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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

精肉工場

作者: 神崎翼

 いつも買い物に来ていた、普通のスーパーだった。顔なじみになった灰色交じりの髪をした品出しのおじさんがいて、いつも優しい顔で今日の割引商品を教えてくれた。顔だけ知っているおじさんもいた。精肉コーナーの窓ガラス越しに見える作業所で、眼鏡をかけていつも挽肉を作っていた人。レジ打ちのお兄さんは一方的に名前を知っていた。名札に書いてあった、田中さん。女性が多いパートの人々の中で男の人、特におじさんは目立ったので、みんなよく覚えている。

 その人たちは今、全員ゾンビだ。

 何が起こったのかは分からないけど、ここはもうゾンビの町だった。私は交番勤務で拳銃も持っていたけど、一発撃ってゾンビに通じないことは知っていた。一緒に生き残った同じ交番勤務の同僚と食べ物を求めて入ったスーパーだったけど、一歩入って、間違ったことを知った。見てくれはいつも通りのスーパーだったから油断した。

 レジはなく、異様に広さを増した精肉コーナーではまるで工場のようにベルトコンベヤーが走っていて、稼働中。ベルトコンベヤーに乗っているのは、ゾンビだった。ゾンビがベルトコンベヤーの上を無抵抗にどんどん流されて行っていた。そして途中、上から降ってくる鉄の塊のような機械に押しつぶされて、魔法のように一瞬でミンチにされ、四角い肉のキューブとして引き続きベルトコンベヤーの上を走っていく。

 機械の周りでのそのそと動いて、ときおり機械の調子を見ているゾンビは眼鏡をかけていた。機械の終わりの方で、たくさんの肉キューブの載った荷台をどこかへ運んでいくゾンビの頭は灰色交じりの髪をしていて。今しがたキューブになったゾンビは、田中と書かれた名札をしていた。

 吐き気と怖気に耐え切れず、私はがむしゃらに走り出した。ゾンビが、ゾンビを精肉に加工している。ここはスーパーではなく精肉工場だった。

 はっと気づくと、私はよくわからない場所にいた。天井裏だろうか。スーパーにこんなところあっただろうか。私以外誰もいない暗がりから、変わり果てたスーパーの中が見下ろせる。今、置き去りにしてしまった同僚が、奥からやってきたゾンビから逃れようと銃を撃っている。


 とおく、とおく、にげだして。


 ふと、どこからか、少女の歌うような声がした。店内放送のようにも、天井のさらに上、あるいは遠くから響いているようにも聞こえた。その、ワンフレーズが終わると同時に、同僚と同僚に群がるゾンビを一緒くたに、ベルトコンベヤーで使われている鉄の塊よりも大きな鉄の機械が店の奥、真横から生えるように現れて、その空間にいた生き物を一緒くたに押しつぶし、肉のペーストにしたのだった。

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