第七話:「水曜日は奈々枝の日
蒼疾「今回もまた登場するのは奈々枝!」奈々枝「へぇ、珍しく紹介してくれるのねぇ?」蒼疾「まぁ、たまにはな」奈々枝「今回こそあたしが主役よ!」蒼疾「では、次回、フェアリーブレイヴ第八話!………『題名忘れました!』乞うご期待!」
第七話:
「水曜日は奈々枝の日」
さぁ、今日も明るい朝がきたよ!目覚めよう!すばらしき青空が君を待っている!
そんな音が目覚まし時計から流れ出る。ちなみに言うが外は曇りだ。青空でもなんでもない。昼からは雨だって昨日の夜のニュースで言っていたし。
そんな時、俺の部屋の扉をあく音が聞こえてくる。誰が来たのかわからないが起こしに来たのなら無駄である。そう簡単におきない!これが俺の譲れない信条である。
「そ・う・や♪ほら早く起きなさいよ」
「……」
「もうっ!ほら、おきてよ!」
ゆさゆさと俺をゆすっているが甘いな、奈々枝。俺は先ほども言ったとおり鉄と書いてくろがねという心を持っているのさ♪
「もう!仕方ないわね……」
おもむろに俺の耳あたりに顔を近づけている。ふふ、どうせ大きな声を出して驚かせる作戦だろうと思って身構えていると……
ちゅっ
「!?」
「あ、よ、ようやくおきたのね?」
ぎょっとした顔で奈々枝を見ると顔を真っ赤に染めていて俺を見てはいない。
「い、今何した?」
「……お目覚めの……ほっぺにちゅう」
「……」
俺は何も言えずに奈々枝を凝視しているが、それに対して本当に恥ずかしそうに下を向く奈々枝。かわいい……じゃなくて!
「え、えっと……とりあえず飯だよな?」
「え?う、うん。だから早く起きてっていったじゃない!」
ほらほら、早く行ったと俺を押しながらエプロン姿の奈々枝は顔を赤色に染めたままだった。ピンク色のエプロンがよく似合っているというのは言わないでおこう。
―――――
すでにほかの二人は学校に登校しているらしい。どうやら目覚まし時計がおくれていたらしい。登校までの時間は本当にぎりぎりであり、ゆっくり二人で朝食を食べている時間はないのだが……それでも俺は、いや、俺たちはともに食事をしていた。
「ほら、またこぼしてるわよ」
「あ、すまん」
「ほら、ご飯粒」
「……」
奈々枝はそれを自分で食べる。
「何?」
「え?いや、何も」
「さ、そろそろ学校行くわよ?」
「あ、ああ……」
高鳴る鼓動が実に馬鹿らしい。
「じゃ、いってきます」
もはや誰も残っていない我が家に対して奈々枝は頭を下げたのだった。
「………」
「ん?どうかした?」
「い、いや………何してるんだろうと思ってな」
「ああ、挨拶?………本当に何も覚えてないのね?」
そういってかなりしょげたような顔になっていた。
「え?あ、その、なんだ?えっとだな………あのさ、小さい頃の俺ってどんなやつだった?」
救護策というか、ごまかし案として共通のはずの時間を聞くことにした………まぁ、俺は記憶喪失で全然昔のこと………小学三年生以前のことを覚えてはいないのだが。
「えっと………とりあえずおとなしかったかな?けどさ、友達とかあんまりいないようだったよ?本しか読んでなかったし、誰かが話しかけても意図的に無視してた」
「………根暗まっしぐらだったのな」
成長したときの姿がめがねかけてパソコンやってそうなイメージだ。
「けどさ、ある日珍しいことが起きたんだよね」
懐かしそうに青空を見上げる奈々枝。
「へぇ、何がおきたんだ?」
「えっとね………あるとき一人の子が泣いてたんだ」
「ふんふん、それで?」
「小学生ってさ、ふざけて何か物をとったりするじゃない?それでさ、そのときあたしのお財布が盗られたんだ」
早速金目のものに目をつけるとはガキの癖にしては一番悪いことじゃないか…………まぁ、人のことを言えた義理ではないのだが。
「クラスで一番の悪がきでさ、誰もがそいつが盗った事をわかってたんだけど仕返し怖かったから黙ってたの」
そりゃそうだな。
「俺も確実に黙ってるだろうな」
「そうよね」
なぜだかにこりと笑って奈々枝は笑っていたのだった。
「おいおい、そこはそんなの間違ってるわよ!っていうところじゃないのか?」
「ううん、それでさ、その子も勿論先生とかにいってなかった。ただ黙ってみてただけなんだけど………あるときさ、その財布をあたしに返してくれたんだ」
「へぇ、どうやって?そいつ、その悪がきを校舎裏にでも呼び出してぼこぼこにしたのかよ?」
「い〜や、呼び出されたのはあたしだよ。それでさ、校舎裏で財布を渡してくれたんだ。ただ、それだけ」
「はぁ?」
「返してくれたのかって聞いたら首を振ってただ一言………」
「………盗った」
「そう、そう言ってた」
驚いたような顔をして奈々枝は俺を見る。ふと、俺はなんだか変な気持ちになっていた気がした。
「………話を続けてくれ」
「えっと………ありがとうってお礼をいえずにさ、そのまま過ごして………けどね、その根暗な子にも友達が出来た。隣からその子が読んでいる本を覗き込むようにしてさ」
「………」
記憶の断片というものだろうか?ふと、俺は………なんだか忘れていた記憶がよみがえりそうな気がした………だが、それはあくまで気のせいだった。
「………ま、今、そいつはどうなったんだろうな………」
「さぁ?」
奈々枝に言われて気がついたこと………なるほど、俺の始まりはもしかしてそれが発端だったのか?ううむ、とりあえず俺が今するべきことは………
き〜んこ〜んか〜んこ〜ん
「って遅刻じゃないか!」
「い、急ぐわよ!」
手なんか繋ぐ事無く、俺たちは全く同じスピードで走り始める。
「奈々枝、意外と足速いな?」
「え?そう?ただ蒼疾の足が遅いだけじゃない?」
「い、いってくれるじゃねぇか!」
みよ!これぞ某ロボットアニメを見て作成した俺の最高傑作!
「これぞ三倍の速度を誇る赤い角!」
「あ、い〜なそれ!」
「あっ!?」
赤い角をあっさりとられてそれをそ、装着しただと!?
「おお!本当に早くなるのね、これ!」
「な、なんとぉ!?」
見る間に残像を残して俺の目の前から去って行ったのだった。
そして、無常に鳴り響く本鈴。
「…………はぁ」
とぼとぼと歩いていると向こうから怪しい男が走ってきた。手にはバックが握られている。
「誰かぁ!ドロボウよ!捕まえて!」
「どけっ!」
俺の右肩にあたっていってそいつはすぐさま消えちまった。
「ああ、だれかぁ!」
後ろからやってきたおばあさんに俺はバッグを手渡す。
「どうぞ、さっきのドロボウは当たった衝撃でこれを落としていきました」
「ありがとう………」
そんなことをしているうちに…………というか、そのまま俺はやってきた警察などからお礼などを言われている間にどんどんと時間が経過していくがまぁ、既に警察から学校へと電話はされているのでこれでセーフ。
意気揚々と歩いていくと校門のところで一人の女子生徒が立っていた。
「遅い!」
「って、待っててくれたのかよ?」
「勿論じゃない………」
少しだけ間が開いてから奈々枝は口を開いた。
「今回も助けてあげたの?」
セピア色の映像が頭の中に現れるがそれはノイズを伴って姿を消す。
「………いいや、これが初めてだな」
そういって俺は再び奈々枝の隣に立って校門を通過したのだった。