フェアリーブレイヴ第二幕開幕 第一話:「私は教師になりました」
蒼疾「どうも、久しぶりですね………教師になった天川蒼疾です………以上、解散」
フェアリーブレイヴ 第二幕開幕
第一話
一朝一夕女学校……といってもここは以前まで女学校だったが今では男子入学オーケーな共学制の学校である。
「………」
しかし、実際に入ってこようとする男子は少い、というかこれまで例が一度もない。理由は以前からこの地域にあった別の共学制の高校へと進むからである。そして、今年もまた男子生徒は一人として入学してこなかった。
本日から新学期が始まり、先生にとってはあらたな生徒たちが、また生徒たちからしてみれば新しい先生と出会う日でもある。
ここに、一人の男性教師が校門をくぐっていったのだった。
――――――
ざわめきたつ教室内にチャイムが鳴り響き、生徒たちは席へとつく。そして、黒板側の扉が開いて一人の男性教師が入ってきた。教壇へ出席簿を静かに下ろす。
「はい、はじめまして……今日からあなたたちのクラスの副担任になった天川蒼疾です」
自己紹介をしたのはいいのだがその教師の視線は校庭のほうに吸い寄せられていて声にも気迫というか、やる気がこもっていない。端正な顔立ちをした美男子なのだがやるきねぇというオーラが漂っている。
数人が男性教師の見るほう、つまり校庭へと視線を向けた。
すると、男性教師は眉をゆがめあからさまに不機嫌なオーラを出し始める。
「……失礼ですね、先生は今、自己紹介をしている最中なのに校庭なんかに視線を送るなんて」
「……」
理不尽な物言いにはぁ?とした顔もいたが、いや、先生が見ていたから釣られてみましたとかはさすがにいえるような雰囲気ではなかったのでだまりこむ。
「好きなものはお金、嫌いなものは知恵をつけ始めた子供ですね……そうですねぇ、ちょうどあなたがたがそれに一致するかと」
「……」
それなら何でお前は教師になったんだと誰かが小声でつぶやこうとしたがそれもオーラで黙殺される。
「このクラスの中で一番頭がいい人、手を上げてください」
誰一人としてあげるものはいなかった。
「失礼、質問を変えましょう……この中で一番成績がいい人、手を上げてください」
大して変わっていないような質問を生徒達に浴びせ、理解した生徒達の視線が一人に向けられる。
「あなたですか、名前は?」
「え?わ、私ですか?私は……足利伊万里です」
「いちいち名前に振り仮名とか必要ないですから。あなたの名前を読めない人なんて小学生低学年ぐらいですよ。今度から行動などに厳しく指導とかしていくのでそこのところ注意をしておいてくださいね」
「は、はぁ…わかりました」
いまいち状況がわかっていないという風にうなずいて足利伊万里はぼーっとしていたのであた。蒼疾はなにやらノートに書き込んでいる。
「じゃ、次に一番成績が悪い人」
一人の生徒に視線が集まる。
「え?あたし!?」
髪を茶髪に染めている一人の女子生徒が驚いたように辺りを見渡す。
「そんなに悪い?」
「本人自覚なし、最悪と……あなた、名前は?」
「あ、あたしは舞錐好ですけどぉ?」
「やれやれ、何で語尾に疑問符がつくんですか疑問符記号があるからっていい気にならないでくださいね疑問符記号があるからこそ、このように読みづらくないんです感嘆符わかってますか疑問符どうです疑問符読みづらいでしょう疑問符」
生徒の中からうわ、読みづらいなと声があがる。注意された舞錐好はぎょっとしてうなずいていた。
「は、はい!今後は記号を大切にします!」
「またそんな記号を使って……まぁ、いいです。今後はさまざまなところを見ていきますから心に入れておいてください……さて、話は変わりますがあなたたちは先生が最初に言ったことを覚えていますか?」
全員が首をかしげている。校庭を見ていたのでさして覚えていない。
「残念ながら先生はこのクラスの担任ではありませんから」
「!?」
クラス一同驚いて先生を見る。
「じゃ、じゃあ先生はどこの担任ですか?」
「どこの担任でもありませんよ」
「え?」
「先生はこのクラスの副担任ですから」
「……」
沈黙。誰一人として声を出す人はいなかった。
「まぁ、今日はこのぐらいにしておきましょう……ああ、そうそう、先生が受け持つ教科は国語ですから」
廊下に出る前にそういったが誰一人として返事をしなかった。先生が扉を閉めてから生徒の一人がため息をつく。
「はぁ、変な先生がきたなぁ……」
「はい、あなたの名前は?」
「ひっ!?」
窓際の生徒の横から蒼疾の顔が伸びてくる。どうやら聞き耳を立てていたらしい。
「えっと……篠原岬です」
「地名ですか?」
「違いますっ!」
「まぁ、そんなことはどうでもいいとして……」
先生の瞳がきらりと光る。
「変とはどういった意味でしょうか?」
篠原岬は友人たちに助けを求める視線を送るが、誰一人としてこの先生を相手に回してまで友人を助けようとする人たちはいなかった。誰も助けは来なかったのだがそれが正しい判断だと篠原岬は思った。
「答えられませんか?まぁ、あなたが言った意味での変だとすれば普通ではないこと、異常だとか、奇妙だとか……先生、そのように見えますか?」
外見的には大丈夫だ。どこもおかしくないし、むしろかっこいいほうである。
「い、いいえ。外見は変ではないです」
「そうでしょう、訂正してください」
「え、ええっと……かなり精神異常をきたしていそうな先生がきたなぁと……あはは……あれ?」
篠原岬はうけを狙ってそういったのだが、わかりましたとだけつぶやき、蒼疾は窓から首をぬいて篠原岬に告げた。
「なるほど、精神がおかしいと……わかりました、先生はこれから精神病院に行ってきます。異常かどうか診断してもらうために」
「……」
もはや答えられることもなく、ただただ呆然とクラス全員が消え去った教師を見送ったのだった。