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情報収集2

情報収集1からの続きです。


 ズーン、バキバキと、大きな音が屋敷の外で響いた。


  屋敷内には、犬二匹と少年と見目の良い青が暖炉の傍にあるソファーに座り、寛いでいたのだが大きな音により、和やかな談話は終わり、少年がすぐさま外に確認しに行こうと立ち上がる。


 それを制止したのは、パピヨンであった。


「奴じゃ。犬飼。」

 パピヨンが見目の良い青年の名を呼び、目配せをする。


「承知しました。」

 犬飼と呼ばれた青年が扉へ向かって歩いて行く。

 その後ろをヨークシャーテリアがトコトコと追っていく。


「あっ、よっちゃん。」

 少年がヨークシャーテリアの後を慌てて追いかけた。


 犬飼が屋敷の入り口の扉の前に来ると、少し離れた位置で、ヨークシャーテリアが歩みを止め、後ろを追ってきた少年が犬を抱きかかえる。

 心配そうに、犬飼が開けようとしている扉の向こうを窺っている。


 扉を開けると、そこには知った顔がいつもの疑わしい笑顔を顔に張りつけて立っていた。

 やあ~と声を出し、片手を軽く上げている。


「どうぞ、お入りくださいませ。テンシュ様。白崎様は検察庁へお送りしました。その他の皆さまはいらっしゃいます。」

 犬飼が手で招き、中へ入るように促す。

 店主はそそくさと入室した。


 先程のパピヨンの居る部屋まで来ると、店主は室内を見回す。


「遅くなってごめんね、リジー。あれ?ニヒは?」

 その問いにはパピヨンが顔を歪ませて答える。


「近所のレディたちとお友達になるとかなんとか言いながら出かけて行って、昼間はほとんど帰ってこないわ。」

「そっかぁ、それは、ベスはヤキモチ焼いちゃうよね。」

 店主は無神経にエリザベスを煽る。


「な……」

 パピヨンこと、犬の女王エリザベスは、フルフルと小刻みに震え、そう声を出す。

 言葉はそれ以上続かなかった。

 反論しようとした瞬間、店主が声を発したから。


「あっ、でも帰ってきたみたいよ。」

 空気を読まずに無表情で店主はそう言うと、窓の方へ指をさす。


 その時、窓の枠をカリカリとひっかく音がした。

 犬飼が窓に近づき、扉を開けると、同時にケーニヒが窓の隙間から身体をくねらせ、スッと室内に入ってきた。

 そして、いつの間にか店主の足元まで来ている。


「ニヒ、ただいま。元気にしていたかい?」

 店主が三毛猫を抱き上げ、スリスリする。


 嫌そうな表情の猫は手足をだらりと伸ばし、抵抗はせずにするがままであった。

 だが、本心はそうではない様子。

 ケーニヒは本当に嫌であるなら何が何でも逃げるという性格である事を店主は知っているから。


 店主が満足して頬ずりを止めると、ケーニヒが声を上げた。


「おい、裏の森に穴開けたのはお前か!?樹齢100年くらいの紅葉も何本か折れていたぞ。あれはユグに怒られる。」

 好き勝手にスリスリしたお返しと言わんばかりに、聞きたくない事実を突きつけてくる。


「うっ、飛んで来たら、着地するのに勢いつけ過ぎちゃって。あとでちゃんと直すから、ユグドラシルには言わないで。ニヒも知っているだろう?彼、怒らせると本当に怖いんだ。」

 大昔、意図的に植物を傷つけてしまった翌朝、店主が目覚めると部屋いっぱいに臭い花がズラッと並び、匂いを発していた時のことを思い出した。

 涙目になる。


 フンと鼻で返事をすると店主に背を向け、この家のケーニケの定位置であるフワフワ毛皮のブランケットの上へと移動し、サッサと寝そべった。


「皆、揃ったようだし、早く話を進めてもらえないか?」

 リジーことパピヨンのエリザベスがイライラしながら二人を睨みつけそう言った。


 そんな彼女の事は気にもせずに、店主がマイペースに動く。


「あっ、長谷川優一郎くん、良喜くんも来ていたのですね。お元気そうでなによりです。ここへはよく来ているのですか?あ、そうです。この間、曽祖父の正嗣さんにお会いしたのですよ。あの人はあの御年にも関わらず、とてつもなく元気ですね。特別なことでもしているのでしょうか?」

 子供達に近づき、話し始めた。


 パピヨンは無視されていることで、さらに苛立ち堪忍袋の緒が切れた。

「ちょっとおおおお、猫屋!!!!!無視するんじゃないわよ!!話を進めなさいよおおおおーー。」


    ……お怒りタイム。しばらくお待ちください……


「では、皆さん、順番に報告をお願いします。」

 エリザベスが一旦落ち着いた頃をみはからい、店主は、まるで何もなかったかのようにキリっと表情を引き締め、しこを踏むように両手で一度手を叩き、大きく前へ広げながら、こう切り出し、皆に発言を求めてきた。


 横目で皆、エリザベスをチラ見し、同情する。

 何とも言えない空気が一瞬過る。

 静まった室内に大きな溜息が漏れた。


「もういいわ、怒りの無駄遣いだったわ。じゃあ、私から。報告するから、よく聞いて。」

 エリザベスが落胆し、自身の調べた内容を店主に話し出す。

 それを皮切りに、ケーニヒ、犬飼、それに優一郎と報告を続けた。


「まさか、優一郎くんたちも協力してくれていたなんて!ありがとうございます。そうですね、皆さんの情報とカピパラさんから得た情報とを擦り合わせてみますと、やはり、これはAxisのQの仕業に違いありません。目的はエンゲルや王の消去ですかね?その他にもあるのかな~はあ、本当に困りますね~まあ、とりあえず…消せばいいか…」

 最後の方はボソボソと小さな声で呟いていたので、聞き取れる者は少なかった。


「恐ろしい奴。」

 聞き取れたエリザベスが一言漏らした。


「とりあえず、エンゲルと王たちには、しばらくの間、避難をして頂くとして。あとは、こちらで早急に対処をしないといけませんよね。情報をもっと集めないと。鳥さんいないの痛手だな。」


 店主がそう言うと、

「ん?鳥の王はどうした?」

 ケーニヒが店主に聞く。


「ああ、行方不明なのですよ。どうやら、Qに襲われたようでして。消滅はしていないから生きているようですが。今、モネラの王とこちらで昼寝していらっしゃるヤマトさんに協力を願いして情報を集めているところなのですよ。おそらく、自ら身を隠しているようなので…こんな時にねぇ。」

 店主は胸ポケットを指さし、節足動物の王が居ることをアピールし、淡々と話す。

 目は笑っているけれど、段々と額に怒りが浮き出てきている。

 鳥の王に対してほどほどにお怒りのようだ。


 それを見て、ケーニヒは下手に突くのをやめ、そうかと呟くだけで、目線を逸らして、体を伏せ、くつろぎ始めた。


 エリザベスも、

「あいつは鳥だからのぉ」

 と、遠い目をして発するのみである。


「あっ!!そうです。君達の曽祖父である正嗣さんから相談をお受けしたのですよ。このような事態が起こっているので、良喜君を元に戻せないかと。お聞きになっていますか?君の許可が下りれば、今すぐにでも私がお手伝いします。どうしますか?」

 先程の怒りは何処へと言った様子で、切り替えられている。

 左手の掌を右手でポンッと打ち、思い出したと言った様子で軽い口調で聞いてきたのだ。


 考えもしなかった問いに、良喜は戸惑い、答えは全く出でこない。

 ずっとオロオロしていた。

 兄の優一郎が、間に割って入る。


「テンシュ様、その答え、今すぐには決められません。一晩考えさせていただきませんか?」

 優一郎がそう聞く。


 すると、いいよと、またもや軽く返された。


「じゃあ、私は一度猫屋へ戻るから、決まったらこちらに連絡ちょうだい。」

 店主の名と猫屋の住所と電話番号が書かれた名刺が手品のように何処からともなく指の間に出現した。

 両手を添えられて、手渡される。


 その時、何処からか、軽快なリズムの音楽が鳴る。

 それぞれが音の元を辿る。

 皆、店主の背負っていた小さな鞄へと辿り着いた。


 視線が集中したことで、自分の電話だと気が付き、慌てて背中から鞄を下ろし、中を探る。


 スマホを掴み、取り出してディスプレイを確認した。

 アッと声を漏らすと急いで応答する。


「もしもし、匠さん?何かあったの?えっ、見つかった?福岡の…うん、ケーキ屋さん?うんうん、それで…」

 どうやら、鳥の王が見付かったようだ。


 店主は電話を切ると、今から福岡へ向かうことになったと、ぼやいた。

 そして、ケーニヒには、猫屋はまだ危険なのでもう少しここに残るようにと言い付け、良喜には決断できたら番号に連絡するようにと伝える。


 すぐさま扉を床から引き抜き、去っていった。


 室内は静けさを取り戻す。


「木を直していっていないじゃないか。ユグに言い付けてやる。」

 ケーニヒが呟く。


   ***


「とまあ、それから、福岡に行って、苺フェア中のケーキ屋さんでのんびり保護管と過ごしていた鳥の王をキュッと縄で捕獲し、鼠の王の所に届けてから雑務をこなして、猫屋へ速攻帰宅したって訳よ。」


 店主は、一気にこれまでのことを説明したので、喉がカラカラになっていた。

 飲み物が欲しくなり、カウンターへ行き、コップを二つ用意しアイスティーを手際よく作る。

 ほんの数分でテーブルへと戻ってくる。


店主が席に着くと同時に、蓮が話し始める。

「それで、これからどうするんだ?白崎のところ行くんだろう?」


「うん、本田さんを飼い主さんと同じお墓に埋葬してあげたい…それと、アイツらに接触してみようかとは思っているよ。Axisの命令は昔から変わらない。こちら側を全滅させることだろう。でも、カピバラから貰った音源や君の話から推測すると、Qの言動が少し引っかかるんだ。もしかしたら、別の目的があるのではないかとね。」

最後のケーキにフォークを刺しながら、店主は答える。


「そうなのか?俺には分からなかったな。」

 剣が気づけたことに接触している自分は、気が付けなかったと悔しさをにじませる。


「俺も一緒に行く。」

 コップを握り、蓮が言うと、


「うん、君が来てくれると私のここが温かくなる。」

 剣が下手くそな笑顔を浮かべて胸を摩り、そう返してきた。


 それに対して蓮は満足したようだ。

 無意識に口角をあげ笑っていた。




1月中に投稿出来て良かったです。

月一頑張るぞ。

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