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仮想姫  作者: イサキ
1章 依頼
7/13

1

 人は、誰しもみんな腐ってる。

 人である以上変えられない現実。

 それは、俺も例外ではない。

 もし、俺が唯一の例外だったなら・・・・・・

 きっと、【仮想姫】なんてくだらないものは作らなかったはずだ。



 あんな忌まわしいもの、生まれさせはしなかった・・・・・・



 結局は、俺もみんなと変わらない【人間】ってやつらしい。


 腐ってて

 汚くて

 醜い

 例外なんて存在しないゴミクズ


 その1人なんだ。






 ☆ ☆ ☆





 午前9時


 いつもの時間に目を覚ます。

 学校へ行くには少し遅い時間。

 眠いと訴えかける瞼をどうにか開いて、突っ伏していた作業机から離れ、座っていた椅子から立ち上がる。


「少し作業をやり過ぎたかもな」


 眠さの原因は昨晩、遅くまでやっていた作業のせいだろう。

 切りのいいところで終わるつもりだったがつい熱が入ってしまい中々切り上げることができなかった。


「全く、俺らしくないな」


 資料が散乱し全く片付けられていない机を目の前につい口癖になってしまった言葉を漏らしてしまう。

 それもまた、日常になってしまっているから困ったものだ。


「さて、そろそろ準備を・・・・・・ん?」


 おそらく、昨日からログインしっぱなしになっていたであろう仮想世界への入り口、【仮想メガネ〔自称〕】を定位置に持っていくと視界の隅に見慣れたマークが映り、右手をそのマークへと持っていき、軽く左に投げる。


「あいつも毎日懲りないな」


 マークの正体は、チャットへメッセージが届いたことを知らせる合図。

 俺は、差出人と内容を知っていてあえて読まないことにする。

 正直、読んでやってもいいが朝の忙しい時に無駄な時間を消費できるほど俺は暇じゃない。


「誰が好んであんなとこ行くかっての」


 読みもしない【メッセージ】への文句を口にしながら、いつもの作業服を着ると2階の自室を出て階段を降りながら視界の右上にある時計を確認する。


「9時20分か・・・・まあ、たまには少し早くてもいいだろ」


 1階についてすぐに準備を始めた。

 自室とは違い、片付けの行き届いた少し広めの部屋。

 棚にならんだ書物を整理し、昨日という日常をすべてリセットしてコンピュータに電源をいれる。

 やはり、3年もやるとなれてくるもので手際よく作業が進むものだ。



 まず、行動に迷いがないもんな



「さてと」


 あとは、外に出てドアプレートを変えるだけ・・・・・・というところでドアベルが来客を知らせ、それに招かれた少女がこちらへと駆け寄ってくる。


「深夜お兄ちゃ~ん!!!」


 勢いのままに俺に抱きつく少女を背中で受け止めると彼女は俺の背に顔をすりすりと擦り付けていた。


「なな。危ないだろ」


「だって、今日はお店が空いてる日だから1秒でも早くお兄ちゃんに会いたかったんだもん」


「だからってな・・・・・・はぁ」


 彼女、倉島七葉はそう言うと俺に体を寄せるように腕に力を込めた。

 本当はなにか言い返してやるつもりだったが、彼女の様子を感じて言いかけていた言葉を飲み込むことを選択する。


「なな、今日も学校に行かないのか?」


「うん。深夜お兄ちゃんのお手伝いするの!」


 「そうか」とわざと無関心そうに答えると「そうだよ!」と俺の背から離れ、脇から俺の顔を見上げて満面の笑みを見せる七葉。

 俺は、そんな彼女の頭を軽く撫でてやる。


「なら早速、手伝いを頼む。今日は、注文があった品をとりに数人客が来るからその準備よろしくな」


「うん!」


 差し出した注文書を受けとると何が嬉しいのか、七葉はまた笑顔で「準備してくるね!!!」と店の奥の品物を保管している部屋へと駆けていく。

 その小さな背を見ながら俺は、大きなため息をついた。


「あいつは、本当に強がりなやつだな」


 おそらく彼女は俺が気づいていないとでも思っているのだろう。

 だから、あんな無理に明るく笑顔を作っているんだと言うことは俺が1番知っている。

 まだ、小学生だと言うのになぜ、あそこまでして自分を偽ろうとするのか?

 さっきだって本当は、何かに怯えていたはずなのに俺に見せたのは笑顔。



 俺の視界に入ってくるまでずっと背中で震えていたくせにあいつは・・・・・・



 『カランコロン』とドアベルが新しい来客をしらせて、俺の思考は別のことへ変わる。

 準備中になっているはずのドアプレートは七葉が勝手に変えたのだろう。

 俺は、さっきまでやっていた作業をやめて入り口から1番遠いところにある会計近くの椅子に座る。

 すると、客として入ってきた男性はいつものことのように俺に軽く手を振るとこちらへと近づいてきた。


「やあ、【彼女】の様子はどうだった?」


「来ていきなりそれか? 一応ここは店なんだから来客への挨拶ぐらいさせてくれよ」


「どうせ、初めからそんな言葉を僕にかけるつもりもないんだろ?」


「ご名答だな」


 ふざけたように言葉を交わして、男性と俺は軽く笑う。


「なら、誰が来客を歓迎してくれるんだ?」


「そいつだよ」


 俺が指をさすと、男性が自分の後方へと視線を移す。

 そこにいたのは、綺麗な顔立ちをした1人の女性。

 そうとう驚いたのだろう、男性は視線をその女性へ向けたまま、一言もしゃべらない。


「まあ、厳しい状態ではあったが、どうにかなったよ。ついでに面白いこと教えておいた」


 俺が合図をすると、女性は軽く頭を下げる。


「いらっしゃいませ。【sleepy princess】へようこそ」


 そして



「・・・2度と私の前に姿を見せるな!!!」




 男性の頬を思いっきりひっぱたいた。

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