1-04,05
04
ここで、誘拐事件についての情報を整理しておこう。社外秘機密のため、漏洩にはくれぐれも注意願いたい。
雨が続くよりも前、降り始めといった所だろうか。
家具店からの買い物を終えて帰宅した部屋に、新品のソファとともにそれは届いていた。
匿名から送られた、行方不明者のリスト。ざっと10人といったところか、すべて家具店に出かけた後に連絡が途絶えている。
俺が買い物をしていた時には不審な点は見られなかったが、それも相まって不気味だ。
真っ先に従業員とオーナー、常連客なんかが疑われるが、それらが存在している店の方が珍しい。
会計も所有も、買い物すらすべて端末の仕事になった。最も疑うならそれらなのだろうが、機械に動機は求められない。しかも。
10人もこんな奴らを誘拐するなんてのも、変な話だ。
行方不明者に共通するのは家具店に行ったという他にも一つ、麻薬常用者だったという点だ。
根絶されたという違法物品の一つ、麻薬が、社会の裏に潜み、あろうことか対応家の目を盗んで蔓延している。
これは何としてもこの事件の真相をつきとめ、何者かに誘拐された行方不明者達を犯人共々全員収容してやらなければならない。
「申請してた記録が来たっすよ!」
「確認しよう。雨が降るより前を特に。」
「ところで宇由先ぱい。」
一気に四つの記録を眺めて、峯子は問う。
「行方不明者なんすけど、見覚えありますよね?」
「当然だ。」
麻薬が知らないところで蔓延しているとはいえ、麻薬常用者についてはいくらか情報がある。
三人目の網代と言う奴は、峯子の初仕事で施設に送り込んでる。
他にも別件で見なれた顔ぶれだ。収容とまでは行かなくとも施設送りや病院送り、然るべき処理を行った覚えがあるし…。
「待てよ。」
記録には網代をはじめとした軽犯罪者共が映っている。
「ほら、宇由先ぱいも気づきました?」
行方不明が分かったのは依頼が来たからだ。
では、なぜ行方不明者は行方不明になった?
牙鳥に押付けた事件の一つを思い出す。
「やっぱり対応家って匿名からも受け付けちゃうから大変っすよねぇ。」
峯子が記録を止めて立ち上がる。
「誘拐されたであろう行方不明者は全員、ここに居ますよ。」
峯子は再び大きすぎる棚に手をかけ、近くの端末に声をかける。
「さっきから記録に見切れてる箇所があるんすよ。」
ーー当店の監視記録は先程差し上げたものですべてです。ーー
「そうっすよね。まあつまり。」
端末を操作する峯子、やがて画面には《購入完了》の文字が現れる。
購入?
「おい、何で」
「買うしかないじゃないっすか。こんなに沢山ものが入りそう、いや、もう沢山、入ってるんすから。」
「お前まさか」
「この棚は、収容所に宛てて送るんすよ。」
05
行方不明者は全員犯罪者で、俺たちを始めとした対応家が処理をしている。
犯罪者達は収容されるまでは行かなくとも、更生施設や病院に連れていかれる。
そして」
「行方不明者は全員、そこから出るには速すぎるっ!っす!」
峯子が乱暴に棚をひっくり返す。隙間なくはまっていた桐箱が次々と抜け落ち、音を立てて中身を吐き出す。
「これは一体…」
荘厳な棚にはおよそ似つかわしくない中身だ。
対応家として対応し対処したはずの10人。全てが麻薬常用者。施設から脱走したのかまたまた結託し新たなビジネスでも始めようとしたのか…。
見知った顔が誘拐、いや、施設が評判を落とさないための言い訳だろうが、ともかく全員発見された。
しかし、その状態が異常である。
白く丸い塊に頭を預け、横たわり目を瞑っている。
死んでいるような佇まい。しかして悪人には相応しくない、安らかな表情。
「死んでんすか?」
峯子が辺りの軽犯罪者共をビンタしている。
「いや、生電気反応はある。」
生きているのに意識はない。これは麻薬の症状にしては異常だ。少なくとも無事に発見、とは言えない。
「この白いやつはなんすかね?」
「わからん、迂闊に触ると危険だ。解析しよう。」
新手の麻薬が流出しているのだろうか、それとも別の違法物品か?
違法物品という存在があるということは社会に広く知られているが、その実態は対応家である俺も、研究者である峯子や専門家にも、その全てを知りえてはいない。
知る必要も無いはずなのだ。規律通りに社会的な生活をしていれさえすれば。
「やはり類似する情報は無いか。違法物品だろう。」
「しかし、誘拐事件なのに、なんでこんなところで放置されてるんすかね」
誘拐事件というのは施設や病院が保身の為についた嘘だろうが、確かに、脱走したのならここに放置されるというのはおかしな話だ。しかも得体の知れない何かによって意識を失っている。
失わされている、というのが正しいか、第三者の事件に巻き込まれたのだろうか。
「とにかくこいつらを保護していた施設に連絡だ。こんな連中を10人も脱走させるなど、これからの信用に関わる。」
「そうっすね。」
「いや、その必要は無いよ。峯住。」
何、
なっ。
「あ、牙鳥先ぱい!」
「こっちの仕事も解決しそうだ。」