1-08,09
08
「だから牙鳥、お前の考えを聞きたい。」
「さて、それじゃあ答え合わせだ。」
規制線を跨ぎ、家具店の外に出る。
「宇由先ぱい。棚、どうします?」
「そのまま収容所に送ってやれ。」
「あ、いやそうじゃなくって。お金。」
「お前が買ったんだから責任持て。」
「ひぃーん。」
「まあ資料として押収してもいいだろ。」
「そういう所が駄目だと言ってるんだ峯住。」
「お小言は後で聞くから今は事件だ。」
しょうがないやつだ、と牙鳥は腕を回す。
3回ほど竜巻を作った後、振り返って捜査資料を開いた。
「まず、施設から来た脱走事件の対応依頼だ。」
峯子は頷きながら記録を撮る。まめな奴だ。
「脱走したのは10人、時期はまばらだが、施設に送られたのは一度や二度じゃないようなろくでもなしばかりだ。」
「そいつらが脱走する前に施設はちゃんと詳細を記録していたんだよな。」
「勿論、というか、俺たちがまとめていた記録をそのまま使っていた気がするから、同じくらいには詳細を知っているはずなんだ。」
「どうしてその詳細が送られず、名前と顔だけが送られてきたのか。という点が今回の要点っすね。」
峯子が記録を続けながら呟く。
分かりやすく図にまとめようとしているのは分かるが、分かる図を描いて欲しいと切に願った。
「簡単な話、これは施設の人間が送った訳じゃないって事だ。」
「ん、どういう事っすかね?」
「施設から送られている、施設の位置から送られている。って事だ。俺も峯住も施設の人間を全員把握してる訳じゃない。人はともかく、施設から来た。と言うだけで請け負ってしまったという事だ。そこら辺の調べが浅かったな峯住。」
うるせえ。
「何かが起きていたのは確かだ。依頼を受けるのは対応家の本分だろ。」
「まあそうだが、今回は依頼主がよくなかった。よく見てみろ。」
「…いいよ」
「見ろ。」
…
「…どうせ網代とかだろ。」
そこに記されていたのは、10人の、さっきまで棚に仕舞われていて、ついさっき病院に搬送された、軽犯罪者共。
「まさか全員で、これから自分がやることの対応を依頼するつもりだったのかね…。」
「もう出たあとだったから、恐らく施設の依頼書にこの依頼を紛れ込ませていたんだろう。脱走に気づいた施設の人間が依頼を出す時に、他の誰かが既に作っておいたかのように見せかけて、詳細な記録の不完全な依頼を送らせた。と言うのが予想だが、依頼をしてしまえば、施設の人間達は対応家に任せきりになるからな。自分たちを追う戦力が減ることを狙ったんだろう。依頼用に脱走犯の記録を探したり依頼書を作ってる間、自分たちが見つかったら目も当てられない。」
「それでお前が持ってた資料はとりあえずは解決したな。自作自演の依頼、脱走予告てことだ。」
「予告と言うよりは報告っすけどね。」
「全く嘆かわしい。峯住はともかく、施設まで書類の確認を怠るなんて。」
「まあいいだろ解決したんだし。だが、それだと俺が持ってる匿名の依頼が不明瞭だ。」
「まあ、そこは君の番だろ?峯住。」
そこまで完璧にわかった訳では無いんだが…。
「まあ、そうだな。」
09
「最初に思ったのは、麻薬常用者が誘拐されたことに気付いたやつがいる、という事だ。」
「私が言ってた奴っすね。」
「そうだ。最初は施設から別の犯罪者が奪還を企てたのかと思ったが、そうであるなら家具店に行ったあとになるから辻褄が合わなくなる。」
「自分たちで脱走してるからね。」
「そう、それを家具店に来てみて思い出したんだ。確か脱走した犯罪者が居たよなーって感じで。」
「適当だな。」
「適当っすね。」
「家具店の棚の中にその脱走犯が居た。だから行方不明なのは脱走犯だと分かった。ここは峯子が珍しく勘を働かせたからだが。」
「家具店で行方不明、つまり誘拐されたなら家具店にいるはずはない、っつーのは盲点っすからね。人が入れそうな棚を適当に開けてみたら、あーいるわーって感じっす。」
「君の技術じゃないのか?峯住。」
「俺は技術に頼らない。もう二度とな。」
「…ああ。続けてくれ。」
「依頼にはこう書かれていた。«家具店に出かけた後に連絡が途絶えた»と。」
「これはおかしいっす。」
「そう、施設に収容されているやつは連絡手段に制限がある、ほぼ出来ないと思っていい。」
「まさか施設の人間は脱走されたんを、連絡が途絶えたなんて書き方したんすか?」
「いや、違う。そもそも施設は偽の依頼を俺に出してきたからもう送る理由はないんだ。」
「そういえばそうっすね。じゃあ、この依頼書…」
「峯住、よくさっきの会話でそこまで行ったな…。」
おかげさんでね。
「あの依頼は誘拐犯本人からの予告状、いや、報告状だ。」