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80 初めてはワインの味


 夕方には御前試合が終わり、解散した後は英雄応援チームによる打ち上げが始まった。


 音頭を取るのはエリスさん。なんでも面倒な貴族が肩を落として帰って行く様を見てテンションが上がったらしい。


「ふははは! ユウキ、飲んでおるか!」


 しかし、彼女は完全な絡み酒だった。ワインの瓶を両手に持ち、俺の肩に腕を回しながら酒臭い息を吐く。


 先代王妃ですよね。これでええんか?


 王様を見ればテーブルに突っ伏していてピクリと動かない。


「この人、お酒弱いのよ。エリス様に飲まされてダウン中よ」


 どうやら王様は最初の被害者だったようだ……。


 王族専用の食堂でやっているから良いものの、食堂内はしっちゃかめっちゃか。


「さすが我が友よ!」


「さすが私の教え子!」


 ワインをカパカパ飲んでいたエヴァンは同じく飲んでいたスレイと気があったのか、何度もグラスを打ち付けて乾杯していた。


 いえーい! じゃないよ!


「俺がさァ、頑張ってるのにさァ」


「わかる。わかるぞぉ」


 ガウルさんは一人でブツブツ言いながら泣き酒。隣に座るジャック爺さんは相槌を打ちながら静かに飲む。


 なんだこれは。地獄か。


 先ほどから忙しそうに酒やツマミを追加しているメイドさんと執事の方々に申し訳ない程の乱れっぷり。


「キャハハ☆ 飲んでるぅ? ねえ?」


 絡んでくるエリスさんは何故か言葉が若返っていた。いや、確かに容姿からして違和感無いけど。


「無礼講の宴会など久しくしておりませんでしたからな。たまには良い事です」


 全体指揮を執りながら王様の傍に控えるヨハンさんが、そう言いながらニコリと笑った。


 ここにいるのは王族や騎士団長。ギルド長にAランクハンター。それぞれ役職があり、重責を担う者達。


 きっと日々ストレスを抱えているのだろう。


 確かにたまには悪いくないのかもしれない。でも、絡むのはやめて。酒臭い。


「そういえば、アリアちゃんは?」


 周囲を見渡すとそこには酔いどれ地獄があるのみ。俺の人生において天使と呼べる存在がいなかった。


「先ほど、バルコニーへ風に当たりに行くと仰っておりましたよ」


 ヨハンさんが手で示すのは食堂のバルコニー。


 俺はエリスさんの腕を解き、アリアちゃんのいる場所へ向かった。


 外はもう陽が沈み、完全に夜と言っていい時間だろう。


 彼女は確かにバルコニーにいて、設置された長椅子に座りながら夜風に当たっていたようだ。


「あ、ユウキ様」


 俺がバルコニーへ来た事へ気付き、ニコリと笑うアリアちゃん。


 星と月が照らす彼女の顔は、酒を飲んだせいかほんのり赤い。


「隣、座っても良い?」


「ええ。もちろん」


 短いやり取りをして、俺は隣に座る。


 しかし、お互いにそれ以上会話が無い。


(言わなきゃな)


 そう決意していたが、俺の心臓はドキドキと鳴って外まで音が聞こえそうだ。


「その、聞きました。お父様に」


 最初に切り出したのはアリアちゃんだった。


「そ、その、御前試合で勝ったら、その……」


 もじもじしながらチラリと俺を見つつ。


 俺はこれ以上、彼女に言わせてはイカンと意を決して口を開く。


「うん。その、勝ったら、アリアちゃんに気持ちを伝えさせてくれってお願いしたんだ」


 さすがに王族の娘に想いを伝えるのだ。ケジメは必要だろう。


 本人に言う前に父親に許可を取るとか、とんでもなく緊張したが。


 俺は緊張でまともに彼女の顔が見れなかった。顔を伏せ、視界には自分の足が映る。


「俺には自信が無かった。英雄としてやっていけるか、役に立てるか。あまり胸を張って言えなかったんだ」 


 剣は素人、ケツから魔法を出す。こんな状態で胸を張れるわけがない。


 英雄として世界の役に立っていると自信を持って言えなかった。


 だが、エヴァン達と訓練をして少しは考えが変わった。


 今まで騎士団と共に行動して、甘えていたのもあっただろう。


 訓練では頼りになる仲間がいるものの、それでも自分自身の力を加味しなければ危険な状況だった。


 何とかしようと考え、自分でも出来る事をしようと常に考えさせられながら行動する日常が俺を変えたのかもしれない。


 模擬戦でエヴァンとレッドとまともに打ち合えるようになった。


 Aランク魔獣を一人で相手する事も可能になった。


 魔法を開発して生活面でも戦闘面でも役に立てるようになった。


 それ以上に、尻から出るという残念な仕様をあまり気にしなくなったというのもある。


「何だろうね。図太くなったのかな?」


 尻から出るからなんだ。俺は戦えるぞ! と思えるようになったのは大きい。


 欠点を認め、それを補おうと努力する事が自信に繋がるとは思いもしなかったが。


「これからも努力は続けるけど、大事な人を守れると思えるようになれた」


 強大な敵が出てきたら正直わからない。でも、命を懸けて彼女を逃がす事くらいは出来るだろう。


 これからも努力を続けて、彼女と共に生き残れる方法や力を得る事も探さなければならない。


 しかし、想いを伝えるくらいは良いんじゃないかと思えた。


 彼女を誰かに取られたくないと本気で思う。出来る事なら、ずっと傍にいて欲しいと心の底から思う。


 俺は立ち上がり、彼女前に立った。


 俺は手を差し出しながら腰を折る。言うぞ! 言うぞおおお!


「初めて見た時から好きでした! 僕とつきひゃって下さい!」


 めっちゃ噛んだ。やべえ。


「……私も、好きです。初めて守ってくれた時から、ずっと」


 顔を上げれば、彼女は笑みを浮かべながら俺の手を取る。


「貴方はずっと守ってくれてました。陰口を言われているのに私に気遣ってくれて。魔獣が出た時も私を守ってくれて」


 彼女は俺の手を握り、立ち上がって近づいて来た。


「いつも私の為に戦ってくれて嬉しかった。今回もそうです。私は、貴方と一緒にいたい。他の誰かの物になりたくないです」


 お互いの体は密着し、徐々に顔が近づいていく。


「好きです。私の英雄様」


 月と星が照らす中、俺は遂にファーストチッスを済ませた。済ませてしまったのだ!


 初めては赤ワインの味がした。


次回は土曜日に投稿します。

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