表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/113

89 組織 3


 青年が初めて感じた感覚は視線だった。


 液体の中にいるとは想像もできず、朧気な意識とぼやける視界からの情報で脳がそう処理をして。


 僅かな感覚を覚えてまた意識が無くなる。この繰り返しが何度あっただろうか。


 だが、遂に青年の意識が覚醒する。


 自分は液体の中にいるのだ。口の中に何か管のような物が入れられている。自分を見ているのは3人であるとハッキリわかる程の視覚情報も得られた。


 青年の目には正体不明の機械を操作する男が中央に見えた。手前には腕を組んだ美女がいる。奥の壁には青年と同年代に見える男が壁に寄りかかって。


 それぞれ3人は口をパクパクと動かし、何かを喋っているように見えるが聞こえない。


 数分後、ビーというブザー音が聞こえると自分を満たしていた液体が抜けていく。


 クリアになった視界で自分はガラスケースに入れられていたのだと、たった今気付かされた。


 機械を操作していた男が近寄って、足元にある部分に触れる。


 するとガラスケースが開いて肌には空気に触れる感触が襲う。腰に装着されていた拘束具が解かれると、青年は地面に倒れ込んだ。


「私を覚えているかね?」


 倒れ込んだ青年の口から管を引き抜いた後、首に首輪を装着した男は顔を覗き込みながら問う。


「あ、う……」


 知らないと言うが、青年の口からは言葉にならない呻き声が出るだけ。


「覚えているかね?」


 だが、男はお構いなしに問い続ける。声が出ない青年は首を振って否定した。


「まぁ、当然か」


 否定されたというのに男はどこか嬉しそうだ。いや、覚えていて欲しくなかったのだろう。


 フン、と鼻を鳴らして立ち上がると青年を見下ろしながら言う。


「私はお前が最初に見捨てた国に生まれた」


 何の事だ? と青年は話が分かっていない様子。それを見て、男は「ああ」と言いながら一番最初に教えなければならない事実を思い出す。


 あまりにも自分の復讐心を前面に出し過ぎてしまった。


「お前は英雄だよ。この世界に異世界から初めて召喚された初代英雄、ルイ」


 そう言われ、青年の頭の中になったモヤが晴れていく。


 自分が何者であったのか。どんな人生を送っていたのか。そして、どうやって死んだかを思い出す。


「な、んで……」


 ようやく言葉になった声は疑問だった。当然だろう。自分は死んだはずだと思い出したのだから。


 男は戸惑いを隠せない青年――ルイを心底嘲笑うかのように口を歪めた。


「何で? 馬鹿な事を聞くな! 私はお前に復讐する為に生きてきた!」


 今が正にそうだ、と男は言葉を続ける。


「お前が見捨てた国は大地ごと消えた! 私の妻も子供達も! 友人達も! 貴様はマギア・ステラに世界喰らいが襲い掛かった時に助けに来なかっただろう!」


 男の脳裏には当時の記憶が蘇る。もう500年も前の事だが、今でも鮮明に思い出せる。


 空が黒く染まり、祖国の大地を埋め尽くさんとばかりに溢れた魔獣達。


 世界喰らいの生み出した魔獣が人を襲い、喰らい尽くして行く様を。


 瓦礫の下に埋まった中で、家族や友人が喰われていく音だけを聞いたあの日の事を。


「私は誓った! 世界喰らいも、この世界も、英雄と女神にも復讐してやると!」


 男はローブを脱いで上半身を曝け出す。右肩から心臓部まで黒い金属のような物質に覆われて、左手には手首から顔の額まで伸びる黒い入れ墨。


 ルイは生前の記憶を取り戻した事で直感的に理解する。


 彼は世界喰らいの力を取り込んでいると。


「私は復讐する為に永遠の命を手に入れた。怨敵である世界喰らいの力を使ってでもな! 私はあのおぞましい力を完全に制御しているのだ!」


 世界喰らいは確かに彼の家族を奪った敵である。だが、同時に利用しない手は無かった。


 負の力を用いて、完全に制御する事で世界喰らいを屈服させたと叫ぶ。


 世界に未だ蔓延る負の力は手中に収めた。だからこそ、次は残りに復讐の鉄槌を下す。


「その1つが、お前だ。お前は確かに死んだ。だが、私の持っている知識で復活させた。そこで、その首輪さ」


 男はルイを見下ろしながら、自分の首を指でトントンと叩いた。


「その首輪は世界喰らいの力に反応して動く、制御用の首輪だ。お前はもう、私に逆らえない」


 ニヤァと笑った男は、


「お前は私の駒となってもらう。生前の記憶を持ったまま、自分が守った世界が崩壊していく様を見せてやる」


 ルイに死よりも恐ろしい体験をさせてやると言った。


「お前が救った世界も。お前が愛した女神も。私とお前の力で壊すんだ」


「…………」


 ルイは男を見上げながら、これから起こるであろう苦痛の日々に顔を歪める。


 だが、同時に死ぬ間際に女神から聞かされた言葉を思い出す。


『絶望の渦に飲まれたとしても、諦めないで』


 そう言った彼女は、この事を言っていたのだろうか。


 あの時、彼女は他にも――


『貴方は貴方の友が救う』


 そうも言っていたと思い出す。


 友とは誰か。脳裏に浮かぶのは親友の姿。


「ユ、ウ……」


一旦区切り。読んでくれてありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ