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第六話:「信じる生徒は……」

七海「日々、救われぬ時間を過ごしてます。いつ評価がくるか……」奈々恵「自業自得とはまさにこのこと……」七海「いや、あなたが悪いですよ!」菜々子「世界は愛で回ってる」奈々恵「先輩がおかしくなった!」七海「これも蒼疾さんのせいです!」奈々恵「まぁ、九割はそうだとおもうけどね。一割は七海のせい」

第六話

「え〜、次のうちあなたが信じられるものを答えてください」

 現代国語の問題を書き終えて唐突に蒼疾がクラスをぐるっと見る。もちろん、蒼疾がこんなことをするクラスは彼が受け持っている三組だけである。

「一、お金、二、友人、三、自分自身、四、その他……じゃ、今日は……」

 誰にしようかと探す。普段だったら足利伊万里が自ら手を上げたりするのだが今回は真剣に悩んでいるようで制限時間内に手を上げることがなかった。

 そういう理由で蒼疾が当てたのは珍しく黒板をすばやく書いていた舞錐好だった。

「最近、めっきり出番がなくなったような気がしますから」

「お、お情けであたしを当てたんですか!?」

「いいえ、珍しく黒板を書いていたからです」

「……信用できないんですけど」

「信用してもらわなくて結構です。先生とあなたたちとの間にあるものは教えてあげてお金をもらうと教えてもらってお金をあげるというギブ&テイクで成り立っています」

 当然だといわんばかりの口調だった。うわっ、黒い!とか叫ぶ生徒もいたがどこ吹く風みたいな顔をしていた。

「おかしいです、そんなの。信用とか絆とかじゃないんですか?」

 それに対して驚いた表情になる蒼疾。

「おや、これは珍しいですね……まさか、舞錐さんからそのような言葉が出るとは……」

「そうでしょうそうでしょう」

 もっとほめてくださいといった調子で舞錐好は胸をそらす。多分、それは皮肉だよと誰かが教えようとしたのだが舞錐好は聞いていないようだ。

「では、ここでひとつ面白いお話をしてあげます」

 そういって取り出したのは写真の貼り付けられたボードだった。どうやらブランドもののバックを受け取っているようだ。

「これはK、Mさんがバックを手に入れたときの写真です……プライベートのために目のところに黒線を入れさせてもらいました」

「……」

 クラス全員がそれが誰だかわかっていた……いまだにわかっていない本人以外は。

「はい、それでここにうつって顔がにこにこしている哀れな男の子が表向き、彼氏であるという人物です。裏ではこの女子高生の金づるでしかないという哀れな男子ですが……先生もこんな男子にはなりたくないですね」

 ここで気がついたようで本人は顔を真っ青にしていやな汗を流している。

「それで、彼とのデートが終わった後にわかれて彼女は友人にメール。内容は『マジ、ちょろい〜ブランド物ゲット〜三井君だけに貢いでくれる感じ?』はい、彼女ほど素直な人間はいません。この写真の彼女とセンスのいいギャグに拍手をしてください」

「……」

 誰一人として拍手をしようという気はないようだった。

「わかりました?ほら、この話が理解できたというのなら拍手をしてください」

 静かに拍手が行われ(クラス全員の視線が舞錐好へと向けられる)先生がそれを止める。

「さて、では……この話はここで終了。ほかに答えてくれる生徒は……」

「はい!」

 足利伊万里が手を上げる。

「おやおや、やはり熱心な生徒です、足利さん、どうぞ答えて下さい」

「私は四番を選びます」

 その他とかかれており、蒼疾はあごに手をあてて足利伊万里へと向き直る。

「ほぉ、具体例は?」

「それは、愛です!」

 おおっという声が聞こえてきた。足利伊万里がその言葉を発するときに恥ずかしがってつまらなかったためである。

「ほぉ、愛ですか?」

 それを鼻で笑う男性教師天川蒼疾。彼が生徒に教えることは多分、教科書のことだけだろう。生き方とかそういったものを彼は教えるような性格をしていない。

「ええ、お金だって友人だって自分自身だって信用するには愛が必要です。お金が好き!これは少なからずの愛です!好き≒愛です!」

 蒼疾はそれを聞いてあごに手を再びつける。

「……そうですねぇ、そのような見方もあるということですね」

「でしょう!」

 おおっという声がここでまたあがってきた。あのひねくれ教師を納得させたからである。それに対して蒼疾は内心むっと来たのだが納得してしまったので話を続けさせる。

「ほかに例をあげてください」

「えっと、た、たとえば人を好きになったとします」

「ええ、それで?」

 緊張しているのかがくがくとした調子で頬を真っ赤に染める。それを見てクラスの全員(蒼疾をはずす)が足利伊万里は恋をしているということに気がついていた。

「たとえ、それが些細なことだったり小さいころの約束とかで……」

「ああ、先生後ろのほうは経験済みです。まぁ、それがすごいことになってここに逃げてきたんですけど」

「え?」

「いえ、妄言でした。続けてください」

「こほん、本当に些細なことでもその相手はそれがうれしくてうれしくてたまらない時だってあるんですよ」

「あ、それわたしわかるかも」

 そういって白い肌の榎本小夜が立ち上がる。

「初めはとっつきづらい人だなぁと思っていたんだけど実際話してみると意外といい人だったりすること!ギャップがすごいなぁっていうか、かなり優しい人じゃないかなぁって思っちゃって気になることない?」

「ああ、それあるかも」

 クラスの女子たちはそういってうなずきあっている。しかめっつらをして蒼疾はその話に茶々をいれる。

「そうですか、そんな人はいるとは思いませんけどねぇ」

 蒼疾がそういうと榎本小夜は笑っていたのだった。

「まぁ、ともかく、愛が重要であるということは否定しておかないであげましょう。先生はそこまで物分りが悪いほうではありませんから」

 しかし、顔はしかめっ面だったので頭では理解してるが身体では拒絶しているという矛盾したことが蒼疾のなかで起こっていると生徒全員がすぐにわかった。

「ま、それならそれでかまいませんが……逆に信用できないことを何か一人ずつ言ってください」

 そういって蒼疾は左の席から当てていくのだった。

 始まった信用できないものリレー……上がってくるのは日本の政治、金の問題、男、天動説、地動説、宇宙人がいるという証拠にネッシーの映像……etc

「おやおや、最後までいったのにこのクラスの副担任が出ませんでしたね」

「まぁ、先生はうそをつきませんからね。信用は出来ます」

「そうですか、まぁ、誰か一人でも先生の名前を出したら担任をまた呼び出そうと思っていましたから」

 全員が震えだしたのだった。無論、言った本人もおびえている。

「せ、先生も震えてますけど?」

 篠原岬が突っ込むが蒼疾は首を振っていた。

「これは人間として当然の行為かと……」

「それだけは人として納得できると思います」

 しばしの間クラスが一致団結(足利伊万里と榎本小夜は首をかしげていた)し終えて蒼疾がため息をついた。

「まぁ、そのぐらいにしておきましょう。いずれ、チャイムも鳴りますから」

 そういった直後にチャイムが鳴り響く。

 そんな午後のひと時。


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