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フェアリーブレイヴ 狭間 参

蒼疾「次回、多分最終回、以上!」

フェアリーブレイヴ:狭間

「絶望が生み出すもの」

 絶対に人がやってこない暗い森。そこには俺と七海だけがたっていた。けっしてそれは楽しい空気ではなく、殺伐としたもの……俺の額からは冷や汗が流れていた。

「……蒼疾さん、あなたにはここで死んでもらいますから」

「な、七海、その……手に持ってるやつ捨てろよ」

 あいつが握っているもの……それは出刃包丁だ。両手で持たずに片手で持っており、切っ先は俺の……俺の心臓へと向けられている。

「捨てろ?いいえ、これはあなたを殺すために必要なものですよ、蒼疾さん」

「じょ、冗談はやめろよ、な?」

 一歩一歩、近づいてくる七海に対して俺はそれよりも早く逃げようとする。瞳孔が開いていて目に輝きなんてものはない。俺の息はぜんぜん運動もしていないのに上がっていて心臓は先ほどから普段の三倍ほどのスピードで動いていた。血が全身に流れているのがわかる。

「何で?………よく、そんなことがいえますね?」

 かすかに空から降り注ぐ太陽が包丁を鈍く光らせる。

「仲良く帰ってきていませんでしたか?かわいい後輩と一緒に」

 おとといのことが思い返される。

「あ、あれは……」

 あれは……あっちから……誘ってきたのだといおうとしてそこで俺は背を向けて走り出していた。

「あの日は私と一緒にあそぶって約束してましたよねぇ!?」

 そんな声が追いかけてくる。

「し、知らないっ!」

「……そうですか……わかりました」

 その後、無言で後ろから追いかけてくる七海。後ろを振り返っている暇などなかった。

「はぁっ!はぁっ!!」

「……」

 息が自然とあがってくる。このままだったらすぐに追いつかれてしま……

「ぐあっ!!」

 複雑に張り巡らされていた木の根っこに足をすくわれ、俺は無様に両手をついて転んでしまった。どうやらかなり打ち付けてしまったようで右足が動かない。

「……死んでください、蒼疾さん」

「ななっ……」

 振り落とされた出刃包丁は俺の肩に刺さっていた。

「……楽には殺しませんから」

「ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 俺の声とは思えない声があがる。激痛どころではなく、熱い。滴る血が地面へと吸い込まれていく。

「…苦しんで!苦しんで!苦しんでくださいっ!!!」

「あがっ……うがっ……」

 右胸、肝臓、下腹……幾重にもめったざしされていき、俺の体は赤にそまっていく。絶望しかない。

「しねぇっ!!!」

 最後に振り上げた包丁の刃が紅く鈍く光、俺はぼーっとしたままその光景を眺めていた。

――――――――

「うわっ!?」

 振動の鼓動が走っているときと同じテンポで脈打つ。

「……夢かよ……」

 最悪の夢だった。最近仲良くなった……というより、昨日告白してきた七海の夢だったが惨殺される夢だなんて……

「……正夢には……ならないよな」

 胸糞悪いままベッドから降りて俺は夢の中で七海にさされた場所を確認する。一瞬だけ血が流れているような錯覚があったのだが、錯覚は錯覚。

「……なにも、ないよな?」


ぴるるるるる……


 携帯が鳴り出し、少しだけ驚いてからそれが誰だか確認。一瞬だけ迷ったが七海との会話に望む。

「もしもし?」

『おはようございます、蒼疾さん。あの、まだ寝てました?』

「いや、今起きたところ……」

 まぁ、七海に起こされたな。否、殺されたか。

『そうですかぁ、私が起こしてあげようと思っていたんですけど……』

「ああ、それなら大丈夫だ……夢の中に七海が出ていたから」

『え?ほ、本当ですか?』

 なぜだかぎょっとした調子だ。どうしたんだろうか?

「うそじゃないぞ」

 俺を殺そうとしていたからな。あれで目が覚めないやつは相当……地球サイズぐらいの心臓だろうな……だが俺はそんな心臓など持ち合わせておらずたぶん、こぶし大だ。

「あ〜えっとだな……」

『どうしたんですか?』

「俺はお前だけが好きだから」

 せめて現実だけでも勘違いされては大変だ。

『えっと……朝からそんな、少し恥ずかしいです』

「いや、大切なことだ。勘違いしないでほしいが俺はお前だけが大好きだから」

 しばしの間、七海は沈黙。そうだろうな、俺だって七海からそんな真剣な声で言われたら固まる。

『私も蒼疾さんのことが大好きですよ♪』

 それを聞いて安心した。とりあえず、今日殺される心配はないようだ。ほっとしたらなんだか俺は……俺を殺したやつの顔が見たくなった。

「……えっとな、今日、休日だろ?だからさ、会えるかな?」

『はい、大丈夫ですよ?どこかに行きますか?』

「いや、俺の家に来て何かして遊ぼうぜ?」

 夢は夢だ、それ以外の何ものでもない。あんなものは俺じゃないし、七海じゃないはずだ。まだ七海のことなんてほとんど知っていないかもしれないがあんなに笑って頬を朱に染める恥ずかしがり屋が俺を殺すわけないだろ?

――――――

「お、おじゃましまーす」

「いらっしゃい」

 リビングに通してお茶を出す。お茶菓子は適当にあったものを出すことにした。

「あ、これどうぞ……」

「え?」

 一瞬だけ、ポーチから取り出したものが出刃包丁に見えた気がした……それは単なるお菓子だった。

「お母さんから粗相がないようにって言われて持ってきたんです」

「わざわざいいのになぁ……」

「いえ、せっかく娘をもらってくれたお礼だからとか言っちゃいました……しつれいしちゃいますよね?」

「ああ、確かにしつれいだよなぁ……こんなにかわいいのに」

 テーブルにひじついてそんなことを思う。腰に届かないぐらいの長さのたおやかな髪にパッチリした瞳……少し細めの眉にばっきゅぼんではないが満足できる身体……どこをとっても美少女だ。性格だって清楚で、可憐で、優しいのだ。頭のほうはというとそんなによくないらしいがそんなに悪いというわけでもない。いわば普通だ、成績は。

「あの、蒼疾さん?」

「え?ああ……なんだ?」

「どうかしたんですか?ボーっとしてましたよ?」

「いや、だってこんなにかわいいのになぁって思ってたんだよ……」

「そんな………恥ずかしいですよ」

 俺は何を言っているんだ…やれやれ。

「それより、何で俺なんか選んだんだ?」

 ふと、思う。学業だってそんなによくないし、顔も普通だろう……運動だってそんなにできるってわけではない。俺より容姿、能力など高い連中は俺の高校にはたくさんいるはずなのだ。

「私は蒼疾さんが好きですから……今回の席替えで隣になれたことがうれしいですよ?」

「おいおい、答えになってないぞ」

「蒼疾さんを好きになった理由はですねぇ……」

「うんうん、なんだ?」

「秘密です」

 がくし……もしかして何かたくらんでいるんじゃねぇか、こいつは。大体、俺が女子に告白されること自体がおかしい。これはもしかして夢なのでは?

「それで、蒼疾さんが私の……こ、告白を受けてくれた理由は?」

「え?そりゃあ……前からあこがれてたりした人から告白されたらうれしくねぇか?」

 俺の場合は少しだめだ……というより、多情なのかもしれない。人に勝手にランクをつけてそのまとまりの中の誰かと仲良く慣れたらいいなぁと思っていたぐらいだから……いいや、そんな気持ちでいたらいけないんだろうな。

「あこがれてたんですか?私に?」

 不思議そうに俺を見る。

「ああ、そうだ」

 視界の隅に入れていたのだからほかの連中より気にかけていたんだろうな、俺は。

「それは……うれしいです」

「そりゃよかった」

 そこから何もしゃべらない。お互いになにやら気まずい……しかも、かなり悪いほうの気まずい雰囲気が流れ始める。

「……」

「……」

 すでにお茶の中身は冷えていたりする。

「こ、こんなことを言うのはとてもおかしくて気持ち悪いかもしれません」

「何だ?言ってみろよ」

「……今日、蒼疾さんを……殺す夢を見たんです」

「!?」

 俺は言葉を失った。俺が殺される夢を見て七海が俺を殺す夢を見た……

「そ、それってどんな夢だ?事故で俺を殺しちまったとか?」

「いいえ、森の中で弁明をしている蒼疾さんにそのまま包丁で……刺してしまう夢なんです。それで、それが勘違いだったってことにあとで……あとで気づいてしまう夢でした……ううっ、それで、怖くなって急いで朝蒼疾さんに電話を……ううっ」

「……」

 俺は近づいて七海を抱きしめ頭をなでていた。しかし、心の中では別のことを考えていた。俺が死んだ後の光景を七海は殺した側だから知っているのだ。それと、弁明をしていたといっている。

「どんな弁明だった?」

「えっと……誤解だ、七海!俺は昨日ずっとゴンゾウと一緒にいたって……いってました。それと、死ぬ間際に痛い!って……」

 思い出したのかそのままなき始める。

「な、なくなよ。ほら、俺は死んでないからさ」

 普通だったら気持ち悪がっただろう……だが、俺だって細部は違っているが似たような……殺される夢だが……ものを見ているのだ。俺は七海以外の女子と……ごにょ…をして後悔して殺され、七海は俺の家へと入っていくその姿を見て俺を殺した後に後悔をした。両者とも後悔しているのだ。

「わ、私のことを気持ち悪いとは思わないんですか?」

「そんなことはおもわない……」

「い、今のうちに別れたほうが……いいかもしれませんよ?」

「……」

 俺は強引に唇を重ねた。

「……ばかっ!俺はいやだ!絶対にお前を離さないから!」

「……蒼疾さん……」

 もとはといえば俺が原因なのではないか?俺が七海以外の女の子と仲良くしなければ七海が切れることなんてない。七海はこんなにかわいいのだ。それ以外にどこに目を移せばいいんだよ……

 挑むように七海の瞳を見ているとしっかりとした光が彼女の瞳から見てとれた。

「私もです……ほかの人には絶対に……絶対に蒼疾さんを渡しませんから!」

「……」

 その瞳の奥にさらにしっかりとした意思を感じられる……俺は再び七海と唇を重ねた。

「……」

 俺は思うのだ……この約束が敗れたとき夢は現実になるだろうと。逆を言えば、ここまで七海が俺のことを思ってくれているということを夢は見せてくれたのだろう。

 ただ、ただ今はこのかわいくて泣き虫な女の子だけを見続けていこうとしか思えなかった。


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