表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/113

87 妖精アブダクション


 エルフの街に滞在して1週間。


 完全体の襲撃もあって一時はどうなるかと思いきや、若頭(せいれい)さんのおかげで街は平和そのもの。


「うん、慣れてきた」


 虹色の魔力水を妖精の木に浴びせるのが、ここ最近俺の日課になっている。


 魔法発動も徐々に慣れ、最近では設置した噴水魔法でスプリンクラーのように魔力水を撒いている。


 虹色の水が噴出すると妖精さんが集まってクルクルと周りながら飛ぶ姿は幻想的だ。


 若頭(せいれい)さんがアッチ系だと知らなければ、より幻想的だったに違いない。


「さぁ、今日もやるぞ!」


 今までは神頼み? 的な儀式で妖精の木を維持してきたが俺が魔力水を注ぐ事で力を与えられるという手段を得た。


 それに伴い、これからはエルフ達も魔力水で妖精の木を維持できないかと方針転換。


 エリスさんを指導役として、虹色魔法水を作れないかと試行錯誤を始めた。


 結果としては上手く行きそうだ。


 魔力総量が多く、各属性魔法を使えるエルフを集めて木桶を囲みながら水属性に担当の属性を注ぐ。

 

 全員が注ぐ魔力量を統一し、木桶に入った水を混ぜ合わせる事で魔力水が作れないか、という訳である。


 選ばれたエルフ達が真剣な顔で木桶に水を注ぐ。桶の中の水は徐々に混ざり始め、薄い虹色になっていく。


「ど、どうでしょう……?」


 額に汗を浮かべたエルフ達がそう言った。


 水属性に他の属性を混ぜるという行為はかなりの集中力を要する。不慣れな者からすれば力仕事よりも疲労を感じるだろう。


 脇で見ていた俺は彼らの気持ちがよくわかる。めっちゃ疲れるんだよ。


「あ、妖精が」


 と、苦労を思いながら桶を見ていると淡く光った玉がふよふよと木桶に寄って来た。


 妖精の光は水浴びするように木桶の水をパシャパシャと弾けさせ、喜んでいるように見えた。


「成功のようだな」


 エリスさんが満足気に頷いた。選ばれしエルフ達もホッと胸を撫で下ろし、自分達でも出来たと喜びの声が上がる。


「あとは日々の積み重ねでスムーズに行えるだろう」


 訓練を怠るな、と指導役のエリスさんが締めの言葉を告げて今日の訓練は終了。


 日課が終わればお楽しみタイム。


 今日はアリアちゃんとエルフの街を散策する約束があるのだ。つまりはデートである。


 ルイスさんの屋敷に戻り、アリアちゃんと合流して街へ。


 街の景色を楽しみたいので徒歩で移動。


 キースとロザリーさんが俺達の後ろに控える中、俺とアリアちゃんは手を繋いでメインストリートを進む。


「ふふ。王都ではこんな事できませんからね」


「そうだねぇ」


 俺達は堂々と手を繋いで歩くが、エリオス王都ではこんな事できない。


 アリアちゃんは王族であると皆が知っているし、俺の姿はまだ秘密の状態。

 

 では、なぜエルフの街なら大丈夫なのかというと……。


「あ、英雄様!」


「こんちわー」


 街にいるエルフ達が俺の姿を見て、英雄だと気付く。その理由は俺の傍で漂う妖精の光だ。


 虹色魔力水を注ぎ、若頭(せいれい)さんが具現化して以降、俺の傍には妖精が漂うようになった。


 エリスさんとルイスさんの話では、エルフの街にいる時だけだと言うが……。


 妖精の光はエルフにとって馴染み深い。それが常に漂っている人間を見れば「ありゃ何だ」となるだろう。


 族長であるルイスさんに質問が殺到し、仕方なく全てを話した結果がこれ。


 妖精の光が漂っている人 = 英雄 という図式が出来てしまった。


 知れ渡ってから1週間経って、俺自身はもう慣れたが。


 ただ、トイレの中まで妖精が付いてくるのはどうかと思うよ。


「あのお店がルイスさんが言っていたケーキ屋だね」


「行きましょう!」


 今日のデートは甘い物を食す為だ。やはりどの世界の女性も甘い物には目が無い。


 エルフの街でしか食べられないケーキとやらを実食しに来た次第である。


「あら、英雄様。いらっしゃいませ」


 俺の頭上をクルクルと回る妖精を見て、店のエルフ女性がニコリと笑った。


 アリアちゃんよりも先に気付かれるのは不思議な感覚だ。これは1週間経ったとしても慣れない。


 元ブラック企業サラリーマンが王族よりも上とはね。


 ともあれ、奥の席に案内されてさっそく注文。


「エルフイチゴのケーキを2つお願いします」


「はい、かしこまりました」


 この店の看板メニューはエルフの街周辺で育てているイチゴを使ったケーキである。


 なんでも特殊な品種で『赤い宝石』と比喩されるほどのイチゴなのだとか。


 エリオス王国に一部流通しているらしいが、1箱10粒入りで何と5万アレス。


 流通量の関係もあるが、1箱で4人家族一般家庭の食費半月分だそうな。高い。


 が、原産地であれば安く食べられる。気軽に食べられるのもエリスさんが王族に嫁ぎ、孫であるアリアちゃんのおかげだろう。


「おまたせしました」


 注文した飲み物と一緒に、噂のケーキが2つ皿に乗ってやって来た。


 目の前に置かれ、俺はフォークを持って食べようとするが――


「あ、あれ!?」


 一瞬だけケーキから視線を外した瞬間、俺の皿にあったケーキが行方不明に。


 どういう事だ!? と思っていたら、


「け、ケーキが浮いています!」


「え?」


 アリアちゃんが向ける視線は俺の頭上。


 顔を上げれば、イチゴのケーキが妖精の光にアブダクションされているではないか。


 しかもよく見れば光がクリームだらけだ。


「妖精が食べているのでは……?」


 ロザリーさんが口を半開きにして見ている隣で、キースがそう言った。


 妖精って食べ物を食べられるの……? 特別な魔力で生きてるんじゃ……?

 

 騒ぎに駆け付けた店員さんもケーキがアブダクションされている光景を見て固まっていた。


 光る体(?)をクリームだらけにして完食した妖精は俺の頭上でくるくると回る。まるで美味かった! と言わんばかりに。


 妖精は店の外に高速で飛び出して行き、しばらく経つと他の妖精を引き連れて戻ってきた。


 大量の妖精達はアリアちゃんの前にあるケーキをアブダクション。光る玉が宙に浮かんだケーキに群がる姿は見たくなかった。


「ケーキが気に入ったのか……?」


 気に入って、美味しかった。だから仲間を呼んだ。そう見えた俺は、言葉にして問うと妖精の光は頷くように何度も発光点滅を繰り返した。


「まぁ! ウチのケーキが妖精様に気に入られるなんて!」


「店やってて良かったなぁ」


 店を経営するエルフ夫婦が、俺達を案内してくれた娘さんに連れて来られた。この光景と理由を聞いて喜ぶあたり、やはりエルフは妖精を信仰しているのだなと思わされる。


「こりゃあ良い宣伝になるぞ!」


 妖精にケーキを振舞いながら早速とばかりに『妖精も大満足のケーキ!』とポップを作る亭主。


 妖精は信仰対象じゃなかったのか。エルフってすごい。俺は素直にそう思った。


 因みに、ケーキはめちゃくちゃ美味かった。


 これはアブダクションされるのも納得ですわ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ