えた。


「分かっているなら話が早い、で、どうするつもりなの?」

 フェイが詰め寄る。


 可愛らしい容姿からの背筋が冷える凄みに元猫は身を強張らせる。


「まあまあまあ、僕の奥さん、少し冷静になってください。そんなに怖がらせたら話が進みませんよ。」

 剣がそう言うと、フェイが剣を睨みつけ、

「わかっているわよ、ダーリン」

 と彼へと強く言い返す。


「ぶふっ」

 それを聞いて蓮が噴き出す。


 小学校に入学させるという事で、彼らには役割が出来た。

 フェイはジョイのクローンだ。

 愛着があり、自身のクローンがどう行動するのか研究したいというフェイの強い意志から、親の役をしたいと申し出た。

 だが、フェイは、いつもJ国に居るわけではないので、剣も親の役を担うことになった。


 そうなると、外見から必然的に、剣が父親、フェイが母親となる。

 そう本日のフェイは、そこまで詰め物をしなくてもよいのにというくらい胸に詰め物をつめて、花柄の可愛らしいワンピースを着ている。


 先程の掛け合いから見て取れる。

 それを受け入れたことに、まだ少しだけ反発心が残っているようだ。


 いや、女装は楽しんでいるのかもしれない。

 おそらく、旦那役が剣である事が不満なのだろう。


 話しを戻そう。

 タブレットの件というのは、数日前に、ジェイが学校へ持っていっている声を出す機器が何者かによって破壊されたことについてであった。

 画面がバキバキに叩かれ壊されていたらしい。


 ジェイの証言では、体育の時間に校庭へ行って帰ってくると、危機は壊れていたという。


「…只今、壊した人物を捜しております。なにぶん、デリケートな年頃の子達が集う場所です。慎重に調査を進めております…」

 そう、理事長は身体をさらに縮こませ、小さな声で答えた。


「犯人なら分かっているぞ!」

 フェイが理事長へ向かって叫ぶ。


「この機器(作品)はね、まだ市場へは出ていない数千万もする試作品な訳よ。だがら、これには代わりに話してくれる機能以外にも、様々な機能がついているのさ。教えてなかったけど。危害を加えようとする瞬間を録画し、転送したりもしてくれる素晴らしい機能もある。他にも優れた機能がもり沢山入っているよ。教えていないけれど。つまり、つまりね、犯人の行動が全てここにバッチリ残っているのさ。」  

 開いていたパソコンの画面を理事長の方へ向けてクルッと回転する。


 それにより、犯行の一部始終が録画されていた。

 録画された危機を破壊するクラスメイトの映像が鮮明に映し出された。


「かずき…」

 その画像に写るクラスメイトの佐藤一輝の姿に、怒りの声をジェイは思わず上げていた。


 全ての映像が終わった後に、ジェイが呟く。

「ねえ、外見がダメなら脳みそだけ時を巻き戻すのはいいの?」

 怒りのこもった言葉だ。


「ダメだよ。そんなことしても無意味でしょう?」

 剣が優しく答えた。


「なんで?何でダメなの!?何で無意味なの?」

 ジェイが食って掛かる。


「もう、馬鹿を馬鹿にしても意味がないって事だよ。ちゃんと教育者に絞めてもらって、教育的指導をしてもらわなきゃ。それでもダメなら、消すんだ。」

 蓮が辛辣に横からそう言うと、そうかとジェイが納得し、2人は大いに笑い合う。

 旗からは蓮はお兄さんぶって、彼の頭を撫でまわし、可愛らしい2人の仲良しな雰囲気となっていた。

 彼らは設定上、叔父と甥の間柄だ。


「実に微笑ましいですね。」

 店主がニコッとそれを見て笑う。

 彼の目の奥が笑っていないのと、3人のサイコパス気味な会話に菅原は身を震わせる。


「フッ、とって食ったりはしませんから、そんなに警戒しなくてもよいのですよ…でもまあ、理事長と言う立場なのですから、やる事はきちんとやってくださいね。」

 店主がそう言うと、消すんだよという言葉が脳裏をよぎった理事長の行動は早かった。


 直ぐに帰路に着いた理事長は、個人情報云々などすっ飛ばし、加害者の親へと現状を知らせる電話を掛けたのだ。


 翌日、剣とフェイは小学校へ呼ばれていた。

 機器を壊した佐藤一輝という生徒の親が、理事長へ場を設けて欲しいと懇願して来たらしい。

 理事長も、佐藤親子が彼らに謝罪をするものと思い、場を設けたはずだったのだが、そうはならなかった。


 先程から、自分の息子がそのようなことをするはずがないと、どれだけ人に優しく出来る子か、クラスメイト想いで多くの友人がいて、友人をどれほど大切にしているのかを、エピソードを交えて熱弁しているのだ。


 彼の勢いは止まらず、彼以外は不満顔だ。

 フェイは怒りに満ち、ジェイはウンザリだと言う不満を、加害者の佐藤一輝は終始怯え、そんな表情で彼の傍に座って、話を右から左へと聞き流していた。


 きちんと聞いていたのは剣だけであろう。

 理事長は話をいつ止めようかと、先程から、父親が息を吸い込むタイミングで、あッと声を上げ、止めようと必死である。

 まあ、話は止まっていないのが…


 だが、とうとう流れは止められた。


「なるほど、そうですか!」

 剣が、大きく手を打ち付け、音を鳴らし、大きな声で言い放った。

 一瞬、佐藤の親が話すのを止めた。


 その隙に、剣が話し始める。


「佐藤さんの言いたい事は、息子さんはとても優しい性格で、人を悲しませるようなことは一切出来ない、仏のような心を持っている子供だと。だから、クラスメイトの物を傷つける様なことはないから、これをやったのは自分の息子ではないと、そういうことですね。」

 テーブルに置いてある壊れた機器を指さしながら、剣がもの凄く端的にまとめ、そう言った。


「ええ、その通りです。」

 急に、話を遮られ驚いているので、思わず佐藤もそう返す。


「でもおかしいですね…」

 剣がそう言うと、

「はぁ、何がです?」

 と佐藤が少し好戦的に言葉を漏らす。


「だって、証拠があるんですよ、彼がやったと言う証拠が。」

 剣が間髪入れずに答えた。


「え?証拠?」

 一輝父が目を見開き固まった顔で聞き返す。

 子供の言葉のみをありのままに信じていたため、衝撃が強かった。


「はい。」

 その表情を見て、あのニヤニヤした気持ち悪い笑顔で、剣が答える。


 証拠の映像があることは、佐藤側には伝えていない。

 個人情報もあるし、勝手に盗撮盗聴がされていたなど、知られたら責任問題、警察沙汰と困りものである。

 大きな問題にはしたくないからと理事長が口止してきたのだ。

 それを無視して、剣は言葉を続ける。


「実はこのタブレット、僕の奥さんが開発しているもので、一千万以上もする試作品でして。」

「い、い、い、一千万以上!?!?」

 佐藤の親は金額を繰り返す。


「ええ、彼女の同僚が耳の聞こえない息子の為にと、試験途中でありますが貸し出してくれたのです。友人と会話するのに役立ててくれと。ですから、こんなことになって、本当に困っているのですよ。」

 剣が一輝を見ると、大基はガタガタと体を震わせ、下を向く。


「我々も耳の事もありますので子供の事が心配で、学校生活の様子をどうしても知りたかったので、これから少しばかり情報をもらっていたのです。こちらの学校には知らせていませんでしたが、実は、この機器、映像が録画でき、家のパソコンへ転送されるようになっています。機器の近くに人が居ると作動するのですが、音声も入り、画像も鮮明です。そうです。全て、そこに犯行が写っているのですよ。」

 剣が佐藤の親にそう言うと、口を開けたまま、放心していた。


 自分の息子の言葉を信じ、意気揚々とやって来たのに、証拠の映像があると言うのだから、反論できない。


「それから、タブレットだけでなく、彼は息子の物を隠したり、壊したりしていますよ。優しいから出来ないなど、偽りなのでしょう。だってほら、それも映像がありますから。タブレットは机上に大抵置かれていました。人が近づくと作動するので、息子が映ると期待して見てみると、時々、あなたの息子さんが悪さしにやって来るので、映像に残っているのです。息子には、何か壊された、なくなった場合に、学級日誌にいつまであっていつやられたかを詳細に書き込んでおけと言っておいたので、それとこの映像を照らし合わせてください。」

 パソコンの画像がクリックされ、音声付きで動画が流れ始める。


 佐藤一輝が、物を盗む際の音声や破壊音が流れ、画面が割られた時の映像もバッチリ流れた。

 破壊する際の一輝の表情は、怒りに満ちたかと思うと涙を浮かべ、感情のジェットコースターであった。

 タブレットの破壊前の一言に、一輝の父親は息を飲んだ。


「お前さえいなければ、僕がクラスで一番の人気者なんだ。僕は父さんみたいに一番でなければいけないんだ。コレさえなければ、あいつは学校に来られないだろう。」

 そう、彼は呟いていた。


「お前!!」

 佐藤の父親が大きな声を上げると、一輝はわっと泣き出した。


 それを見て、クソっと小さく父親が呟き、子供から視線を逸らす。


「そうじゃないでしょう?佐藤さん。」

 剣が佐藤の父親にそう声を掛けると、父親は剣へと目を向ける。


「これは佐藤さんが一輝君にやらせたようなものですよ。彼はあなたの毎日投げつけられる言葉に従い、一番になるにはどうしたらよいかを彼なりに考え、事を実行したのです。そう、ただ彼は、父親に従っただけ。でもそれが、いいか悪いかの判断がつかないままでした。判断のつかない子供なのです。あなたはまず、我々に謝罪し、それから、彼に間違った言葉を押し付けていた事を認め、彼にも謝って許しを乞うてください。」

 そうつらつらと平坦な声色で話す。

 迫力があり、背筋が寒く感じる。


「は…い…」

 言葉を揉み込み、佐藤の父は猫田家へ深く頭を下げ謝罪し、息子と話そうと向き合う。

 だが、一輝は怯え、耳を塞いでいた。

 そのまま首を振る。

 父親の言葉を聞きたくないと、拒否する動作をしているのだ。


 父親は言葉を飲み込む。

 自分が彼をここまで委縮させ、怯えさせてしまっているのだと、反省する。


 気が付いた父親は咄嗟に息子を引き寄せ、力強く抱きしめた。

 ごめんなと、塞いだ耳元で何度も呟く。


 一輝は薄っすらと聞こえたのか、父親を見上げ、手を外そうとずらしていく。

 見上げた先の父親は泣いていた。


「一輝、ごめんな。私の一番にならないといけないという言葉は、間違っていた。私も厳格な母から幼い頃から言われ続け、優秀な人物でいなくてはいけないと思い込んでいたんだ。その言葉で、お前が苦しみ、追いつめられているなんて、私は考えもしなかった。でも、そうじゃないな。正直、私も昔、とても苦しかった。分かっていたのに、それをお前にまで強要してしまっていたのだな…すまなかった。一番でなくていい、お前が一生懸命頑張っている姿が見られればそれでいい。私は全力で一輝を応援する。苦しめたりしない。」

 ゆっくりと、言い聞かせた。


 一輝は頷き、立ち上がり、ジェイの目の前へとやって来る。


「猫田、ごめん。僕はずっといい子でなければ、クラスで一番出なければいけないと思っていたんだ。君があまりにも優秀で、短期間で皆の心を掴んでいってしまい、羨ましかったんだ。そして一番ではなくなるのがとても怖かった。もう、こんなことは絶対にしません。ごめんなさい。」

 一輝が謝ってきた。


「よかった。無事、解決の様ですね。」

 理事長が涙を浮かべ、彼に拍手を贈る。


「…いやいや、弁償代はちゃんともらいますよ。」

 剣がそう言うと、部屋の空気が凍った。



 その後、機器は内部まで故障はしておらず、画面が割れただけである事が分かり、その弁償代金だけを支払うという事で、話はまとまった。

 画面の修理代だけだが、それなりの金額にはなるので、専門の人が間に入り、解決へと辿り着いた。


 ***


 数日後。

 一台の車が、料亭の前に止まり、1人の人物が降りてきた。


「ありがとう。終わったら連絡するから。」

 そう運転手に男が声を掛けると、車が走り去っていく。


 店の方へと体を向け、顔を上げた先に、見知った人物がたった降り、男は驚いた表情を見せた。


「ここでお会いするとは奇遇ですね、猫田さん。」

 声を掛けられたのは猫田の美しい妻役をしているフェイである。


「偶然だとお思いですか?佐藤さん。」

 フェイの言葉に、佐藤は大きく意味を吐き違い、唾を飲み込んだ。

 自分を誘惑しに来たと勘違いしたのだ。


「偶然ではないだなんて、まさか、私に会いに来たというのですか?」

 笑って話すが、目はフェイを嘗め回すように見ている。


「ええ、その通りです。佐藤さんに会いたくて来てしまいました。」

 ニコリと微笑んで、フェイは言った。


「そ、そんな困ります…」

 全く困っていない顔でそう言い、後に下心満載の言葉が続く。


「今から会合があるので、別の日に会いませんか?場所の手配はしておきます。連絡先を教えてください。」

 そう言いながら、携帯電話をポケットから取り出し、差し出してくる。


 この男は息子の前で涙を流した人物とは思えないほど、家族に対する裏切り行動を軽率にするのだなと、差し出された携帯をフェイは見つめながら考える。


 携帯を見つめるだけのフェイに浮かれていた気分を削がれ、一瞬冷静さを取り戻し、携帯を引っ込める。


 フェイがその様子を見て、話し始める。

「昔からあいつ等は甘いんですよね。甘ちゃんなんですよ、その点、僕は温いのは好きだは無くてね。やられたらお返しするのが信条なのです。という事で、消えてもらいます。」


 そう言うと、フェイは佐藤の胸に掌を伸ばし、力強く押した。

 軽く、後ろへと佐藤はよろめいた。

 唐突な衝撃に目を瞑る。


「へ??」

 と情けない声を上げる。

 それと同時にフェイの方へと顔を向けた。


 だが、そこには居るはずの人の姿はすでになく、暗闇が道を覆い尽くしていた。


 シーンと静まり返っている。


 その時“ドクン”と大きく胸が鼓動を打つ。

 突如、苦しくなり、胸を抑えて、両膝をつき、地面へと崩れ落ちた。


 丁度その時、店から出てくる客の声が聞こえてくる。

 うずくまる男を見つけ、急いで駆け寄ってきた。

 声を掛けるが、返事は苦しいともがくばかりだ。


 救急車が呼ばれる。

 佐藤は急いで運びこまれると、店へと遠ざかるにつれてサイレンは小さくなっていった。


 この日以来、佐藤は学校に来なくなり、転校が決まったと聞かれた。


 ***


「そう、佐藤君、転校したんだ。」

「うん、お父さんの病気が見付かって心臓移植をするみたいで、A国に行くんだって。」

「病気?あんなにピンピンしていたのにね。」

「何か、心臓が小さくなっちゃったらしいよ。一輝と幼稚舎から仲良しな子が内緒だよって話してくれた。」

 剣とジェイが話すのは、佐藤一輝の転校の話だ。


「そうか、大変だね。」

 と、剣は何処か遠くを見ながら相づちをうつ。


「ヤッホー!」

 猫屋のトイレのドアが開き、現れたのはフェイである。


 ニコニコと笑顔を振りまきながら現れたフェイは、テーブルの上に置かれたトリュフを1つ摘み、口に頬張った。


「あ、それ、僕のチョコ。父が宿題をちゃんと終わらせたご褒美にくれたのに!!」

 と、プンスカ熱を噴き出し、抗議している。


「ごめんごめん、お土産の月餅あげるから許して。」

 フェイは紙袋をジェイへと押し付けて、許しを請う。


 紙袋を受け取り、中を覗き見て、

「チョコがいい。」

 と膨れた頬でフェイへと押し返す。


 それしかないと返事され、泣きそうな表情のジョイを見かねて、剣がこれもお食べと、蓮に出すはずであった分を差し出した。


 ジェイは急いで口に入れ、美味しそうに食べる。

 それを見て、大人たちは頬が緩む。


 直ぐに剣がフェイを見据え、言葉を掛けた。

「フェイ、やりすぎ!あいつが動いたらどうするのですか?助けませんからね。」


「だって、僕のクローンを苦しめたから…アイツはこの程度では動かないよ。君らも本当に、甘すぎるよね。」

 フェイが言い終えると、もう話したくないと言うように月餅を口へ運ぶ。


「もう、危険だからやめてくださいね。」

 剣が言うと、

「誰にとって?」

 と、フェイが聞き返す。


「…皆にとってです。」

 剣はゆっくりと、答えた。


  ***


「おい、これはどういう事だ?なんで、こんなことに…」

「あ…これは…刑事!?動いています、生きている!早く、救急車を!?」

「え……救急車って、これで乗れるのかな?というか、人と扱われるのか?」

「じゃあ、じゃあ、どうすれば!?!?」

「猫屋へ連絡を……急いで!!」


 I県の海岸沿いで、この血まみれの検体は横たわっていた。

 通報を受けた警察署から警視庁特務課案件であると判断され、急遽、甘草と特務課の新人が駆け付けたのだが、あまりの光景に言葉が出ない状況になっている。


 これは、これから起きるおどろおどろしいしい大事件の幕開けであった。



最終章へと突入です。

書く時間が取れなくて、ゆっくりとなりますが投稿を続けて行きますので、どうぞよろしくお願い致します☆

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