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あとがき

作者: 夜空 狐
掲載日:2020/05/22

恋愛ものを書くのは久しぶり。

笑顔になれる恋愛小説。(当社調べ)



彼女の細く白い腕を見つめていた。本の匂いがじわり、僕と彼女を取りまいており、ぺらりぺらりとページをめくっていく音が小さな部屋に残っていく。目の前に仕事用のMacBookを置いているにもかかわらず、机を挟んで向こう側に座り、真剣に本を読む彼女を見てしまう。

「集中できないから、自分の仕事やってよ」

視線は本に向けられたまま、彼女はそう言って、またページをめくった。読むスピードが早いのは話が面白いからなのか、それとも飛ばして読んでいるのか。

「だって君が可愛くてさ」

「うるさい。仕事やって」

「冷たいなあ…つーか、そもそもその本難しいから読まなくていいよって言ったじゃん」

細い腕がコーヒーカップを持ち上げた。僕と会話する気は毛頭ないらしい。

仕事に戻ったふりをして、手元で適当なタイピングをしながら横目で彼女を見た。艶やかなロングの髪をしていて、綺麗な二重。僕にはもったいないくらいだ、と改めて思った。


「お、読み終わるじゃん」

コーヒーカップはもう空っぽになっていて、いつの間にか彼女の左手には数ページしか残っていなかった。

「もう…最後がいちばん楽しいんだから、話しかけてこないでよ。分かるでしょ」

そう言いつつ僕を構ってくれるのだから、優しいやつだなあ…という心の声を漏らさないように必死にパソコンの画面に集中した。それでもなんとなくいたたまれなくなって、仕事のお供にと隣に置いておいたラムネをごくりと飲んだ。口の中に刺激が広がる。

「なんでこんな本の多いところでラムネ飲んでるの…おじさん」

「君と同い年なのにそれはないよ。ほら、いい音でしょ?」

自慢げにカランカランとビー玉を鳴らすと、「だからうるさいって」と一喝された。その間にもぺらりとページはめくられる。この音が僕をドキドキさせて、なんでもない日常に律動を与えてくれるのだ。


仕事に飽きてしまい、ラムネを何回かに分けて飲む遊びをしていると、彼女がふうっと息をついてこちらを見た。

「読んだよ」

その一言が妙に重苦しく聞こえたので、おそるおそる

「…面白くなかった、かな?」

と聞くと、少しの沈黙のあとに

「おもしろかったよ」

と面白くなさそうな声で返した。

「ほんとかな?」

「まあ…おじさんにしてはやるんじゃない? って感じかな」

「だからさぁ」

「恋愛モノなんて、珍しいじゃん」

ぱらぱらと見返しながら、真剣な顔のままそう言った彼女に、僕は少し驚きつつも「そう?」と目を見た。

「おじさんの書く恋愛モノにしては、ずいぶんと心当たりがあるなあって」

「…? なんのことかな」

僕にしては珍しく彼女を弄んでいた。少し楽しくなってからかってしまうが、心の中では彼女の言動に敏感になっている。

「私、きみの本、好きだなあ」

ぽくっ、ぽくりと頬をふくらませてそう零す彼女の目には涙が浮かんでいた。そして僕は、その涙が悲しみの涙でないことを知っていた。



『あとがき


この本を手に取ってくれた全ての人に感謝します。そして、この物語を通していろいろな感情や想いに触れていただけたなら幸いです。


この小説を書き始めたとき、僕には愛する人もものもなく、半ば妄想癖の欠片のように書いていました。しかし、とある日に僕の前には愛すべき人が現れ、当たり前のように隣にいてくれる存在になりました。こんな僕の作品を認めてくれる彼女を僕は裏切りたくなくて、今度は半ば願望のようなかたちで書いていました。


この本に限らず、物語というものは読んだ人の数だけ感想があり、抱いた感情があり、思い出があります。

僕は彼女が読んだときに彼女が僕とずっと一緒にいたいと思ってくれるような、そんな作品を書きたくてこの物語を創りました。それはあなたがどうこの物語を受け取ろうと、変わらない事実です。

そんな、自己満足を一貫した物語の読者になってくれて、どうもありがとうございました。


そしてこの場をお借りしまして、私事ではありますが、入籍いたしましたことを御報告いたします。


それでは、またどこかで。』



「ずるい、ずるいじゃん、こんなの…」

ほろっと目の端からこぼれた涙すら綺麗だった。声を上げるでもなく、涙を流すでもなく、嬉しさを噛みしめるように泣く彼女が、形容しがたいほどに、綺麗だった。

「ごめんね、嫌だった?」

ここまで来ても意地悪したくなってしまう自分が可笑しかった。彼女の涙が嫌悪を表しているでもないことなんて、自分が一番わかっているはずなのに。

案の定、彼女は首をふってこう言った。

「何度でもいうよ、私は、きみの本が好き」

それを聞いて、僕は笑顔でラムネを飲み干した。机に置いた瓶から、コロンカランとビー玉の美しい音が響く。




僕は、きみの小説家。

ありがとうございました。

この物語は、私が描いた詩をもとにつくっています。その詩も投稿しておりますので、ぜひ、そちらも読んでいただけるとより楽しんでいただけるかと思います。


小説に関しては未熟者なので、感想をいただけると喜びます。ぜひ、お願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 入籍しましたのところで声を出して笑ってしまいました。  切なく無いのに、何か綺麗で泣きそうになりました、良かったです。  詞を読んでから来ました。
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