4 魔法も尻から出る
「本日は英雄様の身体能力と魔法適正を調べましょう」
召喚された翌日、俺は城の隣にある騎士団の訓練場へと連れて行かれた。
グラウンドのような土の地面と訓練用の的と思わしき案山子。休憩用のベンチのみが設置されている場所だった。
俺の目の前には黒いフード付きのケープを羽織った若い男性が水晶を手に持って、本日の予定を説明してくれる。
周囲には鎧を着た多数の騎士が遠巻きに見守る状況だ。
「あれが英雄様か」
「どれくらい強いのだろうか」
やめてくれぇ……。期待の眼差しで見られると腹が痛くなるからやめてくれぇ……。
訓練場に来る前、入念にトイレを済ませたが油断できない。その期待に満ちた眼差しは新卒時の入社面接を思い出すからホントやめて。
「まずは身体能力から確認しましょうか」
召喚陣を通ってこの世界に召喚された俺は、女神の力によって付与された能力アップ効果で元の世界にいた身体能力よりも数倍上がっているらしく、自身の身体能力を把握することから始めるそうだ。
そして、始まったのはスポーツテスト。
100mを走ったり、反復横飛び、握力などなど。
このスポーツテストの結果が生身の身体能力であり、その身体能力を魔力で強化すると更に化け物染みた速度や力を出せるらしい。
俺はまだ身体能力強化の魔法を知らないし使えないので、まずは生身のテストをしてから魔法の練習を行う事になった。
結果的には100mが7秒。リンゴを潰す握力という体を鍛えていない元サラリーマンとは思えない程の身体能力だった。
召喚陣ってスゴイ。これだけ身体能力あるならケツから武器出さなくても戦えるんじゃ? と思って質問してみたら、俺の身体能力はこの世界の15歳程度の男子と同等らしい。
走る速さは個人差が激しいらしいが、騎士レベルになると握力はもっとスゴイらしい。
異世界やべえ。
ただ、話によると今から鍛えても身体能力は伸びるとの事で一安心。
そんなこんなで次は魔法の適正を調べる。
「この水晶に手を置いて下さい。適正のある魔法系統で水晶の色が変わりますので」
「はい」
水晶に手を置くこと数十秒。手を離して良いと言われて、手を引っ込めると透明だった水晶は虹色になっていた。
「おお! すごいですよ!! 全属性の適正があります!」
黒いケープを羽織った男性が驚きの声を上げると、その声を聞いた周囲の騎士達も同じように声を上げた。
「すごいです! 全属性の適正を持つ人は珍しいのですよ!」
俺の傍で見ていたお姫様、アリアちゃんも虹色になった水晶を見てスゴイスゴイと喜びまくっている。
こんな慈愛に満ちた笑顔を浮かべながら喜ぶ、天使のようなお姫様は18歳だそうで。今朝から彼女の事をアリア様と呼んでいた俺に「気軽に呼んで下さい」と天使のような笑顔で言ってくれた。
それ以降、年下な事もあってアリアちゃんと呼ぶ事になった。俺のような非イケメンは、例え相手が許しても呼び捨てで呼んではいけない。
見つめるのは0.5秒。そして決して調子に乗ってはいけない。
心に刻め、非イケメン三ヶ条。
「歴代の英雄様の中でも全属性を扱える方はいませんでした! これは本当にスゴイ事ですよ!!」
と、ケープの男性も大はしゃぎだ。
全属性というのは、火水風土光闇である。
この世界、アレスに住むほとんどの人々は闇属性に関しては初級までしか使う事が出来ず、中級以上の闇属性魔法は魔族と呼ばれた種族の中でもごく一部しか使えないらしい。
大体の人は2~3属性の適正を持っていて、多くても4属性だそうな。
そんなワケで、歴代英雄の中でも特に珍しい俺の事を、ケープの男性もアリアちゃんも目を輝かせていた。
そうか、ケツから武器を出す俺にも長所はあったんだ。素直に嬉しい。
ん? という事は、ケツから武器を出さなくても魔法主体で戦えば恥ずかしい思いしないで済むんじゃない!?
大魔法使いライフ始まったんじゃない!?
「魔法ってどうやって使うんですか?」
「魔法には初級・中級・上級とありますが初級以外は訓練が必要です。いきなり魔法を使おうとしても、英雄様がいらっしゃった世界では魔法が無かったとお聞きしていますので発動は難しいかと。そこで、まずは魔力を感じ取る事から始めましょうか」
魔力とは人の体内に宿っている魔法の素で、総量は個人差があるそうな。
総量を調べるには専用の機材があるので、それで調べるらしい。
専用機材を使うにしても、まずは魔法を少しでも発動させる事が出来ないとダメだそう。
というわけで魔力総量は置いておいてローブの男性に言われた通り、まずは魔力を感じ取る事から始まった。
俺は彼と握手をするように手を握る。
「じゃあ、軽く魔力を流しますので感じ取る練習をしましょう」
ん? 何も感じないな? そう素直に言うとケープの男性は首を傾げつつも、
「もう少し強めに流してみます」
と言って再び魔力を流し始めた。
すると、何やら彼の掌からほんのり温かくこちらの掌を押し返すような何かを感じ取る。
それを体感していると、今度は自分の体に流れる血の動きを感じるような感覚を覚えた。
「それが魔力です。魔力を感じ取れるようになると、あとは自然と使えるようになるはずです」
そう、彼の言う通り内に秘める魔力を感じた瞬間に頭の中で魔法の使い方が思い浮かんだ。
中級以上の魔法は魔力を細かく操作する術を覚えないといけないらしいが、それでも初級魔法の使い方は自然と頭の中に思いついたのだ。
異世界ってすごい。
「使ってみても良いですか?」
「ええ、あの的に向かって撃ってみましょうか」
男性の指差す先には人型の案山子。
ふぅ、と深呼吸してから俺は手の平を案山子に向けて意識を集中する。
魔法、火の魔法だ!
ふんっ……あっやべ。力みすぎて水気の多いアレ出そう。
なんて思った瞬間――
バゴォォンッ!
「ぎゃああああああ!!」
何故か足元が爆発し、俺は盛大に案山子へ吹き飛んでいった。
ズザザザッと地面に顔面スライディングを決めてしまい、顔が痛い。一体何が起きたんだ!?
起き上がって元の位置を振り返れば、地面は抉れて真っ黒に焦げた後が。
そして、周囲で見守っていた皆さんは口を開けて唖然としていた。
みんなの反応に、俺はキョロキョロとしているとアリアちゃんが叫ぶ。
「英雄様! お尻から! お尻から火の魔法が出ました!!」
「マタァァァッ!?」
ケツから!? またケツから!? 武器だけじゃなく魔法も!?
つまり、ケツから出た火魔法が地面に当たって爆発……俺はそれで吹き飛んだの!?
折角、全属性適正あってケツから武器出さなくて戦えるかも~! なんて思ってたのに!
大魔法使いライフ ~ただし魔法はケツから出る~ とか、勘弁してくれよ!
またしてもケツから出してしまった自分自身にツッコミを入れて、元の位置にヨタヨタと戻りながら周囲に視線を送ると。
「ケツから……魔法……ブフォw」
「ヤベェよブヒョヒョww」
と俯きながらぷるぷる震えて小声で言っていた。
聞こえてるよ!?
「で、でも! 全属性適正あるのはスゴイです! それに威力も初級とは思えない程でしたから!」
慈愛に満ちたアリアちゃんの優しいフォロー! これはキクぜ!
全属性適正持ちでありながら威力がすごい。これだけ見れば英雄らしい能力として素直に役満クラスだ。
だが、ケツから出るという現実が俺の心と胃腸を軽快に抉ってきやがる。
「ハハハ……」
アリアちゃんの必死の慰めを受けていると1人の老騎士がにこやかな笑みを浮かべて俺に歩み寄る。
「なに、英雄殿。魔法など使わなくても、英雄殿には強力な武器があるではありませんか。つまり、剣で戦えばいいのです!! さあ! この私、ジャックと共に剣を極めましょう!!」
すげえ脳筋爺さんだった。
俺の肩をズバン! ズバン! と笑顔を浮かべながら物凄いパワーで叩きよる。
だが、この爺さんの言う通り結局俺には剣を出して戦うしか無いのかもしれない。
だって魔法主体だったら、常に相手にケツ向けなきゃだもん。
そんな絵面はどう足掻いたってヤバイよ。英雄のえの字もねえ。
「そうかもしれませんね……」
「うむ! そうでなくては! さぁ、私と剣を交えましょうぞ!」
爺さんは苦笑いを浮かべた俺の返事を聞くとすごく嬉しそうに頷いた。
「あ、剣の力も知っとかなきゃか」
剣を扱う練習も重要だが、魔剣となった剣の威力や能力を把握していないと、いざ戦う時に困ってしまう。
この際だから魔剣の事も調べよう。
「うむ! 確かにそうですな! 魔法の事は一時忘れて、剣について調べましょう!」
「そうです! 剣に隠されたすごい力があるかもしれません!」
「お、おお! そうですね! 魔法はまた後で練習しましょう!」
そうです、そうです、とケープの男性も見守る騎士の皆さんも空気を読んで盛り上がる。
爺さん、アリアちゃん、皆、ありがとう。
慰めてくれる人が多くてあったけえよ。
「俺、頑張るよ!」
「その調子です! さあ! 英雄の剣を!」
俺は皆の温もりを感じながらケツを突き出して、昨日作り出した魔剣をケツの魔法陣から召喚する。
「あ、長くて1人じゃ抜けないから引っ張ってくれる?」
爺さんにケツから出た柄を向けて頼み込むと、
「締まりませんな……」
ケツもね。